産経新聞の矢板明夫記者がこの訪日について頼氏に単独インタビューし「多くの日本の友人から『就任前にも来てほしい』と誘われている」と明かしつつ、「今のところ具体的な計画はない」ものの「台湾と日本の友好関係に利することであれば、なんでもやりたいと考えている」と訪日に前向きな姿勢を示した。
周知のように、頼氏はワシントンで催される「ナショナル・プレイヤー・ブレックファスト」に出席するため2月3日から米国を訪問し、親台派として著名な共和党のマルコ・ルビオ上院議員や外交委員会のジム・リッシュ委員長(共和党)、同委員会民主党幹事のロバート・メネンデス議員、同委員会の東アジア・太平洋・国際サイバーセキュリティー政策小委員会のコリー・ガードナー委員長(共和党)と続けて会談、大物議員と相次いで会談して多大な外交成果を挙げている。
「武漢肺炎」こと「COVID(コヴィット)19」の感染拡大が杞憂される中、日本政府は4月に中国の習近平・国家主席を国賓として招く準備を着々と進めている。このことから、就任式の5月20日までの頼氏の来日実現には政府が難色を示しそうでかなり難しい局面が想定される。
しかし、防衛省は4月に太平洋地域の島嶼国の中で軍隊を有するパプアニューギニア、フィジー、トンガの国防大臣やアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、フランスの局長級を東京に招いて国際会議を開く予定だ。防衛省が大臣級の国際会議を主催するのは初めてと伝えられ、太平洋島嶼国や関係国との関係を強化することで中国の影響力を排除したい狙いがあると報じられている。
習氏来日と同月に、このような中国の嫌がるような大規模な国際会議を開催するなら、すでに米国への訪問を果たしている「民間人」の頼氏来日に問題はあるまい。ましてや法的な障害はない。出来得る限り実現して欲しいものだ。
—————————————————————————————–台湾、5月に就任式 頼清徳氏 副総統就任前の訪日に意欲【産経新聞:2020年1月17日 1面】https://www.sankeibiz.jp/econome/news/200216/ecb2002161902005-n1.htm
【台北=矢板明夫】1月11日に行われた台湾の総統選挙で副総統に当選した頼清徳氏は16日までに、台北市内で産経新聞の単独インタビューに応じ、5月20日に行われる就任式の前に「機会があれば、ぜひ日本に行ってみたい」と訪日に前向きな姿勢を示した。頼氏は2月上旬に台湾の次期副総統として初めて訪米し、トランプ大統領ら米国内外の要人が出席した大型会議に参加するなど台湾の存在感をアピールした。頼氏の訪日が実現すれば、日台関係は大きく前進する。
頼氏は日本訪問について「今は具体的な計画はない」としながら「多くの日本の友人から就任前に来てほしいと誘われている」とも語り「台湾と日本の友好関係に利することであれば、なんでもやりたい」と意欲を示した。今後の日台関係について、頼氏は「関係を発展させるのにまだやれることはたくさんある」とし、スポーツ交流の具体的な提案として「台湾のプロ野球チームが日本のプロリーグに参加できれば面白いと思う」と話した。
中国発の新型コロナウイルスの感染拡大については「中国の不透明かつずさんな対応」が要因との見方を示した。そのうえで、中国の妨害によって、台湾は世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)などの国際組織から排除されているため、最新の情報が入らず予防対策に影響が出ていることを明らかにした。
頼氏は「こんなことをするのは、人権を無視する独裁国家だけだ」と中国の対応を批判した。
1月の総統選挙で、蔡英文総統が約817万票という史上最高の得票で勝利したことについて、頼氏は「台湾の有権者が民主主義を守ろうとした意志」と「民進党政権の改革姿勢が評価された」と分析した。同時に、中国による選挙介入に対し、台湾当局がしっかりした対策を取ったことにより、介入の影響を小さく抑えたことも関係していると指摘した。
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台湾の民主化 世界が評価【産経新聞:2020年1月17日 5面】
親日的といわれる台湾の与党、民主進歩党の中でも、頼清徳氏は日本との関係を最も重視する政治家の一人として知られる。東日本大震災直後の2011年4月、台南市長だった頼氏は、市民の募金を自ら持参して友好関係にある仙台に駆け付け、被災者たちを直接見舞った。さらに2カ月後の同年6月、台南市民ら約300人と一緒に同じく観光交流のある栃木県日光市を訪問。当時の日光市は放射能汚染の風評被害で、観光業が大打撃を受けていた。悪い噂を打ち消すことが訪問の目的で、先頭に立った頼氏は「行こう日光」と大きく書かれたTシャツを着ていた。
日本に対して理解があり、日本の政界、財界に知己が多い頼氏が副総統に当選したことは、今後の日台関係に大きなプラスになることは言うまでもない。5月20日に就任する予定だが、それまでは、頼氏は一人の民間人にすぎない。本来ならば、日本を訪問することは外交上何の問題もなく、中国から文句を言われる筋合いはない。現に頼氏は2月上旬に米首都のワシントンを訪れ、米国の要人と会談している。
しかし、日本政府や外務省の中には、中国を刺激することを恐れ、特に習近平国家主席の国賓としての訪日への影響などを考慮して、台湾との要人交流に反対する勢力がある。頼氏の日本訪問が実現できるかどうかは、今のところ、流動的だと言わざるを得ない。
中国発の新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日本と台湾が連携して対応することが必要だ。次期副総統であると同時に、公衆衛生の専門家でもある頼氏の訪問を受け入れることは、世界保健機関(WHO)のメンバーではない台湾への支援であり、日本の国益にもかなう。ぜひ実現してほしい。
(台北 矢板明夫)
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◆主なやり取り
── 訪米の成果は
頼清徳次期副総統 台湾の次期副総統として先日、(米国内外の政財界人が招かれる大型会議)「ナショナル・プレイヤー・ブレークファスト」に出席した。とてもうれしく思う。訪米はとても順調で、多くの友人と会談した。現地のシンクタンクが主催するディスカッションにも参加できた。中国発の新型コロナウイルスの感染拡大問題で、米国各界から「台湾のWHO(世界保健機関)加盟を応援する」というありがたい言葉をいただいた。収穫の多い旅だった。今回、訪米が実現したのは、台湾の民主化の成果が世界で高く評価された結果だと考えている。
── 訪日の計画は
頼氏 多くの日本の友人から「就任前にも来てほしい」と誘われている。とてもありがたく思う。ただ、今のところ具体的な計画はない。台湾と日本の友好関係に利することであれば、なんでもやりたいと考えている。将来、訪日する機会があれば、ぜひ行ってみたい。台湾と日本の関係をさらに発展させるためにやれることはまだたくさんあると考える。産業交流はいま民間主導だが、政府がサポート態勢を構築すれば、さらに良くなるに違いない。台湾人も日本人も野球が大好きなので、カナダのチームが米大リーグに参加しているように、台湾のチームも日本のプロ野球リーグに参加できれば面白いと思う。
── 中国発のコロナウイルスの感染拡大について
頼氏 元医師としてコロナウイルスの感染拡大に高い関心を持っている。中国の不透明かつずさんな対策を憂慮している。発表されている感染者数や死亡率などの数字は本当なのか。外国の専門家を受け入れず、詳細な情報を明らかにしないため、ウイルスの発生源、感染ルートなど不明な点が多すぎるため、有効な対策が取れない。世界中が迷惑している。それと、武漢などの都市や街を強引な形で丸ごと閉鎖するやり方は本当に有効なのか、感染者とその家族の人権はまったく尊重されず深刻な人権侵害が起きている。中国発の悲惨なニュースを目にするたび、心配と同情の気持ちで心が痛む。
── 中国はWHO問題などで台湾排除をしている
頼氏 自国内で大混乱が起きているのに、中国当局は台湾をいじめることをやめようとしない。いまだに軍用機を台湾周辺に飛ばして、中間線を越えて軍事的緊張を作り出している。国際組織から台湾を排除することにも躍起になっている。台湾はいま、WHOのほか、国際民間航空機関(ICAO)のメンバーにもなっていないので、最新の感染情報も人的往来の情報も入ってこない。深刻な問題になっている。こんなことをするのは、人権を無視する独裁国家だけだ。世界は中国の本当の姿を知ることができたのではないか。
── 中国は台湾の選挙にも介入したが
頼氏 2018年11月の統一地方選挙で、中国による選挙介入がひどかった。その経験を踏まえて、今回(今年1月の総統選)ではネット上の監視体制、資金の流れのチェックを強化し、新聞には偽ニュースを指摘するコーナーを作るなど、しっかりと対策を取ったので、中国による介入の影響をある程度抑えることができたと考える。それよりも、私たちが史上最高の得票で勝利したのは、民進党政権の改革姿勢が評価され「香港のようになりたくない」という台湾の有権者が民主主義を守ろうとした意志を示したからだと考えている。
(聞き手 矢板明夫)