これでいよいよ総統選挙の幕開けかと思われたが、「二度と経営に戻らない」と宣言して予備選に臨むも惨敗を喫した郭台銘・前鴻海精密工業董事長は、いまだに出馬を模索しているという。
台北市長の柯文哲氏も出馬も取り沙汰されていて、郭台銘氏とのタッグも予想されているが、日本経済新聞は「柯氏は郭氏本人からの接触は否定しつつ、『まだ(郭氏側は)こちら側の質問に答えていない』とも発言し、連携に向け条件交渉をしていることを示唆した」と伝えている。産経新聞も「郭氏は、9月初めに出馬の是非を判断すると表明している無所属の柯文哲(か・ぶんてつ)台北市長(59)とも連絡を取って」いると報じている。
7月25日に緑党と三立新聞が発表した世論調査「明日が総統選挙投票日だとすれば誰に投票するか」によれば、民進党の蔡英文氏と中国国民党の韓國瑜氏の一騎打ちでは蔡英文氏に凱歌があがった。
・蔡英文:43.7% 韓國瑜:39.6%
しかし、柯文哲氏が加わる三すくみ状態と柯文哲氏と郭台銘氏がペアを組んだとすれば、蔡氏と韓氏はまったく同率の上、柯氏と5.4ポイント、柯・郭ペアに至っては2.2ポイントの差しかなく、誤差の範囲まで縮まる結果となっている。11月半ば過ぎに始まる総統選は接戦中の接戦が予想される。
・蔡英文:30.0% 韓國瑜:30.0% 柯文哲:24.6%
・蔡英文:29.5% 韓國瑜:29.5% 柯・郭ペア:27.3%
韓國瑜氏は党大会後の演説で「中華民国を守るのか、それとも滅ぼすのか」と檄を飛ばしたそうだが、元駐日台湾大使の許世楷氏は「台湾の場合、政権交代は単なる政権交代ではなく、祖国交代につながる」と喝破している。
鴻海の郭氏、台湾総統選 なお出馬模索か 国民党大会を欠席 SNSで存在感アピール【日本経済新聞:2019年7月28日】
【台北=伊原健作】2020年1月の台湾の次期総統選を巡り、対中融和路線の最大野党・国民党が28日に党大会を開き、韓国瑜・高雄市長を公認候補として正式決定した。独立志向を持つ与党・民主進歩党から再選を目指す蔡英文総統と対決する。ただ予備選で韓氏に敗れた鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)前董事長も出馬を模索しているとみられ、国民党陣営には分裂への危機感もにじむ。
「団結し、無能な蔡政権を引きずり降ろすぞ」。韓氏が北部・新北市内で開いた党大会で気勢を上げると、集まった党員から「当選だ!」と大合唱が起こった。韓氏は公認候補を決める党内予備選の世論調査で、2位の郭氏らに17ポイント以上の大差をつけて圧勝した。「庶民総統」を掲げ、経済格差の拡大に不満を抱く層の支持をテコに民進党からの政権奪取を狙う。
ただ党大会での党員の演説からは「団結しなければ絶対に勝てない」などと危機感もにじんだ。郭氏が離党して無所属から出馬すれば陣営が分裂し、蔡氏側に有利になる。郭氏は「海外にいる」としてこの日の党大会に姿を見せず、「団結」に向け課題がある現状が鮮明になった。
郭氏は総統選に集中するため6月に鴻海の経営トップを退き、「二度と経営に戻らない」と宣言した。予備選での敗北後も総統選からの撤退を一切明言せず、SNSでは予備選で掲げた0〜6歳の子どもを「国家負担で養育する」などの自身の政策を訴え続けている。活発な情報発信で存在感を維持し、出馬を模索しているとの見方が強い。
台湾メディアによると、郭氏の陣営幹部は郭氏が8月上旬に台湾に戻り、今後について態度を表明する可能性があると明らかにした。
郭氏の出馬に向けては複数のシナリオが浮上する。無所属から出馬すれば陣営分裂で国民党が不利になる。そのため党公認候補の韓氏が選挙戦で失言して人気が低下した際などに、代替の公認候補者になることを狙っているとの見方がある。前回の16年の総統選では、国民党は投開票3カ月前の15年10月に不人気な公認候補者を交代させた経緯がある。
また、総統選出馬が取り沙汰されている無所属の台北市長、柯文哲氏と連携するとの見方もある。柯氏は郭氏本人からの接触は否定しつつ、「まだ(郭氏側は)こちら側の質問に答えていない」とも発言し、連携に向け条件交渉をしていることを示唆した。
香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡るデモが拡大し、反中的な感情が高まっているのを受け、台湾でも対中警戒感が広がる。中国と距離を置く民進党の蔡氏に追い風が吹いており、郭氏も自身が出馬することで蔡氏を利する展開は避けたいとみられ、出方を見極めている。総統選の構図が固まるまでには曲折が予想される。