韓国とのFTAを視野に入れる台湾の梁英斌・駐韓台北代表部代表

韓国は1992年に中華人民共和国と国交を結ぶ一方で、台湾との国交を断絶した。未だに
台湾と韓国の間に国交はなく、今年が断交20年となる。日台の関係とよく似た状況だが、
台湾における日本観と比べると韓国への評価は低い。

 例えば、金車教育基金会は2年ごとに高校生や大学生を対象として「国際観に関するアン
ケート」を行っているが、2009(平成21)年の調査では「台湾に最も友好的な国・地域」
の1位は日本(44.4%)、2位が米国(41.6%)だったが、「友好的でない国・地域」の1位
は中国(82.9%)で、2位は韓国(33.3%)だった。それは、2011(平成23)年も変わって
いない。「台湾に最も友好的な国・地域」では1位が日本(56%)、2位が米国(40%)、
「友好的でない国・地域」ではやはり1位が中国(87.9%)であり、2位が韓国(47%)と
なっている。台湾の若い世代の対韓感情は、対中感情とともに悪化しているのが現状のよ
うだ。

 台湾の国民感情として韓国に対しては「弱いものいじめが大好きな国」というイメージ
が定着しているようで、日本の「嫌韓」感情以上のものが台湾にはあるようだ。しかし、
台湾では韓国ドラマで韓流ブームが起こり、韓国出身の歌手も多い。2004年のアテネオリ
ンピックにおいて、韓国の国技であるテコンドーで台湾の選手が初めて金メダルを取って
からはテコンドーにも人気があるという。

 このように複雑な感情を抱く韓国に、国交のない日本に大使館機能をもつ台北駐日経済
文化代表処があるのと同じように、事実上の駐韓台湾大使館がある。「中央日報」が梁英
斌・駐韓台北代表部代表にインタビューを行い記事にしていた。

 タイトルからして興味深い内容だ。日本の馮寄台・台北駐日経済文化代表処代表はこれ
まで一度も「台日FTA」に言及していないようだが、韓国の梁代表はFTAを視野に入
れている。記者の質問も、韓国人の感情を垣間見るような感じで面白い。いささか長い
が、下記に紹介したい。


韓国・台湾FTA締結を、中国市場進出も容易に
【中央日報:2012年2月8日】
http://japanese.joins.com/article/103/148103.html?servcode=A00&sectcode=A30

 台湾の未来と両岸関係の行方を決める台湾総統選挙が馬英九総統の再選で終わった。 国
民党と民主進歩党の薄氷対決が予想されていたが、56.6%対45.6%と9ポイント差をつけ
て国民党が勝利した。なぜ台湾国民はまた馬総統を選択したのか。 台湾人が描く台湾の未
来像はどんな姿か。 20年前に国交が断たれた韓国で、事実上の台湾大使の役割をしている
梁英斌・駐韓台北代表部代表に2日、インタビューを行った。

── 選挙の投票率は74%だった。1人当たりの所得3万5000ドル、人口2300万人の国で、
 これほど高い投票率となった理由は。

「台湾の国民は選挙を祝祭と考えている。1996年に導入された総統直選制は、ある日突然
空から降ってきたのではなく、闘争で勝ち取ったものだ。 台湾人は『法は勤勉な者の権益
は保障するが、眠っている人の権益までは保障しない』という言葉をよく使う。 自分の一
票で自分の未来が変わるという事実を信じているため投票場所に行く」

── 選挙の結果で見えた民意は。

「馬総統の執権4年間の業績を国民が評価した結果だ。馬英九総統の任期中、両岸関係は大
きく発展した。緊張が緩和し、両岸間の自由貿易協定(FTA)といえる両岸経済協力枠
組協議(ECFA)を締結するに至った。国民が馬総統の経済政策と能力を信任したのも
重要な理由だ。08年のグローバル金融危機後も台湾経済は成長を繰り返してきた」

── 馬総統が両岸関係の急激な改善を推進した背景は。

「馬総統が述べた12字の漢字の中にその答えがある。すなわち『経済を政治より前面に出
すものの、緊急でやさしいことを先にし、緊急でなく難しいことは後にする』(先経後政
先急後緩先易後難)という原則だ。また予測可能な未来に統一は見えないという発言もし
た。国民も概してこういう認識に共感したようだ」

── 中国という実体をどう受け入れて共存していくのかについて悩んだ末に選択した、
 非常に現実的な政策という印象を受ける。その中で両岸関係はどのように規定されるの
 か。

「最近、馬総統が両岸関係を定義した。『お互い相手の主権は認めないが、統治権につい
ては否認しない』(互不承認主権,互不否認治権)ということだ。これが両岸関係の基本
だ。統一か、独立かという政治的問題は現段階では何とも言えない。台湾の未来は国民が
決定していくことであり、特定の政党、特定の人が決めるのではない」

── 両岸交流はどれほどのレベルに達しているのか。三通(通郵・通航・通商)、さら
 には通婚が活発だと聞いた。

「今までは中国女性が台湾に嫁いで暮らすケースが多かったが、最近は台湾の人気女性芸
能人が中国の財閥2世と結婚した。 毎年2000人ほどの中国人留学生が台湾に来るため、今
後はキャンパスカップルも多く生まれるだろう。 毎週530便ほどの航空便が両岸を行き来
しているが、それでも足りない。両岸間の貿易と観光客の増加ペースに追いついていな
い」

── 分断国家の韓国の立場では非常にうらやましく聞こえる。

「台湾もここまで来る間、多くの浮沈を経験した。 台湾の現在の両岸政策は以前の韓国の
太陽(包容)政策と似た部分が多い。緊張緩和と和解を追求するという点でそうだ。両岸
の高官級の間で交渉を繰り返していくうちにお互い信頼が生じた。ところが南北は信頼が
なく、絶えず相手を疑っているように見える」

── 政権が交代すれば両岸関係がまた過去に戻る可能性はないのか。

「台湾独立世論が強い南部地方はもともと民主進歩党の票田だが、今回は国民党が躍進し
た。これを見ると、今後、民主進歩党と国民党の両岸政策はますます中道に近づいていく
と予想される。どの政党が執権しても平和安定が両岸関係の基調になるだろう」

── 両岸関係の改善は台湾経済にどれほど寄与したか。

「ECFAが締結された2010年の経済成長率は10.88%を記録した。私たちは台湾経済の
中国依存度を25%ほどとみている」

── 依存度が過度に高いという批判はないのか。

「台湾は世界貿易機関(WTO)加盟国だ。中国だけでなく他国との関係も重要だ。この
ため積極的なFTA政策を通してニュージーランド、シンガポールと交渉を進めている。
目標は10年以内に環太平洋連携協定(TPP)に加盟することだ。今後、韓国ともFTA
交渉を始めることを希望する」

── 韓国政府には働きかけているのか。

「韓国政府の関連部処と意見交換をしたことがある。今後、個別研究から出発し、共同研
究に入れば、韓台FTAの長所と波及効果が見えてくるだろう。民間団体にはずっと私た
ちの考えが実現するよう説明している。政府高官や財界人も興味を見せている」

── 韓国と台湾は主力商品が重なり、特に中国市場をめぐって競争関係にあるため、F
 TAを締結しても利点がないという見方もある。

「台湾は半導体、液晶表示装置(LCD)、発光ダイオード(LED)、コンピューター
部品、太陽光で頭角を現している。こうした分野は韓国の比較優位分野と重なるが、細部
では差がある。したがって競争よりも協力を通してシナジーを創出できると考える。韓国
企業が中国市場に進出するうえでも効果がある。もう一つ、文化コンテンツ産業で協力の
余地がある。韓流ブームが広がっているが、台湾は世界の中華圏市場を最もよく理解して
いる国だ。お互い協力すれば韓流の中華圏市場進出に台湾が役割を果たせるだろう」

── 今年は韓中国交20周年、韓国と台湾の断交から20年になる。韓国と台湾の経済交流
 は非常に活発だが、国民の相互認識はこれに伴っていないようだ。

「2010年の韓国と台湾の貿易総額は285億ドルだった。まだ最終集計は出ていないが、2011
年は300億ドルを超えたと予想される。両国はお互い5−6位の貿易パートナーだ。経済交流
がこのように緊密であっても、国民の相互理解は不足している状況だ。チョン・サンギ駐
台北韓国代表が述べたように、韓国と台湾の関係は‘低評価’されている。こうした点
で、3月末に台北の松山空港とソウルの金浦(キンポ)空港をつなぐ直航便が正式開通する
ことに期待をかけている。韓国と台湾の人的交流が増えるだけでなく、東京の羽田、上海
の虹橋空港までもつなぐ東北アジアの黄金商圏が完成されるという意味がある。松山空港
から虹橋空港までは1時間20分で到着する。すなわち、台北で朝食を食べた後、上海に行っ
て昼食を食べ、そしてソウルで夕食を食べられるということだ」

── 韓国で生活しながら感じた点は。

「赴任して1年半が過ぎた。韓国は経済成長が速い国という漠然な印象を抱いていたが、そ
の速度に驚いている。私から見れば、韓国人はみんな挑戦精神があふれ、常にトップを追
求している。しかし台湾の国民に比べて幸せを感じているようには見えない。 心の余裕が
足りないというか…」


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