中国共産党にとって台湾問題は「核心的利益」の筆頭であり、常に統一戦線工作の最重点の対象である。中国共産党は、台湾メディアへの浸透をはじめとして、台湾社会の中にその影響力を拡大しようとしている。
中国による台湾メディアへの浸透工作については、最近、ロイター通信がこれまでになく具体的な内容の記事を配信している。8月9日付けの‘Paid ‘news’: China using Taiwan media to win hearts and minds on island – sources’と題する記事で、ロイター台北特派員のYimou Leeらが書いたものである。Leeらは、台湾のメディア関係者等へのインタビューを基に、以下のような点を指摘する。
・国務院台湾事務弁公室は、台湾のビジネスマンを大陸に引き付ける努力に関する2つの主要な記 事に3万元(4300ドル)を支払った。
・国務院台湾事務弁公室以外の中国政府機関も記事を発注している。資金のほとんどは国務院台湾 事務弁公室経由で支払われたが、中国全国の市町村政府、地方政府も資金提供している。
・中国政府からの資金が収益の大きな部分を占めるようになったら、自己検閲をしないことは不可 能になる。それは中国に、台湾の政治を操り台湾人の民意に影響を与える余地を与えることにな る。既に、一部のメディアは自己検閲をするようになっており、中国が「敏感」と看做す天安門 事件の記念日などは、もはや、そうしたメディアのニュースには出てこない。
・国務院台湾事務弁公室はニュース記事配信キャンペーンを実施するための企業を設立した。これ らの企業は報道機関の営業担当者と連絡を取り合って、記事のトピックスと長さを注文している。
このロイターの記事は、中国側の特定の機関による台湾メディアの買収の実態について報じており、中国の公式機関である国務院台湾事務弁公室による台湾側メディアに対する買収工作が具体的金額を挙げて描写されている点は、特に興味深い。具体的金額を挙げた報道というのは初めてのことであるようだ。記事は、中国当局が「少なくとも5つの台湾のメディアグループに金銭を支払っている証拠を見つけた」としているが、記事に書かれたものは中国の対台湾工作のうちのあくまでも「氷山の一角」ではないかと思われる。
なお、7月17日付けのフィナンシャル・タイムズの記事‘Taiwan primaries highlight fears over China’s political influence’も、中国系の資金にからめとられた衛星テレビ局CTiTV(中天電視)とその系列の地上波テレビ局CTV(中国電視)が、韓国瑜(高雄市長、国民党の総統選公認候補)をバックアップする大々的なキャンペーンをする様子を伝えるとともに、CTiTV、中国時報(CTiTVおよびCTVとグループ関係にある新聞)の編集責任者が、国務院台湾事務弁公室から、中台関係や中国関連のテーマについて、毎日のように直接の指示を受けている、と報じている。
台湾のメディアへの国務院台湾事務弁公室からの浸透工作の実態が、西側にも次第に知られるようになってきていると言える。
中国の台湾への浸透工作は、もちろんメディアにとどまらない。今日では、中台間のビジネスの関係が拡大したことに応じて、中国で仕事をする台湾のビジネスマンに対する影響力の拡大をはかったり、また、台湾の若者たちが中国で就職したり、就学したりするときに、事実上の便宜を与えることの見返りに、影響力を行使したり、さらには、中国から台湾への観光客を一方的に一部禁止し、蔡英文民進党政権への締め付けを強化するなど、いろいろな浸透工作が行われている。
中国の台湾に対する工作は、来年1月の総統選挙を控え、蔡英文総統を追い落とすべく、ますます強まると見られる。