台湾の蔡英文総統は、8月12日から20日にかけて南米のパラグアイと中米のベリーズを歴訪、その往路と復路の双方において経由地の米国に立ち寄った。今回の米国立ち寄りでは、米国内において、台湾の総統としてはこれまでにない活発な活動を見せた。パラグアイとベリーズは台湾と国交を持つ残り少ない国(訪問時18か国、訪問直後のタイミングでエルサルバドルが断交したため現在は17カ国)であるが、むしろ訪米がメインであったかのような印象を受けるほどであった。
蔡総統は、往路においては、現地時間の13日、ロサンゼルス郊外のレーガン大統領図書館を訪問し、次のような内容の談話を発表している(‘President Tsai visits Ronald Reagan Presidential Library’,Office of the President Republic of China(Taiwan), August 14, 2018)。
・レーガン大統領の生涯にわたる自由と民主主義の価値へのコミットメントは、民主化の波を引き 起こし、ベルリンの壁を崩壊させ、冷戦の終結をもたらした。
・レーガン大統領が発表した「6つの保証※」は、米国の対台湾政策の重要な根幹をなし、米台2国 間関係を方向付けている。レーガン大統領の米台関係安定への貢献は計り知れない。
※:「6つの保証」:1.台湾への武器供与の終了期日を定めない。2.台湾と中国との交渉を 仲介しない。3.中国との対話を行うよう台湾に圧力をかけない。4.台湾関係法を改正し ない。5.台湾の主権に関する立場を変えない。6.台湾への武器売却に関して中国と事前 協議を行なわない。
・自由と民主主義の価値は台湾にとり重要であり、両原則および国益に沿って、他国と協力して地 域の安定と平和を促進する。
・レーガン大統領はかつて「我々の自由と我々の将来、この2つ以外は全て交渉の対象とし得る」 と述べたが、台湾人は今このことを痛感している。
一方、蔡総統は帰路においては、現地時間の8月19日、テキサス州ヒューストンにあるNASA(米航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターを訪問、米国の有人宇宙飛行の心臓部にあたるミッション・コントロール・センターを見学し説明を受けるなどした。
従来、米国は対中配慮から、台湾の総統が米国に経由地として立ち寄っても、公的活動を認めることはなかった。それが、今回は、レーガン大統領図書館での講演が認められ、政府機関であるNASAにさえ訪問することができた。また、ニュー・メキシコ州のスサナ・マルティネスと会談し、マルコ・ルビオ上院議員と電話会談し、コーリー・ガードナー上院議員(東アジア・太平洋・国際サイバーセキュリティ政策小委員会委員長)の私的訪問を受けるなどしている。なお、マルティネス知事との会談では、米国からのLNG輸入を含む、米台間の包括的エネルギー協力強化が話題に上ったという。注目に値する。
こうした、今回の蔡総統による米国の連邦レベル、州レベルの要人との会談、米政府機関の訪問は、まさに画期的であった。米台間の高官の交流を勧奨する「台湾旅行法」(今年3月に発効)の成果が早速表れたものと評価できる。米国の親台湾路線がますます強まりを見せていることを示唆している。NASAの施設訪問は、直接的な政治的意味合いはないが、米台間で航空宇宙技術を含む安全保障関連の先端技術に関する協力が進展するのではないかとの印象を与える効果はあるかもしれない
一方、蔡総統のレーガン大統領図書館での演説は、6月のAFPとのインタビュー(7月30日付け本欄『台湾・蔡総統、「現状維持」から「独立」へ?』において強調していた、自由と民主主義の価値の擁護を改めて前面に打ち出し、価値を同じくする国同士の連携を呼びかける内容であった。台湾の今後の外交政策のバックボーンが明確になってきたと言えよう。
上記の状況を総合すると、中台関係、台湾をめぐる米中関係は、いずれも緊張が高まる方向に向かっていると判断する他ない。