本誌がロシアによるウクライナ侵略を取り上げているのは「今日のウクライナが明日の台湾」になるかどうか、その1点に尽きる。ウクライナ侵略が台湾有事につながるかどうかだ。
ウクライナ侵略によってロシアが受けている経済制裁などを、中国がどう見ているのか、中国の台湾侵攻をとどめるもっとも効果的な抑止とはなにかについても、識者の見解を紹介していきたい。
昨日の本誌では、小笠原欣幸・東京外国語大学大学院教授の「ウクライナ侵攻に乗じて急に時期を早める可能性はないでしょう。習近平氏は自分のペースで統一に動いてきます」という発言を紹介した。
小笠原教授は「ウクライナ侵攻を受けて、日米や欧州、それにオーストラリアなどの台湾海峡への警戒心は高まり、備えを加速させるため、習近平氏はやりにくくなると言えます。ロシアは、中国の手の内を晒すようなことをやった」とも指摘し、この分析は傾聴に値する。
中国に「『やれる、と思わせない』ことが鍵」という指摘も重要だ。
そのために、日本の世論が重要だとも述べ、その理由を「日本の世論が『台湾有事に関わるべきではない』となると、政府も動けなくなります。日本が腰砕けになれば、アメリカ軍の作戦能力も制約を受け、中国からすれば『やれるぞ』という計算が出てきます」と説明している。
これは、自衛隊が駐屯していたり米軍基地があると中国の攻撃対象になり、地域住民が戦争に巻き込まれるから「戦争に巻き込まれるな」という主張にも当てはまる。中国の台湾侵攻を許してしまいかねないのは、日本の「台湾有事に巻き込まれるな」「戦争に巻き込まれるな」という声であることはしっかり肝に銘じたい。
中国ウオッチャーでもある国際政治評論家の宮崎正弘氏も、メルマガ「宮崎正弘の国際情勢解題」で連日、ウクライナをめぐる情勢分析を掲載している。
昨日発行の中で、「西側の対応は、台湾を大いに勇気づけたのではないか」と分析し、また「西側の反応の迅速さとNATO、EUの結束という予想外の事態が起きた」ことで「台湾侵攻にでると西側の制裁が、どうなるか。習近平は日々目撃している」とも述べ、中国の台湾侵攻を抑制する効果をもたらしていると見ているようだ。
ロシアへ転じれば「プーチンの思惑はみごとに外れた。ロシア国内の不満を抑えるのが先決問題と化したようである」と指摘する。下記にご紹介したい。
ちなみに2月24日、ロシアがウクライナに侵攻するや、ロシア国内52都市で計数千人がデモに参加し、この日だけで1,800人以上が拘束されたと報じられている。その後も抗議活動は続き、28日朝までの拘束者数は5,900人を超えたという。プーチン大統領も対応に焦る国内の反発だ。
本誌掲載に当たって、原題は「欧米でボランティアが続々、EU諸国の市民は救援物資&奉仕活動」でしたが「習近平が目撃した台湾を勇気づける西側の対応」と改めたことをお断りします。
—————————————————————————————–欧米でボランティアが続々、EU諸国の市民は救援物資&奉仕活動ポーランド、ルーマニア、英国、トルコ、モルドバに拡がる救援活動【宮崎正弘の国際情勢解題:2022年3月3日】
3月2日現在、ポーランドが受け入れたウクライナ難民は87万人! ほかにルーマニア、モルドバ、スロバキアなどに数万から十数万。いまも難民の列は続いている。日本も岸田首相は記者会見し、ウクライナ難民を受け入れるとした。
在日アメリカ大使館にはウクライナ国旗が掲揚され、連帯を表明した。エマニエル大使が指示したようである(今夕、米大使館前まで所要あり、確認します)。
救援物資が山のようにつまれたトルコのウクライナ大使館。古着も多いが簡便食糧、自家発電設備、ランプ、衣裳器具など。これを仕分けするためにも多くのボランティアがあつまっている。
ポーランドへの難民は暫時待機組だが、なかにはドイツを最終目的としており、ドイツ政府はシリア難民無制限受け入れに懲りずに、ウクライナ難民を無制限に収用する。
難民を運搬する列車の停車駅には附近の住民が総出で炊き出しをしている。車中へ食糧や菓子を差し入れている。赤ん坊にはミルクを。
英国では早くも20万人の難民を受け入れるテント村が出現した。
台湾からの留学生は全員がポーランドへ脱出に成功した(台湾『自由時報』3月2日)。
同日、台湾にUA871便で賓客が到着した。ポンペオ前国務長官夫妻ら一行12名だ。
前日までには台湾へ米国国防省元幹部、国務省元幹部等が台湾を訪問し、蔡英文、頼清徳(副総統)、蘇貞昌(首相)らと会談し、米国の台湾へのさらなるコミットを表明していた。ポンペオ訪台は、台湾から大歓迎を受けた。
ウクライナ危機で判明したこと、事態の変化、西側の対応は、台湾を大いに勇気づけたのではないか。
もし習が台湾侵攻にでると西側の制裁が、どうなるか。習近平は日々目撃している。そして台湾有事は日本有事として日本では義勇軍が組織されるだろう。かつて白団も、根本中将も台湾救援に向い、金門島の戦いで台湾の勝利を舞台裏で指揮したように。
東京のウクライナ大使館には志願兵登録が殺到したほか、物資(長距離輸送は大変)より現金の寄付がはやくも20億円を超えた。石原都知事が呼びかけての尖閣諸島購入資金は15億円の寄付があつまったが、そのペースを上回っている。
民間でも楽天の呼びかけに2億円以上が集まり、東日本大震災には及ばないものの異例である。楽天の三木谷社長は10億円の寄付を申し出た。
ほかにも市民団体がクラウドファンディングを呼びかけている。この一種熱狂はしばらく続くだろう。プーチンの孤立は、まさに信長の末路に近似してきたのではないか?
ウクライナの西南、黒海に面したオデッサから、歩いてもいけるのがモルドバ。
この国はロシアとの同盟国だったが公然とプーチン批判に転じた。難民の通過地点として、主にユダヤ人が1万人以上集合、イスラエルからの救援機を持っている。この列に逃げ遅れた中国人、そしてインド人の列が加わって大混乱の様相を呈している。(これらの国々の街の評定は拙著『日本が全体主義に陥る日』、ビジネス社の巻頭グラビア参照のほど)。
▼中国はどじった?
さて中国は?
相当深刻に慌てているようである。第一に情報の手抜かり、習は直前まで、ロシアの侵攻はないという情報をもたらされていた。第二にそのため在留中国人の脱出計画がなかった。珍しい手抜かりである。第三に経済制裁の恐ろしさはすでにウイグル問題で身に染みているが、まさか欧米がSWIFTからロシアを排除するとは!
中国はそれでも「西側のロシア制裁は違法だ。制裁に反対する」という立場を表明した。また中国のメディアは「侵攻」という語彙を一切使わずに報道している。
かくして西側の反応の迅速さとNATO、EUの結束という予想外の事態が起きた。
プーチンの思惑はみごとに外れた。ロシア国内の不満を抑えるのが先決問題と化したようである。
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