総統選を前に台湾にすり寄る中国、離れる台湾  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2023年9月13日号】https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。

◆中国は気に入らない防衛省現役職員の台湾派遣

 日本の大使館に相当する対台湾窓口機関、日本台湾交流協会の台北事務所には、外務省の職員は出向していますが、安全保障担当としては退役した自衛官が駐在しています。しかし今回、それに加えて、現役の背広組職員が赴任したというニュースです。

 さすがに、現役の自衛官の派遣は中国を刺激することになるため、背広組にとどめたとのことですが、防衛省が現役の職員を台湾に赴任させること自体、中国は気に入らないでしょう。中国のご機嫌を損ねてまで日本が現役の防衛省職員を台湾に駐在させる理由は、やはり台湾有事です。以下、報道を一部引用します。

<防衛省が日本の大使館に相当する対台湾窓口機関、日本台湾交流協会の台北事務所に現役の防衛省職員を派遣し、常駐させていることが13日、関係者の話で分かった。台湾有事への懸念が高まる中、台湾側との意思疎通や情報収集を強化するのが目的。中国が反発する可能性がある。>

<自民党と台湾与党、民主進歩党は2021年から外交、国防担当議員の会合「外務・防衛2プラス2」を開催。中国の台湾への軍事的圧力強化を踏まえ、安全保障分野での連携も深めている。政府・与党内では現役自衛官の派遣を求める声もあったが、中国を刺激しないよう背広組にとどめた。>

◆「モデル地区」という名の見え透いた台湾乗っ取り計画

 一方の中国も、中国がすべきことを粛々と進めています。こちらも以下、報道を一部引用します。

<中国共産党と中国政府は、台湾の対岸にある福建省に「両岸融合発展モデル地区」を設ける計画について、台湾統一に向けたプロセスを進めるためとして12日、21項目の方針を発表しました。

 このなかでは、台湾企業の進出を促すビジネス環境の整備や、台湾の人たちが福建省で働いたり、医療サービスを受けたりしやすいように社会保障を充実させることなどが掲げられています。

 また、福建省に近い台湾の離島の金門島などについて、福建省から電気やガスを通し、橋も開通させるなどして生活圏の一体化を進めて、発展を加速させるとしています。

 その上で、モデル地区の建設に向け共産党の全面的な指導を強化し、財政面などで支援を拡大させていくとしています。

 習近平指導部としては、台湾との一体化を進めるとともに、来年1月の台湾総統選挙を前に、経済協力を打ち出すことで台湾の世論にアピールしたい思惑があるとみられます。>

 総統選挙では、民進党の頼清徳候補がかなり有利となっている現状からみても、国民党にはもう任せていられない、ということで本丸が動いたということでしょう。

 電気、ガス、水などを中国から引いてあげるとの甘言で、金門島を取り込み、財政的・福祉的に優遇するとの甘言で、中国に進出している台湾の企業家たちを取り込み、総統選挙での影響力を強めようという作戦です。そして、この作戦を「モデル地区」という聞こえのいい言葉で包んでいます。

 しかし、これははっきり言って中国による台湾の乗っ取りです。今の中国は不動産不況をはじめとする財政難に陥っており、いつ破綻するか分からない時限爆弾のような状態です。そこで台湾をうまく取り入れることができれば、財政面での危機を乗り切れる切り札ともなります。政治的にも経済的にも、台湾は中国にとって必要なコマなのです。

 しかしそれは中国側の勝手な言い分でしかありません。先週、このメルマガでご紹介したように、中国は勝手に国境線や領海線を変更し、相手国の主張などお構いなしに、自国に有利な境界線をでっちあげました。台湾もこれと同じで、台湾を自国に取り込むことで有利になるなら、台湾の意志などお構いなしに自分のものにする。それが中国のやり方です。

 今や、中国は世界の工場ではありません。また、経済活動のしにくさから外資企業もあまり入って来なくなりました。今の中国は、まさに中身が空っぽの張子の虎です。

 海洋処理水のことで日本を必要以上に攻撃し、中国民の攻撃の目を日本に誘導しても、一時的なものでしかありません。習近平の愚策に溺れるほど台湾人も中国人もバカではありません。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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