昨日の本誌で、泉裕泰・日本台湾交流協会台北事務所代表は11月上旬に退任し、後任は、駐中国日本大使館勤務を振り出しに外交官をつとめてきた前ペルー大使の片山和之(かたやま・かずゆき)氏で、11月中に着任することをお伝えしました。
片山大使は流暢な中国語を話すことは経歴からも分かり、台湾はプライベートで5回訪れたことがあるそうです。
泉大使は台湾での評判も上々で、台湾誌の台湾国際放送は「2019年の着任以来、台湾へのワクチン提供や、台湾の農水産品の日本市場へのセールスをサポートに尽力、台湾と日本の友好関係を『黄金期』といえる現在の状態にまで高め、台湾の人々からも深く愛されました」と報じています。
泉大使が亡くなられた李登輝元総統を深く尊敬されていたことは、お会いしたときの話の端々から伝わってきます。また、李登輝元総統が亡くなられて丸2年、折しも安倍晋三・元総理が非命に斃れた直後の昨年7月31日、李登輝基金会主催の学術フォーラムにて行った泉大使の烈烈たる基調講演の講演録を読み、いっそうその感を深めました。
泉大使は「台湾のことを思う若者を育てる種をまいた李元総統の偉大さ」について着目したのは「李登輝元総統が、その政治人生をかけて力を注いだ『台湾アイデンティティ』の強化」でした。まったく同感です。李登輝元総統が力をそそがれたのは、民主主義ではなく、台湾人としてのアイデンティティを高めることにありました。
片山大使にも「台湾が主権を守り、現状を維持し、生存を確保していくための体制」づくりに寄与しようと尽力した泉大使の意志を受け継いでくれることを願って、その講演録をご紹介します。私ども民間も泉大使の意志を体し、日台関係の正常化に微力ながら力を尽くしたいと思います。
なお、講演録の掲載にあたり、見出しを「李登輝元総統と台湾アイデンティティ」と付したことをお断りします。
—————————————————————————————–泉裕泰代表による『脱古改新:預約台日下一個五十年』学術フォーラムでの挨拶【日本台湾交流協会:2022年7月31日】https://www.koryu.or.jp/news/?itemid=2962&dispmid=5287
蔡英文総統、財団法人李登輝基金会の李安[女尼]董事長、台湾シンクタンク共同創設者の林佳龍先生、会場にお集まりのご来賓の皆さま、こんにちは。日本台湾交流協会台北事務所代表の泉裕泰です。本日、かくも盛大な学術シンポジウムが開催されるにあたり、このような晴れがましい場においてキーノートスピーカーとしてお話させていただくことを大変光栄に感じております。
昨日、李登輝元総統が身罷られてから丸2年を迎えました。また、今月8日には李登輝元総統を師と仰ぎ、台湾を支援するための発言と行動を惜しまなかった安倍晋三元総理が非業の死を遂げられました。
あまりにも突然のことに、私自身もいまだに信じることができません。日台関係を引っ張って来られた李登輝元総統と安倍元総理という、二つのエンジンを相継いで失った日台関係は、これから新たな荒海の航海へと乗り出して行かねばなりません。しかしながら、流動する国際情勢は、私たちが不安に立ち止まることを許してはくれません。
本日はこの場をお借りし、交流協会台北事務所代表という職責を離れ、日台関係のさらなる深化を心から願う一個人として、私の考えをお話ししたいと思います。
安倍元総理が今月8日に亡くなられると、交流協会台北事務所では7月11日から7日間、追悼会場を設置しましたが、この間に弔問に訪れた方々は合計1万3千人あまりとなりました。追悼会場を設置した日数も、弔問に来ていただいた人数も、世界各国に設置された日本の在外公館のなかで突出した数字であり、私自身これほどまでに多くの台湾の方たちがいらしたことに驚きを禁じ得ませんでした。
私も、暑い中を訪れてくださる台湾の方々にせめてもの御礼の気持ちを表したいと思い、できる限りの時間、献花台の横に立っておりました。
台湾の政界、経済界等からも沢山の方々が弔問にいらして下さいましたが、それに加えて安倍元総理が微笑むお写真を前に涙を流す方、感謝の気持ちをしたためた手紙をお持ちになる方、車椅子から立ち上がって最敬礼をして下さったお年寄りや、小さなお子さんの手を引いたご両親、若者たちのグループまで、本当に多くの台湾の市井の人たちが手に手に花を持ち、その真心を伝えに来てくださったことを目の当たりにいたしました。
現在確かに非常に良好だと評される日台関係ですが、外国のいち政治家である安倍元総理の追悼のために、なぜかくも沢山の台湾の方々が追悼に訪れて下さったのでしょうか。それは、安倍元総理が、台湾民主化の父たる李登輝元総統と同様に、台湾の民主主義を守るための発言をためらわなかったばかりか、国際社会に向けて台湾の重要性を絶えず訴えかけ続け、台湾の民主主義が守られるよう、ともに支援していこうと呼びかけ続けたからに他ならないと私は考えています。
李登輝元総統は、1988年に総統となられて以降、反対する勢力を時に説き伏せ、時には権謀術数によって削ぎ落とし、台湾を一歩ずつ民主主義のステージに押し上げました。1996年3月に実現した総統選挙は、台湾の人々が自分たちの一票によって台湾のリーダーを選ぶという民主主義の集大成だったと言えます。その後は3回にわたって政権交代が実現し、今や台湾の民主主義はゆるぎない確固たるものとなりました。民主主義への移行を、一滴の血を流すこともなく成し遂げた李登輝元総統の業績は永久に輝き続けるものと考えます。安倍元総理も台湾の民主主義を高く評価するとともに、台湾の戦略的重要性を理解していたからこそ、台湾への支援を惜しまなかったのです。
私は「台湾の将来は台湾の人々自身によって決められるべきである」と思っています。台湾の確固たる民主主義の存在がそのことを主張しています。もちろん、台湾社会には多様な意見が存在し、対立する主張がぶつかる事態も多々生じていることは承知しています。しかし、言論の自由が保障され活発な議論が交わされている現状こそが、成熟した民主主義の存在を表していると思います。
そのような前提のもとで、台湾の将来について、あるいは台湾と中国の関係について、台湾の多くの人々が現在望んでいるのは「現状維持」ということだと認識しています。今年6月に政治大学選挙研究センターが行った調査では、将来のことはさておき、台湾が置かれた状況は現状維持が望ましいと答えた割合が9割近いという結果が出ています。この回答のなかには、将来的には独立したい、あるいは中国と統一したい、もしくは永遠に現状のままがよいといういくつかの回答も含まれますが、「ともかくまずは現状維持を希望する」という考えが台湾社会の大きな趨勢を占めていることは明らかです。
では、台湾がこの「現状」を維持していくためには何が重要なのでしょうか。それは、李登輝元総統が、その政治人生をかけて力を注いだ「台湾アイデンティティ」の強化にほかならないと私は考えています。李元総統は「台湾アイデンティティ」の意味を問われると、簡潔に「台湾はわれわれのものであり、われわれのふるさとであるという認識を持ち、台湾のために奮闘努力しようという気持ち」と表しました。私は、この李元総統の説明はまた「台湾人として大いなる自信と誇りを持つこと」と言い換えることができると思います。
私が、交流協会台北事務所の代表として着任してからまもなく3年になろうとしています。この3年あまりの間、私の目には、「台湾の人々が台湾人であることにますます自信をつけている」ように映ります。
率直に申し上げて、私が2019年に交流協会台北事務所の代表として着任した際には、国際社会における台湾の重要性を現在ほど理解していない国も数多くありました。例えば、私が着任まもなくお会いしたヨーロッパのある国の代表が唐突に、私に対して、「台湾は何故重要なのか」と尋ねて来たのに驚かされたことがありました。おそらく、この代表の頭のなかには、国際社会における台湾の戦略的な重要性について認識しているのは日本と米国だけであり、自分たちヨーロッパの国々には関係がない、経済的な関係が強化できれば良い、程度に思っていたのではないでしょうか。
しかし、それから間もなく、世界の目が台湾に惹きつけられる事態が次々と発生します。それまで日米など一部の国しか台湾の戦略的な重要性を理解していなかったと思われた状況から、世界中の国々の台湾に対する認識が変わっていきました。同時にそれらの事態が台湾の人々に自信を持たせることにもなった例をいくつか挙げたいと思います。
2020年の年頭から始まった新型コロナウイルスの蔓延により、世界は感染の恐怖に陥りました。世界中の人や物の流れが停滞し、経済が下降線をたどる状況が現在もまだ終焉していないことは周知のとおりです。日本ではマスクが不足し、手に入らないことで大きな騒ぎになりましたが、台湾は先手を打ったマスク生産によって供給を確保するとともに、「Taiwan can help」を合言葉に、何の見返りを求めることなく日本をはじめとする世界にマスクや医療物資を寄付してくれました。本当にありがとうございました。
また厳格な水際対策と、デジタルを活用した防疫政策により、台湾は8か月以上もの間、「域内感染者ゼロ」を維持し、出入国が困難になったこととマスクの着用を除けば、ほぼコロナ以前と変わらない生活を日々送ることが出来ました。日本や欧米各国がその経済成長をマイナスに停滞させるなか、2020年には台湾だけが3%台のプラス成長を確保し、2021年には驚異の6.28%を記録したのです。
台湾は2000年代前半のSARSの流行を教訓に、感染症対策を着々と準備してきたと聞きます。残念ながら、台湾は国連をはじめとする国際機関に加盟しておらず、WHOの年次大会にも参加がかなっていませんが、世界から「防疫の優等生」と称賛された台湾のコロナ対策と世界への貢献、そして台湾だけが成し遂げたコロナ禍における経済のプラス成長は、世界の台湾に対する目を開かせ、台湾の人々の自信を大いに高めたことと確信しています。
経済面においてもうひとつ、台湾の人々が大いに自信を持つべきだと思うことがあります。それは、今やこれがないと社会がまわらないとさえ言われる「半導体」であります。私たちが片時も手放すことのできないスマートフォンやパソコン、自動車から家電、産業ロボットからミサイルまで、もはや半導体の存在なしに世界経済を語ることは不可能な時代となっています。
今や、半導体製造の代名詞ともいえるTSMCの名前は、すでに多くの日本人にとって馴染み深いものとなっています。日本や米国のみならず、台湾から遠く離れたヨーロッパの国々までが台湾の戦略的な重要性を認識し始めた要因のひとつに、台湾がもはや世界経済で欠くべかざる半導体の一大サプライヤーであり、グローバルな半導体サプライ・チェーンにおいて、どの国も取って代わることの出来ない存在になったことにあります。
米国も日本もこぞって工場誘致を希望するTSMCに代表される、台湾の半導体産業もまた李登輝元総統が種をまいたものでした。農業経済を専攻し、コーネル大学留学中には統計学の計算のため、草創期のコンピュータにも触れたという李元総統は、台北市長時代には市政にいち早くコンピュータを取り入れるなど、最先端の科学技術に対して強い関心を持ち、徹底的に勉強しなければ気が済まない性格から、何冊もの専門書や論文を読み、専門家顔負けの知識をお持ちだったと聞きます。そのような先見の明を持った李元総統が「半導体産業は台湾にとって重要な防衛産業であり、TSMCは国を守る重要な存在になる」と考えたのは当然のことだったでしょう。
同時に、台湾が中国に呑み込まれるのを防ぎ、台湾として存在していくために「圧倒的な技術が必要」という李元総統の戦略的発想には舌を巻かざるを得ません。事実、今やTSMCは台湾経済を牽引するのみならず、李元総統が名付けたとおり「護国神山」として台湾の安全保障の後ろ盾となり、国際的な地位を向上させているのです。台湾の半導体無くして、世界経済は立ち行かないという事実は、台湾の価値を世界にアピールすることとなり、同時に、台湾の人々の自信に繋がっていると思います。
台湾が自信を持つべき分野は経済や科学技術、感染症対策、多様な文化など多々ありますが、もう一つだけ例を挙げましょう。それは台湾が歩んできた歴史です。
一般的に、台湾はこの400年あまりの間に、いくつもの外来政権によって統治されて来たと認識されています。「イラ・フォルモサ!」と台湾が発見されてから、太平洋に浮かぶこの麗しの島は、欧米列強にとっては東アジアのコーナー・ストーンと目され、争奪が繰り広げられました。オランダ、スペインに始まり、清朝、そして日本の統治を受け、李元総統にいたっては1994年に作家の司馬遼太郎と対談した際に「国民党もまた外来政権であった」と喝破されています。
そのような歴史を歩んだ台湾の人々にとっては、自分たちの運命を自ら努力して切り拓き、台湾のために努力する方法さえない境遇に甘んじざるを得ませんでした。李元総統の言う「台湾人に生まれた悲哀」です。
李登輝元総統は、その政治生涯をかけて「新しい台湾人とはなにか」を追求されました。自分の生まれ故郷のために何ら貢献することの出来ない「悲哀」を脱し、台湾が中国から離れて別個の存在として生存を維持していくためには「新しい台湾人」としての「台湾アイデンティティ」が絶対的に必要だというお考えからだったのでしょう。
何かに隷属するのではなく、台湾も台湾人も主体性を追求していくことが台湾アイデンティティの確立と強化につながっていきました。そして、その結果、現在では多くの若者たちが台湾の将来を真剣に考え、台湾のために何か役に立ちたいと考えをめぐらせています。大きな選挙があるたびに、故郷へ投票のために帰省する若者たちがニュースで報じられるのを見ると、これほどまでに台湾を愛し、台湾のことを思う若者を育てる種をまいた李元総統の偉大さを思わずにはいられません。
台湾の人々が「台湾アイデンティティ」を持ち、そのアイデンティティを強化していくことは、台湾が現状維持を続けていくうえで最も重要なことだと私は考えています。李元総統がおっしゃったように、台湾を自分たちのふるさととして誇りに思う気持ちが強くなれば、台湾の主権を守り、台湾人としての尊厳を失いたくないと思うのは当然のことだからです。
台湾が主権を守り、安全保障を進めていくにあたり、これまでは米国が強い関心とコミットメントを寄せてきました。しかし、当然ながら台湾は、米国のみならず、日本にとっても非常に重要な戦略性を有しています。安倍元総理の「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」という発言は、台湾が日米にとって絶対に失ってはならない存在だということを的確に表したものと言えます。しかし、残念ながら現時点において、日本は米国のように直接的に台湾の安全保障に関与することが出来ずにいます。
本年は、日本台湾交流協会が設立されて50年の節目を迎えます。つまり、1972年9月、日本と中華民国が外交関係を解消し、実務的な関係のみに限定することとして日本側に交流協会、台湾側に亜東関係協会が設立されましたが、台湾の安全保障については何ら規定されることはありませんでした。
1979年に台湾と断交した米国は、議会が「台湾関係法」を成立させ、外交関係がなくなった後も国家に準じた扱いをすることを規定するだけでなく、台湾の防衛について一定の責任を有することを明確に示したのとは対照的でした。
安倍元総理の発言は、日本において少しずつ幅広く共有されつつあるように思われます。同時に、日本が得意とする経済分野においては、日本と台湾が今すぐにでも相互に補完し、関係を強化できるものがたくさんあります。日台ばかりか、全世界が直面するエネルギー問題、たとえば太陽光発電やクリーンエネルギー、先ほど申し上げた半導体、バイオテクノロジーや再生医学など、数知れない分野での協力が可能です。
例えば、台湾新幹線は、台湾北部と南部を一日生活圏として一変させ、台湾のビジネスやレジャーのあり方を一変させました。台湾でも安全運行が徹底され、日本と同様に一度も大きな事故を起こしておらず、もはや台湾社会にとってなくてはならない足になったものと、ひとりの日本人として自負しております。
また、李元総統は著書『日台IOT同盟』のなかで、日台が半導体産業に代表される電子産業分野においてまだまだ協力の余地があると説いておられます。台湾の半導体産業の強みに、日本の半導体製造装置と材料供給における協力を拡大することで、台湾の半導体産業のサプライ・チェーンがより完全なものにすることが出来ます。
つまり、日本の世界トップレベルの技術力と、数十年にもわたって蓄積されたケミカル分野での材料開発はどの国にも取って代わられることのない日本の優位性です。この日本のアドバンテージと、台湾の先端技術が連携することで、日台の半導体産業における協力関係はより高いステージに上ることができると言われています。
このように、日本は数多くの分野において台湾に貢献し、台湾とともに関係を強化していく分野がまだまだたくさん残されており、そこに日台関係のさらなる深化の大きな可能性が隠されていると思います。
私自身が台湾で働くにあたり、自らに課した最大の任務は、台湾のCPTPP加盟を全力で支援することです。ひとくちにCPTPPと言っても、台湾にとってのCPTPPとは、決して国際的な経済枠組みに参加するものだけであるとは、私は思っておりません。台湾にとってのCPTPP参加は文字通り、台湾が現状を維持し、生存を確保していくための体制そのものだと考えています。
台湾は蔡英文総統の「新南向政策」によって新たな市場を開拓して、経済の独立性を一層確保していくこととしていますが、RCEPなどの多国間貿易体制が成立していくなかで、台湾もそうした多国間貿易の枠組みに着実に組み入れられていくことが必要です。
台湾は、人口も経済規模も、半導体に代表される科学技術力も、CPTPP加盟国と比べて全く劣ることがありません。台湾がひとつの経済体としてCPTPPの枠組みのなかに組み込まれていくことは、台湾の将来のためにどうしても必要なのです。私は、台湾のCPTPP加盟が実現するために、微力ではありますが引き続き出来る限りのお手伝いをしていきたいと強く決意しています。
思えば、CPTPPの前身ともいえるTPPへの交渉参加を表明したのは安倍元総理でした。年々、平均年齢が向上していく農業生産人口の高齢化に強い危機感を抱き、日本の農業がますます衰退していくであろう危機に直面することを見抜き、総理在任中の2013年にTPPへの交渉参加を決断したのです。従来、国内市場だけを念頭に置いていた農業を輸出産業にシフトさせるという抜本的な打開策を打ち出しました。
のちにTPPはアメリカの離脱により瓦解するかに思われましたが、安倍元総理がリーダーシップを発揮して、アメリカ以外のTPP参加国11か国すべてを取りまとめてCPTPPを創設し、環太平洋地域における自由貿易体制を守ったのです。
私は、安倍元総理は、将来的に台湾の加盟までを見据えてCPTPPを創設されたのだと信じています。安倍元総理が自由貿易に基づく環太平洋地域の経済体を作り上げようと主導されたその根底には、自由と民主を崇高の理念として徹底的に追求しようという堅い政治信条があったと思います。その意味で、この台湾に自由と民主主義をもたらした李登輝元総統を、安倍元総理が政治の師として仰いでおられたことは至極当然のことであると思います。
残念ながら、安倍元総理と、私自身も大変に尊敬する李登輝元総統と、日台をこれまでずっと支えて来られた大きな存在のお二人はすでに世を去られてしまいました。しかし、今や台湾は「自由で開かれたインド太平洋」において、東シナ海、南シナ海、太平洋という3つの海のチョークポイントに存在し、世界の耳目が集まる台湾海峡に面し、インド太平洋の戦略的に重要な地位にあります。
今年2月に勃発したロシアによる一方的なウクライナへの侵攻も、安倍元総理が理不尽なテロの銃弾に倒れたのも、どちらも民主主義に対する一方的な暴力による挑戦です。台湾の民主主義と自由が今後末永く維持されるよう、日本はこれからもできる限りの支援をしていくものと考えています。
最後になりますが、李登輝元総統がキリスト教徒であられ、私も同じ信仰を有する者として、聖書のなかの次の一節をご紹介したいと思います。
「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」
李登輝元総統が種をまいた台湾の民主化がよりいっそう豊かに実を結ぶよう、私たちはこれからも「実践躬行」の精神で努力してまいりたいと思います。
また、交流協会台北事務所に設けられた安倍元総理の追悼会場では、YouTubeで公開された、安倍元総理が60年ぶりに練習したというピアノで奏でられた「花は咲く」のメロディをBGMとして流しました。
安倍元総理が李元総統とともに絶えず訴え続けた日台関係のさらなる緊密化のために、どうか皆さん、ともに努力して大輪の花を咲かせていきましょう!李元総統と安倍元総理が天国から、私たちの努力を見守ってくださることを最後に念じたいと思います。
改めて、本日はこのような場でお話させていただき、大変な光栄に浴しました。本日申し上げたのは、私個人の考えではあり、発言内容は全て私個人の責任によるものですが、会場にお集まりの皆さまにとって多少なりともご参考になったのであれば幸いです。本日はどうもありがとうございました。
(※上記は個人的見解であり、所属機関を代表するものではありません。)
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