台湾総統選の核心にあるものは─意気軒昂の李登輝元総統  中嶋 嶺雄

今朝の産経新聞「正論」で、国際教養大学の理事長と学長を兼任する中嶋嶺雄氏が台湾
の総統選挙に触れつつ、退院された李登輝元総統のことや亡くなられた黄昭堂・台湾独立
建国聯盟主席について触れている。

 田久保忠衛副会長を団長とする本会の「役員訪台団」が退院された李元総統をお見舞い
したのは12月1日だった。中嶋氏のお見舞いはその後だったようで「相変わらずの意気軒高
であられた」のは何よりの嬉しいご報告だ。

 中嶋氏は黄昭堂氏について触れたくだりで「李登輝氏が黄氏を悼んで贈られた献花には
『痛失良友』とあった」と記されている。この胡蝶蘭の献花は、台湾独立建国聯盟本部に
設けられた祭壇に供えられていたもので、遺影の右手にあった。献花の中には、王金平・
立法院長や陳菊・高雄市長など台湾の方々に交じって中嶋嶺雄氏や池田維(いけだ・ただ
し)元交流協会台北事務所代表からの献花もあった。すべて胡蝶蘭だった。

 私どもが台湾独立建国聯盟本部に弔問した11月30日は、羅福全・前駐日台湾代表と蔡焜
燦・台湾歌壇代表にいろいろとお話しいただいた。亡くなられて約半月を経ていたが、ま
だまだ弔問に訪れる方が少なくなかった。彭栄次・亜東関係協会会長も訪れ、遺影を前に
日本語で弔辞を読まれたのにはいささか驚かされたものの、ねんごろに読み上げられる様
子は印象深かった。

 12月20日に東京で行われる「黄昭堂先生お別れの会」には、羅福全氏ご夫妻が台湾から
駆けつけて挨拶され、李元総統や蔡焜燦氏からのご弔辞も披露される予定だ。

◆黄昭堂先生「お別れの会」ご案内─安倍晋三・元総理や羅福全・元駐日台湾代表も参列
 http://melma.com/backnumber_100557_5359231/


台湾総統選の核心にあるものは  中嶋 嶺雄(国際教養大学理事長・学長)
【産経新聞:平成23(2011)年12月15日「正論」】

 台湾の総統選挙まで1カ月を切った。来年1月14日の投票に向けて、現地の世論もメディ
アもいよいよ白熱している中で、先週、訪台する機会を得た。大腸がんの手術で入院され
た李登輝・元台湾総統をお見舞いするためである。

◆李登輝氏天下国家大いに論ず

 わが国の国民、特に産経新聞読者には、李登輝さんの病状をお気遣いの方も多いと思わ
れるので、ここで報告させていただくと、11月1日に行われた手術は6時間半にも及んだも
のの大成功で、李登輝さんは半月後には退院され、化学療法や放射線治療もせずに現在、
静養に専念しておられる。

 間もなく満89歳と、ご高齢なので大事にしていただかなければならないが、李登輝さん
は、いかにもクリスチャンらしく、「神が私にもう少し働くように救ってくれた」とおっ
しゃっていた。私を相手に、台湾の馬英九政権の中国傾斜への危惧や、日本の野田佳彦政
権の経済政策への懸念など、話が天下国家のことに及ぶと、相変わらずの意気軒高であら
れた。

 そんな李登輝さんにとっての痛恨事は、11月17日の黄昭堂・元台湾独立建国連盟主席の
不慮の死であった。李登輝氏が黄氏を悼んで贈られた献花には「痛失良友」とあったが、
政治的立場のいかんにかかわらず、黄氏の人柄と包容力は誰もが認めるところである。

 ちなみに、中国当局から台湾独立派としてしばしば批判される李登輝さんの一貫した立
場は、台湾はすでに主権独立国家だというものであり、黄昭堂氏らの考え方とは違う。だ
が、氏の運動には理解を示され、台湾がまだ「動員戡乱(かんらん)時期」つまり戒厳令
下にあって、台湾独立運動に加わった学徒が帰台できなかったころ、李登輝さんは私に会
うたびに、黄氏や許世楷氏(前台北駐日経済文化代表処代表)の消息を尋ねられた。私は
黄氏とは東大大学院時代からの学友で、私たちの「アジア・オープン・フォーラム」が
2007年に李登輝ご夫妻を「奥の細道」探訪にお招きした際には、旅のお相手として黄氏に
同行してもらった。

◆残る1カ月で中国はどう出る

 黄氏の死は、最大野党の民主進歩党支持の「みどり陣営」にとって痛手ではあろうが、
民進党総統候補の蔡英文氏は、与党の中国国民党の馬英九総統の「大英」に対して「小
英」といわれながらも、かなり善戦しており、世論調査でも馬総統を急追している。しか
し、もともと国民党が強い台北市でのごく短期の滞在中に知り得た限りでは、国民党秘書
長の経歴を持つ親民党の候補、宋楚瑜主席が出馬しているにもかかわらず、やはり現職優
勢のようであった。

 となると、残り1カ月間に中国がどう出るのか、中台関係の将来がどうなるかが焦点であ
ろう。

 1996年の総統選挙に際しては、中国が李登輝総統の実現を阻止すべくミサイルの発射演
習を行って台湾を威嚇し、これに対し、米国が2組の空母戦闘群を現地に急派して一気に緊
張が高まった。中国はよもや今回は、この台湾海峡危機の時のような出方はしないであろ
う。しかし、台湾との関係いかんを最大の対外戦略に据えて軍事力、特に海軍力を増強し
ている中国だけに予断は許さない。

 その中国が、対台湾政策の根拠にしているのが、いわゆる「九二年合意」である。馬総
統はこの10月、新たに中国との「平和協定」締結の構想を提起するなど中台関係の安定を
図ろうとしている。

◆「九二年合意」めぐる相違

 「九二年合意」とは、李登輝総統時代に設立された台湾側・海峡交流基金会の辜振甫代
表と、中国側・海峡両岸関係協会の汪道涵代表が、92年10月に香港で会談したときに生ま
れたといわれるものである。「一つの中国」では双方が一致しつつ、その解釈については、
中国側があくまでも「一つの中国」だとし、台湾側は双方で異なるとする、いわば同床異
夢を容認した内容だとされている。

 「九二年合意」は、民進党の陳水扁政権登場直前の2000年4月、当時の台湾・行政院大陸
委員会の蘇起・主任委員(現海峡交流基金会理事)がその存在を公表している。しかし、
当事者である故辜振甫氏も李登輝氏もそんな合意があったとは認めてはいない。

 辜振甫氏は、台湾の経団連にも相当する工商協進会の理事長という財界の指導者として、
「アジア・オープン・フォーラム」にも一貫してかかわられ、中国との関係についても、
私はその都度、氏から詳しくお話をうかがってきた。92年当時の李登輝総統は、中国との
関係では前年に制定した「国家統一綱領」の実現を課題に据えていて、中国から台湾に来
た人々の親族との関係や財産、墓地などの問題を処理する92年7月の「人民関係条例」の制
定に力を注ぎ、あの頃、「九二年合意」なるものに言及されたことはなかった。

 台湾の将来がわが国にとっても、アジアにとっても極めて重要であることは言うまでも
ない。台湾住民が、当面の経済的な利益のみならず、中台関係など外交・安全保障問題に
も着目して、賢明な選択をすることを期待したい。       (なかじま みねお)


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