台湾周辺海域の重要性と安倍元総理の功績  張 吉雄(紅毛港保安堂会長)

 2022年7月8日、安倍元総理が銃撃により倒れたニュースは台湾に大きな衝撃を与えました。

 というのも、安倍元総理は2021年12月1日、財団法人国策研究院文教基金会の要請による「新時代の日台関係」と題するビデオ演説で、「日本は台湾に対する武力攻撃を容認できない」「台湾有事は日本の有事、すなわち日米同盟の有事でもある」と述べ、台湾問題は、日本の防衛そのものと認識しておられたからです。

 また「自由で開かれたインド・太平洋すなわち、台湾と日本が位置する広大なインド・太平洋の海は、国際法の下で自由で開かれた海を維持し、もちろん、力によって一方的に現状変更することを許してはならない」とも述べておられます。

 そこで、台湾周辺海域の重要性と安倍元総理の功績を整理してみたいと思います。

1 台湾海峡はなぜ重要なのか?

 国際社会は台湾海峡の安全保障問題に注目し始めており、日本は10数年前に中国が台湾を併合しようとする野望と傾向をすでに察知していました。

 2002年10月、石破茂・防衛庁長官は、北東アジアの安全保障を議論した際、台湾を除外することは大きな虚構であり、北東アジアの安全保障問題で台湾を除外できないと指摘しました。

 2003年8月、ワシントンD・Cのヘリテージ財団が開催した台湾と米国及び日本の三カ国戦略対話で、駐タイ大使を務めた日本の学者、岡崎久彦氏が「中国が台湾を併合すれば、西太平洋を掌握し、米国の覇権に挑戦し、南シナ海のシーレーンを掌握し、東南アジア全体を中国の影響力圏に置き、日本と米国の重要な戦略的利益を損ねる」と語りました。

 2003年12月、日本の玉澤徳一郎・衆議院議員は、インタビューで「台湾の戦略的地位は特に重要であり、韓国、日本から台湾、フィリピンまで、中国に対する防衛態勢を形成しています。もし台湾が中国の一部になると、中国が太平洋に自由に出入りすることになり、大きな欠落点になる」と述べました。

 2021年7月13日、日本の親台湾派とされる岸信夫・防衛大臣は、閣議で最新の『防衛白書』を報告し、台湾を中国の章から初めて外し、米中関係の章とは別に4ページ半の長さで記述し、脚光を浴びました。

 防衛省が発表した白書の中国語版によると、台湾の章では次の2つの要約が提示されています。

 第1に、中国は、台湾南西部の空域に軍用機を侵入させることによって、台湾周辺の軍事活動をさらに強化させている。一方で米国は艦艇に台湾海峡を通峡させたり、台湾への武器売却などを通じて、台湾に対する軍事的支持を明確に表明している。

 第2に、中台の軍事バランスは、全体として、中国にとって有利な方向にシフトし、そのギャップは年々拡大している。我が国は、将来の中台軍事力の強化、米国による台湾への武器売却、台湾の主力装備の独立した研究開発に注目している。

 一方、昨年の日本の『防衛白書』では、米中競争の激化がインド・太平洋地域の平和と安定に影響を与える可能性があると強調し、東シナ海と南シナ海における緊張の高まりを非難し、「台湾情勢は日本の安全保障にとって極めて重要である」と初めて明記、日本政府が台湾海峡危機にますます関心を寄せており、ある程度の戦略的明快さを示し、地域紛争への関与を強めていることを示しています。

 なぜ日本は台湾海峡の安全保障問題を重視しているのでしょうか?

 日本はペルシャ湾の産油地域から1日平均100万バレル以上の石油を輸入しているため、少なくとも1日20隻の10万トン級の大型タンカーがマラッカ海峡と台湾海峡を通過しています。

 台湾海峡で戦争が起き、海峡が封鎖された場合、北東アジアからペルシャ湾までの航路全体ですべてのタンカーと商船は、輸送コストの大幅な増加のみならず、石油供給やマーケティングの断絶、経済の混乱を引き起こし、航行ルートを変更する必要があります。

 バシー海峡は日本経済の生命線であり、この海峡を通峡できなければ、インドネシア方面の海峡を経由しなければならず、マラッカ海峡を経由するよりも1,200マイルも長いフィリピン南部を航行することになります。あるいは、東ティモール海峡とニューギニアを迂回し、マラッカ海峡を経由して5,200マイル以上の行程に延長し、フィリピンの南方に向かうことになります。したがって、台湾海峡の平和を守るのは、日本の国益にとっては極めて重要です。

2 台湾の有事は世界各国の有事

 2021年4月に発行された英国のエコノミスト誌は、台湾をロックダウンするレーダーチャートを表紙に、台湾の西太平洋における地政学的価値を「地球上で最も危険な地域」と位置付けていることを示しています。

 台湾は第一列島線の中心にあり、19世紀のアメリカの戦略史家マハンが「中央に位置する」と呼ぶなど、大きな重要性を持っていると説明しています。

 全世界の主要な航路の中で最も重要な航路は、バシー海峡からマラッカ海峡を通り太平洋とインド洋を結ぶ海上航路で、これは日本が主張する1,000海里の海運の生命線で、台湾はバシー海峡と台湾海峡の間に位置しています。

 琉球は日本の地図に組み込まれて以来、台湾も日本から地理的に最も近い隣人であり日本海運の生命線上、最重要の戦略的位置にあります。

 台湾が中国に併合されると、台湾海峡は中国の内海となり、中国が太平洋に出るゲートウェイが開き、日本の海上生命線が遮断されるだけではありません。北東アジアの日本、韓国、東南アジアのフィリピン、ベトナム、インドネシアの国々も生存の危機に陥るのみならず、甚だしきに至っては第2列島線及び米国本土の安全を危険にさらすことさえあります。

3 安倍元総理の功績

 安倍元総理は早くから「台湾有事は日本の有事である」と政治的知恵を巧みに提唱していました。

 2007年、元総理は、米国、日本、インド、オーストラリアの4カ国が「日米豪印戦略対話」(QUAD)を発起し、中国の台頭に対応するため、4カ国の協力強化を提唱されました。

 2012年末に第二次安倍政権が発足した後、「インド洋─太平洋」両洋の概念、すなわち「『インド太平洋』は一つである」という原型を積極的に立ち上げられました。

 2016年8月、安倍総理は東京国際アフリカ開発会議(TICAD)でアフリカ首脳人を集めた会議を利用して「自由で開かれたインド太平洋」(現在FOIPと呼ばれている)戦略を正式に宣言されました。

 同年11月、トランプ氏と安倍氏は東京で自由で開かれたインド太平洋構想を共有する国々と協力する意向を表明し、基本的価値の向上、経済的繁栄の追求、平和と安定の3つの基盤で協力することを約束しました。これにより戦後初めて日本が国際政策を主導し、アメリカの支持と肯定を得たのです。

 安倍総理の海洋民主主義国の大同盟は中国の台頭を食い止め、自由で開かれたインド・太平洋の秩序を固める方法なのです。

 以上、台湾周辺海域の重要性に鑑み、安倍元総理が目指されていた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の理念を日本と共に大切に育てて行きたいと思いを新たにするところです。

(翻訳:高木義)

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