【WEDGE infinity:2020年1月15日】
12月17日付けのフォーリン・アフェアーズ誌に、米タフツ大学のマイケル・ベックリー准教授及び米ジョンズホプキンス大学のハル・ブランズ特別教授が連名で、「中国との競争は短期で鋭いものになり得る」との論考を寄せている。
最近、台湾海峡を周回する中国の軍艦・戦闘機の活動は目に見えて活発化している。さらに、習近平国家主席は解放軍に対し「戦闘準備を怠るな」との指示を何度かにわたって発出した。中国の領土拡張主義の動きは、台湾海峡、南シナ海、東シナ海など台湾周辺地域において「危険な時期」に入っているが、「今後5年から10年」の間に米中のライバル関係はより明確な軍事的対立の関係に入ることが予想される、というのが、ベックリーとブランズの論考の趣旨である。
インド太平洋地域において、台湾の占める地政学上の戦略的重要性については、多言を要しないだろう。中国はよく「第一列島線(日本列島、台湾、フィリピン、インドネシア等を結ぶ線)」によって海洋への出口を阻まれている、という。仮にもし中国が、台湾東部の港湾を自由に使用することが出来るようになれば、事前に察知されることなく、中国の核搭載潜水艦は太平洋を遊弋できるようになるだろう。切り立った断崖の続く台湾東部海岸は太平洋の深海につながっており、これら港湾を使用すれば、察知されることなく「第一列島線」を容易に突破できる。
中国共産党にとって、台湾問題は「核心的利益」の筆頭と彼らが呼ぶように、中台統一は習近平政権の最大課題の一つであることに変わりはない。これまで、中国は台湾との経済的・技術的つながりを深めることによって台湾を併呑しようと努めてきたが、台湾の人々の意識は逆に中国から離れ、蔡英文政権下で、その傾向はますます強まっている。その結果、中国としては台湾を軍事的に攻撃するという選択肢を選びつつある、という本論文の結論は、的を射たものと言ってよかろう。ちなみに、過去3か月間に中国の戦闘機、軍艦が台湾海峡をパトロールする回数は過去25年間で最も多くなっている、という。
米国は台湾との間で「台湾関係法」という国内法をもち、台湾防衛のために、兵器を輸出する義務を負っているが、中国側の軍事費増強の下で、台湾防衛の活動はたちおくれつつある。米国としては、台湾防衛のため、より強力な体制をつくり、米国=台湾と価値・利害を共有する国々──、例えば日本、インド、豪州、EU各国などを糾合して国際場裏においても中国を孤立化させ、中国のありうる軍事活動に対する抑止力を高める必要がある。
台湾の多くの人たちは、バイデン新政権が中国に対して「融和」ではなく、毅然とした対応をとることを期待している。トランプ大統領については毀誉褒貶は多いが、台湾では、総じてトランプ政権の対中、対台湾政策を肯定的に評価する人々が多いことも事実である。
ごく最近公表された米海軍と海兵隊による「海洋での優位性」と称する文書は、インド太平洋への前方展開を強化し、「より強硬な姿勢」で中国の脅威に対峙する、と明記した。「過去20年間で3倍に膨れ上がった」中国海軍の戦力に対抗するため、米海軍も無人艦艇を導入するなど近代化を推進し、海兵隊や沿岸警備隊との統合運用をいそぐべし、と主張している。
同文書は、中国による国際ルール違反や周辺国・地域への威圧行為の監視・記録を強化し、国際舞台でこれまで以上にこれら活動を糾弾すべきである、と述べる。そして、これまでは南シナ海、台湾海峡、東シナ海などでの「航行の自由作戦」実施に当たり、米軍としては「リスクを最小化するために、衝突を避けようとする傾向があった」と指摘しつつ、こうした中途半端な姿勢こそが「中国の影響力拡大を許したのかもしれない」とまで記述している。
この米国海軍の報告書のような記載内容がバイデン米次期政権下でどのように引き継がれ実施されることになるのか、大いに注目されるところである。台湾をめぐる軍事的緊張関係は日本にとって決して他人事ではありえない。尖閣諸島の問題とも絡み、日本が自らの安全保障の抑止力を総合的に高めることが、台湾を含む今後のインド太平洋地域の平和・安定に貢献することになろう。
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