「一つの中国」に釘を刺す米国と台湾の貿易連携強化  岡崎研究所

【WEDGE infinity:2022年6月29日】https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27064

 6月1日、「21 世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ」が発表された。これについての台湾側の反応を、6月3日付のTaipei Timesの解説記事が紹介している。

 米国と台湾は貿易連携強化に向けた新たな協議体(The new Taiwan-US trade initiative)を発足させることに合意した。これは、米国主導の経済圏構想であるIPEF(インド・太平洋経済枠組み)に台湾が参加できないので、IPEFに代わるものとして構想されたと見做すことが出来る。

 5月の来日時に合わせてバイデンが発足を宣言し、日本を含む14カ国で始動することとなったIPEFについては、メンバー国の対中国考慮から台湾をメンバーとすることは当初から考えられていなかったようだ。

 Taipei Timesの論評は、このような状況下での、米台間の新しい貿易協議体の発足を肯定的に受け止めたものとなっている。

 バイデン政権にとっては、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を行ったトランプ政権の決定を元に戻すことは国内的に見て容易ではないようである。そして、このTPPについては中国、台湾双方がほぼ同時期に加入申請したが、今日双方とも棚ざらしのままの状況となっている。

 台湾海峡の戦略上のリスクが高まる中、米国は経済安全保障の観点からも、ハイテク技術やサプライチェーンに強みのある台湾と協力しつつ、覇権を拡大する中国に対抗する構えである。

 米国と台湾は、この新たな協議体をめぐって今月内にワシントンで初会合を開くと伝えられるが、新協議体は民主主義の価値観に基づく貿易・投資ルールを構築するもので、貿易円滑化やデジタル、サプライチェーンにおける強制労働排除など関税を除く11分野が対象になるという。

 蔡英文政権の蘇貞昌行政委員長(事実上の首相)が述べている通り、今回の米台間の新貿易協議体自体は、中身如何によっては、台湾がアジア・太平洋の民主主義前線に位置する特別の「優先的パートナー」(a priority partner)としての重要性をもっている証、となるものであろう。

◆中国にもある「曖昧戦略」

 ウクライナ侵攻に関連して、バイデン大統領の最近の台湾についての発言は、米国がいざとなったときに、台湾を防衛するために駆けつけるかどうかが、最大の焦点になった。「曖昧戦略」と言われる言葉が米国の対台湾政策を表現する格好の言葉として議論されるようになった。

 しかし、実態を見ると1978年12月、米国・中華民国の断交以来「曖昧戦略」をとっているのは、米国のみならず、中国も同様と言わねばならない。この時の「米中共同コミュニケ」は「台湾は中国の一部である」という中国の主張を米国は「acknowledge(認識)」する、と述べているが、これは法律上の「承認」や「合意」を意味する表現ではない。

 さらに、「台湾関係法」(1979年4月)という国内法を持ち、台湾に対し防禦用の武器を供与することによって、台湾海峡の平和に事実上コミットしてきた米国の対応を「曖昧戦略」というなら、中国の言う「一つの中国の原則」なるものこそ同床異夢の「曖昧政策」にほかならないことになる。

 米国は「台湾防衛のためにコミットしている」、という趣旨のバイデンの発言は単なる「失言」とは受け取ることが出来ないのではなかろうか。

 このような状況下で、今回、米台両者間で経済関係強化のための新たは協議体がつくられることとなったことは積極的に評価出来るものであろう。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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