接近する台湾とNATO  岡崎研究所

 ヨーロッパは、中国と距離を置きながら、台湾との関係を強化し始めています。2021年に入ってからその傾向が顕著になってきています。

 その傾向は今年に入っても変わらず、年明け早々の1月3日からは、元デンマーク首相で、2009年から2014年までNATO事務総長をつとめたアナス・フォー・ラスムセン氏が台湾を訪問、5日までの滞在期間中、蔡英文総統などと懇談しました。

 ラスムセン氏は、世界の民主主義の発展を推進する非営利団体、「アライアンス・オブ・デモクラシーズ・ファウンデーション」の代表をつとめ、1994年以来、約30年ぶりの訪台だそうで、NATO事務総長経験者の台湾訪問は初めてのことでした。

 ラスムセン氏は蔡英文総統との会談で、訪台の目的について「台湾とヨーロッパの関係強化や、いかにして台湾の未来を守り、台湾の人々が自分の未来を決定する権利を確保する方法について議論する」ことだと述べていました。

 また、1月28日にチェコ共和国の大統領選において、元北大西洋条約機構(NATO)で軍事委員長をつとめ、ウクライナへの積極支援や台湾の民主主義支援を主張してきたペトル・パベル氏が当選し、蔡英文総統は30日になってパベル氏と15分の電話会談を行いました。

 このような電話会談は異例のことで、蔡総統が元首である次期大統領と電話会談を行ったのは米国のトランプ氏に次いで2度目のことでした。

 この2つの事例から察せられるキーワードは「NATO」です。

 岡崎研究所は2月14日に「WEDGE infinity」に発表した「接近する台湾とNATO」という論考で、NATO事務総長をつとめたラスムセン氏のフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説を紹介し、また、台湾軍が将校を定期的にイタリアにあるNATO国防大学に派遣していることも紹介しつつ、ラスムセン前NATO事務総長の指摘は台湾の行方を考えるときに示唆に富むと指摘しています。

 ラスムセン前NATO事務総長の「民主主義陣営は台湾を支援することで、中国の台湾侵攻を抑止し、台湾人が自由、民主主義、自己決定の原則により自らの将来を決められるようにしなければならない」との指摘は、確かに示唆に富んでいます。

 ラスムセン氏の台湾訪問の成果を、時をおかず、イギリスのフィナンシャル・タイムズへの論考として発表した行動力に驚くとともに、すでにリトアニアやチェコなどが取っている路線にヨーロッパも合力し、中国に台湾進攻を思い止ませるために民主主義陣営の団結を呼びかけたことにも驚かされました。

 台湾側もこのラスムセン論考を高く評価しているのではないかと思います。今後の台湾とNATOの関係に注目です。

—————————————————————————————–接近する台湾とNATO 「ウクライナの二の舞」を避けられるか【WEDGE infinity:2023年2月14日】https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29365

 ラスムセン前北大西洋条約機構(NATO)事務総長が、1月13日付けの英フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘Taiwan must not suffer the same fate as Ukraine’で、ロシアのウクライナ侵攻から得られる教訓を挙げ、民主主義陣営は台湾を支援することで、中国の台湾侵攻を抑止し、台湾人が自由、民主主義、自己決定の原則により自らの将来を決められるようにしなければならない、と論じている。要旨は次の通り。

 第1の教訓。ウクライナの人々は戦う決意があるので、自らの自由・民主と祖国を守り抜いている。台湾に対する中国の軍事攻撃を食い止めるのは、何よりも侵略には膨大な代償を伴うことを相手に知らせることである。

 その関連で、最近、蔡英文・民進党政権が徴兵制を4カ月から1年に延長したのは理にかなっている。

 第2の教訓。欧州は入り混じったシグナルをウクライナに送ることを止めなければならない。2014年のロシアのクリミア侵略において、欧州がもし強い反抗の決意を一致して示していたら、今日のような全面的侵略という事態はなかったのではないかと思われる。

 第3の教訓。究極的に重要なのは武器である。中国が台湾を攻撃するようなことになれば、米国は台湾を助けると、バイデン大統領は繰り返し述べているが、これは台湾にとって極めて重要な点である。

 第4の教訓。中国の台湾への攻撃を抑止する最も重要なことは、ウクライナへの侵略において、今後ともウクライナが徹底抗戦してロシアに敗北しないことである。中国はウクライナ情勢をつぶさに観察しており、もしウクライナがロシアに敗北すれば、それを台湾侵攻に利用するに違いない。

 民主主義世界がこの教訓を学び、今すぐ行動すれば、台湾はウクライナがこうむった恐怖を避け得る。我々の支援を通じて、台湾とウクライナの国民に自らの将来を、自由、民主主義、自己決定の原則に基づき決める力を与えることができる。

                   *   *   *

 今年1月初め、ラスムセンはNATO事務総長経験者として初めて台湾を公式訪問した。同氏は台湾滞在中の記者会見で、台湾有事の際のNATOの対応につき、かなり踏み込んだ発言をした。ラスムセンは、中国が台湾を武力攻撃した場合、NATOは台湾に必要な軍事援助を行い、台湾が自衛の能力を得られるよう対応する、と述べ、軍事演習・軍事訓練を示唆した。

◆台湾軍とNATOの人的交流も

 また、既に行われている台湾軍とNATOとの交流についても指摘した。台湾軍とNATOとの交流については、1月11日に台湾国防部も公表している。それによれば、台湾軍は将校を定期的にイタリアにあるNATO国防大学に派遣しており、この派遣は6、7年前から行われている由である。交流の位置づけは、今のところ軍事的交流ではなく、国際情勢についての「学術的交流」となっているようだ。

 上記の論説は、ラスムセンが台湾訪問後、改めて国際社会に対し自由・民主の台湾を守るよう訴えたものである。同氏は論説の中でも「自由、民主主義、平和裏に自らの将来を決定する台湾人の権利を全面的に支持すると宣言するために、NATO事務総長経験者として初めて台湾を公式訪問した」と明言する。

 ラスムセンが台湾を訪問したのは今回で2度目であり、1度目は1994年のことで、若手のデンマーク国会議員の一人としてであった。この時期は、李登輝が総統になって数年後のことであり、台湾は民主化への道を歩み始めたばかりの頃である。

 そして、その後については、周知の通り、自由・民主の台湾は「経済的にも発展し、最先端技術のリーダーとなり、グローバル供給網の不可欠のリンク」となった。近年の台湾の民主主義の発展を熟知するラスムセンの上記論説における諸々の指摘は、台湾の今後の行方を考えるとき、示唆に富んだものといえよう。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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