空白の対台湾政策、黙るバイデンに焦る日台  岡崎研究所

 ジョー・バイデン氏が1月20日に次期米大統領に就任する。トランプ政権はこれまであいまいにしてきた米国の台湾関与を転換し、台湾関係法に基づく11回にも及ぶ武器供与などで台湾との関係強化を図ってきた。バイデン政権はこの台湾重視政策を引き継ぐのだろうか。

 『バイデン大統領が世界を破滅させる』の著者の宮崎正弘氏は「バイデン政権による対中政策の緊張感の欠如が、日本や台湾、国際社会を、中国の軍事的脅威にさらしかねない」(夕刊フジ)と警鐘を鳴らす。

 一方「ニューズウイーク(日本版)」誌は、外交専門家の見解を引用し「トランプ現政権の戦略を引き継いで、中国の封じ込めを念頭に台湾重視の政策をとっていくことになるだろう」と分析していて、バイデン政権の対台湾をめぐっては見方が極端に分かれる。

 下記に紹介する岡崎研究所の論考も「バイデン政権がこれらのトランプ政権時代の対中・対台湾政策をどこまで継承しようとするのか、大いなる注目点だ」と見ている。

 日米がめざす「自由で開かれたインド太平洋」の平和と安定にとって、台湾の重要性が揺らぐことはない。トランプ現政権が対台湾政策や対中国戦略をバイデン政権に引き継がせるべく様々な手を打ち「置き土産」としてきていることは本誌でも紹介したが、バイデン政権がそれを引き継ぐのか、どのような台湾政策を取るのかに注目したい。

—————————————————————————————–空白の対台湾政策、黙るバイデンに焦る日台【WEDGE infinity:2020年1月18日】

 米国のバイデン新大統領は、これまで台湾防衛について語ったことがない。たしかに「同盟の回復」については強調しているが、台湾防衛の部分は欠落している。

 ウォールストリート・ジャーナル紙の12月28日付け社説‘Japan’s Biden Jitters’は、日本の中山防衛副大臣の発言を引用しながら、台湾がアジア・太平洋において占める重要性について論じている。社説は、以下の諸点を指摘する。

・中山副大臣は、ロイターの記者に対し、「バイデンの対台湾政策を早く知りたい」、「そうすれば、相応の準 備をすることが出来る」、「もし中国が一線を越えた時、バイデン氏は如何に対処するのか」と問題提起した。

・北京の強硬派は民主主義下の台湾を「分裂主義者の省」として、なんとか自分たちの統治下におきたがってい るが、台湾世論の大きな動向は、中国による「統一」に反対であり、特に香港情勢を見てその傾向は一層強ま っている。

・バイデン政権下において、中国共産党が台湾海峡を越えて軍事行動をしかけることもあり得ないことではない。 

・万一、台湾の独立が失われるようなことになれば、太平洋における力のバランスは大きく崩れ、中国側に決定 的に有利に働くようになる。米国の目標は何よりも「抑止」である。米国はまず台湾の防衛を支援し、中国が 台湾の島々を攻撃することが、いかに高くつくか、中国に知らしめる必要がある。

 その上で社説は、もしバイデンがアジア諸国の「同盟国」を安心させようというのなら、台湾防衛の目標をはっきり打ち出すべきだ、という。

 この社説は、時宜を得た良い社説である。台湾の蔡英文政権は、トランプ政権との関係緊密化を謀ってきたが、バイデン政権になっても変わらず、米台関係が緊密であることを熱望していることにかわりはない。台湾の世論調査等からもはっきりしていることは、米国が中国の圧力などにより、オバマ政権時代の対中「融和路線」に回帰することがないかを台湾としては危惧しているということだろう。

 トランプ大統領個人の資質については毀誉褒貶があるが、台湾の防衛という点については、トランプ政権下でいくつかの際立った進展が見られた。米国国内法である「台湾関係法」に基づく台湾への武器輸出の増大、米国関係閣僚のはじめての台湾訪問、総統就任直後のトランプ・蔡英文電話会談など、いずれも中国の強い反対のなかで実施された。ペンス副大統領、ポンペオ国務長官による、中国への「関与政策」終了の発言などは、最近の中国の強まる全体主義への警戒心と直結している。任期切れ間際にも、米台関係を強化する措置を打ち出した。1月9日、ポンペオ国務長官は、米国の外交官や軍人を含む当局者が台湾の当局者らと接触することを制限してきた国務省の内規を全面的に撤廃すると発表した。バイデン政権がこれらのトランプ政権時代の対中・対台湾政策をどこまで継承しようとするのか、大いなる注目点だ。

 バイデン氏は、意図的なことなのか分からないが、「自由で開かれたインド太平洋」という表現に変えて、「安全で繁栄したインド太平洋」という言葉を使用している。前者の言葉は、安倍政権、そしてトランプ政権も使用してきた。そこには、事実上、中国を仮想の脅威と見る前提が秘められている。新しい表現を使うところに、バイデン政権の対中融和路線の兆しが見えるという識者もいるが、いずれにせよ注意深く観察する必要があろう。

 バイデン氏の子息ハンターをめぐり、中国企業との不適切な関係が報道されたことがある。これらは単なる根も葉もないデマなのかあるいは、バイデン政権がそのうち中国から何らかの圧力や牽制を受けることもありうる類の話なのか、判然としない。

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