符節を合わせるように11月23日、香港や台湾、オーストラリアで中国のスパイ活動に従事した王立強と名乗る27歳の男性が、香港や台湾、オーストラリアでの工作活動に関する情報をオーストラリア政府に提供し、妻子が暮らすオーストラリアへの亡命を希望していると報じられている。
産経新聞はオーストラリアの報道を紹介しつつ「台湾では、昨年の統一地方選で、与党、民主進歩党の候補を妨害するため、中国の情報機関が『サイバー部隊』を設立するのに協力し、ネット上の議論を誘導。メディアへの影響力行使や野党、中国国民党への『草の根』の資金提供を支援したと証言した」と報じ、「台湾の総統府は23日、情報機関が関連の調査を開始しているとの声明を発表。記事で名指しされた国民党の総統候補、韓国瑜高雄市長は『中国共産党の金銭を1台湾元でも受け取っていたら、出馬を取りやめる』と述べた」と伝えている。
蔡英文総統も11月23日、花蓮において中国による選挙介入について「台湾の主要選挙に影響を与えようとする意図が非常に明確で、過去の重要選挙でも見られた介入の影はますますはっきりしてきた」と述べて警戒を呼び掛けたという。
下記に、台湾では「2018年の地方選と来年の総統選への干渉工作を行った」と伝えるAFPの記事を紹介したい。中国の総統選や立法委員選への介入工作の実態がいよいよ明確になってきたようで、さらに具体的に明らかにされるのを待ちたい。
—————————————————————————————–中国から亡命希望の元スパイ、豪に膨大な情報を提供 報道【AFPBB News:2019年11月23日】
【AFP=時事】香港と台湾、オーストラリアで中国のスパイ活動に関わっていた男性がオーストラリアへの亡命を希望し、中国の政治干渉活動に関する膨大な情報を豪当局に提供していたことが分かった。豪メディアが23日、伝えた。
豪メディア大手ナイン(Nine)系列の複数の新聞によると、亡命を希望しているのは、「威廉王(William)」こと王力強(Wang Liqiang)氏。王氏はオーストラリアの防諜(ぼうちょう)機関に対し、香港で活動する中国軍の情報将校の身元と、香港と台湾、オーストラリアで行われている活動の内容と資金源に関する詳細な情報を提供した。
王氏自身も、香港と台湾、オーストラリアのすべてで、潜入工作や妨害工作に関与していた。任務の中には、中国本土に移送され、反体制的な書籍を販売した容疑で尋問を受けた書店関係者5人のうち1人の拉致も含まれていたという。
ナインによると、王氏は有力紙のエイジ(The Age)とシドニー・モーニング・ヘラルド(Sydney Morning Herald)、報道番組「60ミニッツ(60 Minutes)」とのインタビューの中で、中国政府が複数の上場企業をひそかに支配し、反体制派の監視と調査分析、報道機関の取り込みを含む諜報(ちょうほう)活動の資金を出させていることについて、「微細にわたって」説明した。
王氏は現在、妻と幼い息子と共に観光ビザでシドニーに滞在し、政治亡命を申請している。
■中国に戻れば死刑
王氏によると、香港では民主化運動に対抗するための大学や報道機関への潜入など、上場企業を隠れみのにした諜報活動に関与した。そこでの王氏の役割は、香港のすべての大学に潜入し、反体制派に対するバッシングとサイバー攻撃を実施するよう指示することだった。
台湾には韓国のパスポートで別人になりすまして潜入し、2018年の地方選と来年の総統選への干渉工作を行った。さらにオーストラリアでは、エネルギー業界のダミー会社を通じて同国でスパイ活動を行っているとみられる高位の諜報員に会ったという。
ナインのウェブサイトに23日に掲載された24日放送予定の「60ミニッツ」の映像の中で、王氏は「帰国すれば命はない」と通訳を介して述べ、中国に戻れば死刑に処されると訴えた。
王氏に関する今回の報道は、オーストラリアで高まっている中国の諜報活動や内政干渉への警戒感をさらにあおるとみられる。
今年9月までオーストラリア保安情報機構(ASIO)の長官を務めていたダンカン・ルイス(Duncan Lewis)氏は、22日付のシドニー・モーニング・ヘラルドに掲載されたインタビューで、中国が「水面下で狡猾(こうかつ)」に組織的なスパイ活動と利益誘導を駆使してオーストラリア政治体制の「乗っ取り」を企てていると警鐘を鳴らしていた。