台湾の憲法法廷が改正国会職権関連法の主要部分を違憲とする判決

台湾の立法院は与党議席が過半数を割る「ねじれ国会」のため、野党の中国国民党と台湾民衆党が共同提案した「立法院職権行使法改正」と「刑法改正」が可決され、法に則って頼清徳総統が署名し、6月26日に施行された。

これらの改正法案は、立法院で審議中から憲法に抵触する立法院の権限拡大ではないかと問題視され、10万人を超える人々が立法院の周囲で「青鳥行動」と称される抗議活動を展開するなど、台湾社会を揺るがす大問題になった。

施行翌日の6月27日には、行政院と民進党立法院党団が違憲審査と仮処分(法律の一時停止)を司法院に申し立て、28日には頼清徳総統も違憲審査と仮処分を司法院に申し立てる事態となった。

7月19日、司法院の憲法法廷は一部条文を一時停止とする決定を下し、以降、改正国会職権関連法や改正刑法の運用は一時停止された。

停止期間は最大で半年だった。

それから3ヵ月を経た10月25日、司法院の憲法法廷はついに判決を下した。

改正国会職権関連法の主要部分を違憲とする判決だった。

判決の詳細について、中央通信社(10月25日)は下記のように報じた。

<判決では国情報告について、総統は立法院に対して報告をする義務はないと判断。

立法委員(国会議員)が報告の聞き取り後に総統に対して不明点を質問し、即座に回答を求めることも違憲だとした。

また、総統が報告をするか否かや、いつ、どのように立法院に聞き取らせるかは、総統自身が職権に基づく判断で決定し、憲法下に設置された各機関の相互尊重の原則に基づき、立法院と協議して実施するものであり、立法院が一方的に決められるものではないとした。

立法院の人事同意権の行使については、立法院は人事案に賛成または反対するかの権力しか持たず、被指名者に特定の義務を課す権限はなく、義務違反があった場合にも行政罰で制裁を科す権限もないとした。

また、議会侮辱行為と見なされるかが争点となった議員への反問権については、憲法に抵触しないと指摘。

また国家安全保障の立場から、被質問者が資料の提出を拒むことに対して罰金を科すのは違憲だとした。

聴証会については、出席を求められた行政院(内閣)各部会(省庁)のトップには出席と適切な説明をする義務があるとする一方、正当な理由がある場合には回答や情報の公開を拒否できるとした。

調査権については、立法院が委員会内に調査専門チームを立ち上げることは違憲だと判断。

調査権は権力分立とバランスの原則による制約を受けるべきだとした。

この判決は、台湾が法治国家であることを示し、司法の独立が維持されていることを示したと言えるだろう。

台湾の人々の多くが納得する判決ではないかと思われる。

一方、野党の中国国民党も過半数を割ってはいるものの、台湾民衆党や無所属議員を引き込んで過半数を制しているため、中国が立法院を通した浸透工作を謀る認知戦を展開しているのではないかという見方が当時からあった。

中国は、武力侵攻よりコストパフォーマンスが格段に低く、頼政権の弱体化を狙った「戦わずして勝つ」戦法を見出したのではないか。

台湾包囲の軍事演習などと組み合わせ、米国が直接介入しにくい認知戦の戦場として立法府を選んだのではないか、と。

問題視された法案の審議中に、中国国民党の馬英九・前総統が訪中し、夏立言・副主席や「花蓮王」こと傅●■ (ふこんき)立法委員などが何度も中国詣でを繰り返していたことがこの見立ての背景となっていた。

(●=山編に昆、■=草冠に其)

しかし、中国が立法院を足掛かりに「頼政権弱体化」を狙った認知戦だったとしても、この判決でその目論見は潰えたと言ってよい。

台湾民衆党の柯文哲主席の逮捕という合わせ技も駆使した頼政権の一本勝ちだった。

ただし、中国の認知戦そのものが潰えたわけではない。

中国には「軟らかい土は掘れ」(軟土深掘)の言い伝えがある。

少数与党の頼清徳政権は立法院を含め、中国の動きには今後も細心の注意を払う必要があるようだ。


台湾野党主導で可決された立法院権限強化法、主要部分で「違憲」判断 頼政権は大打撃回避【産経新聞:2024年10月26日】https://www.sankei.com/article/20241025-5KTFCRNALFO4XHCOJW724DQJD4/

【台北=西見由章】台湾の憲法裁判所にあたる憲法法廷は25日、野党主導で可決、施行された立法院(国会に相当)の権限を強める関連法について、主要部分を違憲とする判断を示した。

頼清徳総統が主席を務める民主進歩党は立法院で少数与党に転落しており、関連法が大筋で合憲と判断された場合に予想された政権運営への大きな打撃は回避した形だ。

憲法法廷は改正立法院職権行使法が定めた総統の年1回の情勢報告について「憲法上、拘束力はない」と指摘。

同様に総統の答弁を義務化した点についても「憲法が定める権力分立の原則に抵触する」とした。

また、当局や企業などに対する立法院の調査権限拡大を巡っても、証言や資料提出を拒否した場合の罰則規定について「憲法が定める立法院の職権を逸脱する」と判断するなど、調査権限の拡大をおおむね否定する内容となった。

また、公務員が立法院での質疑で虚偽の答弁をした場合に懲役刑や罰金を科す改正刑法の「国会蔑視罪」についても「刑罰によって政治責任を追及するのは不当」と違憲判断を下した。

一方、政府機関人事への同意を巡る権限強化などについては一部合憲とした。

関連法案は、最大野党の中国国民党と第2野党、台湾民衆党が与党追及を狙って5月下旬に可決。

行政院(内閣)が再審議を求めたが6月に再可決、施行された。

頼総統と民進党の立法委員(国会議員)団などが違憲審査と関連法の停止処分を請求し、7月から関連法の一部が停止していた。


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