中国は「戦わずして台湾を統一」する認知戦の戦場に立法院を選んだのか

台湾の与党である民進党が立法院で過半数割れの第一党から滑り落ちた「ねじれ国会」のため、立法院の法案審議に苦しんでいる。

特に苦しんだ法案は、立法院職権行使法改正と刑法改正。

現在、司法院に付託され、違憲かどうかを審査する事態になっている。

立法院職権行使法改正案には「総統情勢報告」として「総統は毎年3月1日までに立法院において情勢を報告し、その場で質疑応答を行わなければならない。

質疑応答では反対質問は禁止、回答を拒絶してはならない。

違反した場合は2万台湾元以上20万台湾元以下の罰金を科す」旨が定められていた。

加えて、立法院調査権・公聴権では「立法委員は関連機関や法人、関係者に対し調査権を発動し、関連書類の提出を求めることができる。

拒否、隠蔽した場合は1万元以上10万元以下の罰金を科す」ことや、人事同意権では、これまで立法院の同意は無記名投票で行われてきたが、改正案では「正副総統の弾劾、監察院・監察委員、司法院の正副院長や大法官の人事について、これを記名投票とする。

違反者は2万元以上10万元の罰金を科す」旨が定められ、立法院の権限を強化する内容だ。

一方の刑法改正案には「国会藐視(びょうし)罪」が追加され「公務員が公聴会で回答を拒んだり、虚偽の回答をした場合1年以下の懲役か20万元以下の罰金を科す」旨が定められていた。

藐視とは「見くびる、軽視」の謂いだから、国会侮辱罪という罰則規定を設けたことになる。

これらの法案が国民党と民衆党の共同提案により司法法務委員会に提出されたのは今年3月。

ところが、5月17日に韓國瑜・立法院長が強行採決に踏み切ろうとしたところから同法案に対する懸念が高まり、審議が進むたびに立法院の周囲を市民や団体が取り囲む事態になる。

5月24日には10万人、28日には7万人を超える人々が立法院の周囲で「青鳥行動」と称される抗議活動を展開した。

この法案は野党優勢のまま本会議で可決された。

行政院にまわされるも、行政院は再審議を閣議決定し、立法院に差し戻すも多勢に無勢、5月28日に成立し、頼清徳総統も法に従って署名せざるを得ず、6月24日公布、26日施行された。

しかし、行政院と民進党立法院党団は施行翌日の6月27日に違憲審査と仮処分(法律の一時停止)を司法院に申し立て、翌々日の6月28日には頼総統自身も違憲審査と仮処分を司法院に申し立てる事態になっている。

今回の立法院の改正法案問題は以上のように概括できるが、台湾在住ライターの広橋賢蔵氏は人物に絞って立法院の動きをレポートした。

中国国民党と法案を共同提案した、ひまわり学生運動で名を馳せ、時代力量の主席をつとめた台湾民衆党の黄國昌。

今年に入ってから訪中を繰り返して「中国の指示で立法院を揺さぶっているのでは」とも言われる中国国民党の傅■●(■=山編に昆 ●=草冠に其)、民主進歩党の新人立法委員、沈伯洋の3人の立法委員。

このレポートで気になったのは沈伯洋議員の指摘だ。

曰く「中国が『第五縦隊』を組織している」「台湾人と結婚して台湾に帰化した30万人を超える中国人妻なども、危険分子になりえる」。

「第五縦隊」は日本ではほとんどなじみがないと思われるが、日本では「第5列」と言われる、内応して通敵活動するスパイのことを指しているのではないかと思われる。

台湾には、台湾最大の反社団体と言われる竹聯幇出身の白狼こと張安楽が率いる中華統一促進党がある。

中国共産党が張安楽に年間2300万台湾ドル、竹聯幇に年間約1億3600万台湾ドル)を与えていたことが明らかになっているが、八田與一の銅像の首を切り落としたのは中華統一促進党の党員だったことを思い出す人もいるかと思う。

その点からも「『台湾黒道(反社会団体)』が、5年前と比較し、急速に中国との関係を密にしている」という沈伯洋議員の指摘は気になるところだ。

また、台湾にはすでに中国人妻だけで作る政党「中国生産党」がある。

2012年2月に結成されたという。

現況がどうなっているかは不明だが、本物の中国人が台湾国内で堂々と合法的に政治的発言力を確保できる。

中国国民党は、この中国人妻たちの市民権獲得期間を6年から4年に短縮する「市民権取得期間短縮改正法案」をすでに準備しているとも言われ、沈伯洋議員の「中国人妻なども、危険分子になりえる」という指摘は、現在の立法院の動きを見ていると無視できない指摘だ。

中国は、台湾に「第5列」をつくり、武力侵攻よりコストパフォーマンスが格段に低く、頼政権の弱体化、その後の政権交代を狙った「戦わずして台湾を統一」する戦法を見出したのかもしれない。

台湾包囲の軍事演習などと組み合わせ、米国が直接介入しにくい認知戦の戦場として立法院を選んだのではないかと思われる。


頼総統就任から2カ月、台湾はどうなっている? 注目集まる3人の立法委員をクローズアップ広橋 賢蔵:台湾在住ライター【JBpress:2024年7月16日】https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/82012

今年(2024年)5月に民進党の頼清徳が台湾の総統に就任した。

それから2カ月が経ち、台湾の政治にどのような変化が起こったか。

また立法院(日本の国会に相当)との「ねじれ現象」が生じたなか、注目を集めている立法委員の3人はどんな人物か。

最新の台湾動静をお伝えする(本文中敬称略)。

※台湾の政治報道では独特の政治用語やスラングが飛び交うこともあり、本稿執筆にあたっては、文化大学新聞学科の荘伯仲教授にご協力いただいた。

台湾民意基金会が6月18日に発表した世論調査によれば、頼清徳総統の支持率は48%が支持、26%が不支持、18%はどちらでもない、だった。

さらに支持政党は民進党37%、国民党18%、民衆党14%という結果だ。

1月の総統および立法委員選挙では、総統候補の得票率が頼清徳(民進党)40.0%、侯友宜(国民党)33.5%、柯文哲(民衆党)26.5%、立法委員の政党票が民進党36%、国民党34%、民衆党22%だった。

これを比べると、頼政権は比較的好意的に受け止められているようだ。

また政党支持も、民進党が持ち直している印象がある。

◆立法院の混乱が大規模デモに発展

今年1月には台湾総統のほかに、立法委員選出の選挙も行われ、議席数113のうち、民進党が51議席、国民党が52議席で、与党・民進党が過半数を失った。

その結果、議会が野党優位という「ねじれ状態」となった。

立法委員は、日本の国会議員に相当するが、日本と異なり台湾の立法院は1院制である。

その後注目を集めたひとりが国民党の韓国瑜(67)だ。

韓は2020年の総統選挙で落選し、さらに選挙後に戻った高雄市長の座からは、リコールで追われるという、屈辱的な過去を持つ。

その韓が立法院長として国政の中心に返り咲いたのである。

韓の復活は何やら不穏な出来事を予感をさせたが、それが沸点に達したのが5月17日だった。

立法院の機能を強化する法案を通過させるため、野党が強行採決しようとしたことで、与党・民進党が怒りを爆発させ、委員同士の大乱闘に発展した。

法案の内容は、総統の定期的な政治報告を義務付け、調査権の拡大などを定めていることで、与党・民進党にとっては政権の制御を難しくするものだ。

このため、法案可決は阻止したい場面だった。

この議場内の乱闘を目撃して国政を憂慮した台湾市民が、立法院の周囲を取り囲んでデモに集まりはじめ、5月24日には10万人規模に達した。

立法院の前が「青島東路」であることから、この大規模デモは「青島」をもじって「青鳥行動」と呼ばれた。

人々は「沒有討論、不是民主(議論しないで民主は守れない)」と横断幕を掲げて、立法院内での動きを牽制した。

場所や規模からすると、10年前の2014年に台湾社会を揺るがした「ひまわり運動」(中台間の市場開放を目指す「サービス貿易協定」批准の審議に反対した学生を中心としたデモ)を思わせる。

しかし、文化大学の荘伯仲教授は「台湾市民は今回の青鳥行動についてはどこか懐疑的で、このデモに参加をする人を、やや醒めた眼で眺めていた」と違いを説明する。

それは、前述した世論調査の結果を見ても明らかだ。

「立法院の権限強化に対する審議は正当だ」と野党の行動を肯定する意見が6割近くを占めたからだ。

それでは、デモに参加した人々はどういう人たちだったのか。

「国民党は中国共産党の手先」という単純な理論で国民党を排斥する人や、“深緑”と呼ばれる熱心な民進党支持者が、「青鳥行動」のデモ会場に動員されていたようだ。

そうだったとしても、ニュース記事によれば参加者の3割は若者だという。

若い世代にも積極的に政治へ参加しようとしている人がいるとは言えるだろう。

◆「台湾の若者は基本的に政治に無関心」

日ごろ、大学生に接している荘教授に、最近の若い人たちについてうかがった。

「台湾の若者は基本的に政治に無関心。

ただ、台湾に圧力をかけてくる中国共産党に対しては嫌悪感を抱いている。

政治に関心を持っている若者も、経験値の低さからでもあるが、その全貌はおぼろげな理解しかできていない。

今回の立法院の騒動でも、単純に国民党が中国の手先という短絡的な眼で眺めている。

もう少し、複眼的な眼を持つべきでしょう」。

日々繰り返される民進党と国民党の争いに嫌気がさした若者たちが、第二野党である民衆党支持に回る、というのが1月の総統選挙の結果だった。

今回の「青鳥行動」でも、民衆党の若手支持者たちがデモの一角に陣取り、立法院内にいる民衆党委員にエールを送る姿もあった。

若者を中心に支持を集める民衆党が、今後どのくらい勢力を伸ばすかが、これまでの2大政党時代に変化をもたらすインパクトになるだろう。

しかし、台湾で新しい政党を維持するのは難しいと考える人も多い。

過去、第二野党の位置には宋楚瑜の率いる親民党や、2016年以降に若い世代が集結した時代力量などがあるが、その後泡沫化していったからだ。

立法院内ではキャスティングボートを握った民衆党だが、まだ勢力的には小さなグループである。

上手な舵取りをしていないと、あっという間に20〜30代の期待を失い、支持者を減らすことになるだろう。

そんな危険性を肝に銘じ、政党運営を続けていかなければならない。

◆黄國昌(民衆党):党を渡り歩きながらも若い世代の支持を得る

1月の選挙で選出された立法委員の中で、とくに目立っている3人の人物を紹介しよう。

これから長い間、台湾の政治舞台で大きな役割を果たしそうな面々だ。

このひと月、頻繁にメディアに登場したのが、第二野党・民衆党の黄國昌(こう・こくしょう、43)だ。

民衆党は、前台北市長を2期(2014-2022)務めた柯文哲が第三の勢力として総統選を闘った。

2023年末には票を集中させるため、国民党と共闘を組む直前まで話は進んだが、最後の最後になって袂を分かち独自路線を歩むことになった。

総統には手が届かなかったが、25%の得票率で立法院の比例代表枠を8議席獲得。

この8議席は、議案によって、民衆党は賛成にも反対にも回れるという役割になったことを意味する。

黄國昌は10年前、学生運動「ひまわり運動」を推進した中心人物で、その後は新政党「時代力量」のリーダーとなって、主に若者からの支持を得ていた。

だが前述したように、年を追うごとに少数派ゆえの発信力不足から支持層が離れていった。

このため、黄は時代力量から民衆党に鞍替えをして1月の選挙戦を闘った。

かつて「ひまわり運動」を率いた英雄として国民党を糾弾していた黄が、今は立法院の中にいて民進党を糾弾しているわけで、戸惑いを感じている人も多い。

所属する政党を頻繁に渡り歩く黄の姿を快く思っていない有権者も多く、評価は様々だ。

民進党に溶け込めなかったことから民衆党に合流して以来、党首の柯文哲と二人三脚体制をとっているが、この二人の蜜月もいつまで続くか、と見る識者も少なくない。

ただ、SNSで情報を発信することを得意とし、権威と闘う姿が若い世代の心を捉えており、この点が今も民衆党支持者から受けていると思われる。

◆傅■●(国民党):震災復興は露出度狙い?

 もう一人は、台湾東部の花蓮県を地盤としているために「花蓮王」の異名を持つ、国民党の傅■●(ふ・こんき、62)だ。

52人の国民党の立法委員の中で、一番鼻息が荒かったのが印象的だった。

(■=山編に昆 ●=草冠に其)

傅が主張していたのが、4月3日に花蓮県で起こった震災の復興だ。

その象徴とするため、花蓮県と台湾各地を結ぶインフラを実現する「花東交通三案」(台湾東部に新幹線を通す、台湾南東部の台東県と花蓮県を結ぶ高速道路の建設、台湾中部の南投県と花蓮県と結ぶ横断道路の建設)を推進することで、花蓮をさらに潤う土地にしようと奮闘していた。

理想を語るのはいいのだが、「花東交通三案」は莫大な予算が必要なことや、環境破壊につながりかねないという問題もあるため、立法院での優先議題とはなりにくい。

が、傅はこの議題をあえてこの議会混乱期にぶつけることで、露出度を狙ったという意図を匂わせた。

このとき問題視されたのは、傅の露骨とも思える中国との親密ぶりだった。

傅は1月に国民党議員団とともに中国を訪問したほか、4月にも北京を訪問するほどの親中派だ。

今回、体を張って与党に対峙する様子から、「中国の指示で立法院を揺さぶっているのでは」という陰謀論も浮上していた。

◆沈伯洋(民進党):オードリー・タンに代わるニューホープか?

「台湾の人々は、中国が『第五縦隊』を組織していることを警戒するべきだ」と警告しているのは、民進党の新人立法委員、沈伯洋(ちん・はくよう、42)だ。

「第五縦隊」は実際の部隊のことではなく、台湾社会に浸透し、中国の利益のために暗躍する「高風険群(危険分子)」を指している。

沈によると「高風険群」は経済・政治活動の中でじわじわと増殖中だという。

例として「台湾黒道(反社会団体)」が、5年前と比較し、急速に中国との関係を密にしていることを挙げている。

中国とのビジネスをより深め、台湾各地の寺廟と結束を深めているというのだ。

さらに台湾人と結婚して台湾に帰化した30万人を超える中国人妻なども、危険分子になりえる、としている。

こういった「高風険群」は将来、中台問題について事が起きれば、いつでも内部から台湾を切り崩せるように準備が進んでいるという。

このような大胆な発言は、野党からだけでなく、与党内の穏健な議員たちからも、過激すぎないか、という批判が出ている。

沈伯洋は、数年前から民進党の元で活動しており、今回の立法院選挙では比例区の第2位と、当選確実の順位だった。

台湾大学から米国へ渡り、法学博士の学位を修得後、2017年に台湾に戻った。

そして中国の情報戦略、認知戦について研究を始め、2020年に一般人に国防教育を広める組織「黒熊学院」を立ち上げた。

中国を仮想の敵と見なし、台湾を侵攻した場合には、いかに応戦するのかをシミュレーションする「黒熊学院」セミナーは、中台危機の深まりを受けて、台湾市民の支持を得た。

中国に真っ向からNOと言える、好戦的な若手を立法院に送り込む、という民進党の意図はどこにあるのだろうか。

そこには「頼清徳の意志」があるとも受け取れる。

頼総統は、蔡英文前総統の派閥(英派)とは異なり、より急進的な派閥(新潮流派)であった。

蔡英文は在任中、オードリー・タン(唐鳳、43)をデジタル大臣に任命し、職能重視の人事を印象付けた。

沈の起用は、その流れを汲んだ、若手を育てよう、という人事とも考えられる。

だが、頼総統が総統として語ることが憚られる「中国への本音」を語る人物、という位置付けとも考えられ、今後、沈の発言は注目しておくべきかもしれない。

今後も中台間には新たな手法による情報戦が飛び交うことが予想されるだけに、情報戦、認知戦の研究者が、与党の中枢に存在していることは、重要であろう。

沈の突飛とも思える論調は、台湾の世論を揺るがしている。

それが若者をはじめ、多くの人々に支持されていくかどうかは、頼総統の支持率にも反映されていくことになる。


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