行われた。香港から台湾李登輝学校研修団第一期生の好田良弘氏も参加し、その感想を寄
せていただいた。
11月23日に告示された台北と高雄の市長選挙は、12月9日が投開票日で、今のところ両市
とも国民党候補がリードしつつある状況だ。すでに自由と民主という日本と同じ価値観を
選択し、建国途上にある台湾で、陳水扁総統の施政方針が揺れ動いたことで識見を問われ、
かつ親族がそれに輪をかけて金銭トラブルを起こしたことで政局が混乱している。最高指
導者が牽引力をほとんど失っているだけに、台湾の混迷は深い。その混迷ぶりのレポート
である。
台湾では打開の道を模索する日々が続いているが、いずれにせよ、その一つの結果が両
市長選に現れる。台湾人民の賢明な選択に期待したい。 (編集部)
台北、高雄市長選挙視察団に参加して
香港在住 好田 良弘
台北と高雄の市長選挙視察を掲げた今回の視察団であるが、私が参加した主目的は、総
統罷免運動に象徴される政局全体の混乱について、実情を把握することにあった。その結
果、残念ながら現地には、悲観的な空気が漂っていたことを報告せざるを得ない。
まず緑陣営の支持者の間でも、陳水扁総統への評価は非常に厳しく、機密費の着服疑惑
と総統罷免運動については、藍陣営あるいは大陸の策動、さらにはメディアによる扇動な
どの指摘が伴うものの、疑惑を完全に否定する人は皆無であり、見解を示すのに窮する様
子も見られた。
何よりも陳総統のこれからの政策運営について、期待する声は聞かれず、台北市長とし
ては非常に有能であったが総統としては役不足と見る者、二期目の当選を果たし、孫の誕
生など、家庭的な幸福にも恵まれたことで満足してしまった、という評論家の指摘を口に
する者、また総統周辺の人材不足を指摘するとともに、その中でも存在する有能な人材を
登用しない総統の姿勢を批判する者、見解は様々であるが、いずれも陳水扁総統への失望
を隠さない。ただ、ごく少数ではあるが、例えば二期目の台北市長選挙に落選しながら総
統に就任するなど、これまでも幾度となく苦境を乗り越えて来た、粘り強さに期待する声
が聞かれた程度である。
そこで民進党の次世代に話題を移しても、期待を持たせる人材の名前がすぐには出てこ
ない。かといって、藍陣営の人材は論外であり、馬英九氏については、今回の市長選、あ
るいは同時進行中の両市の市議会議員候補者には、一緒の写真をポスターとして掲げる者
が多く、宋楚瑜氏に至っては、街頭集会で「私が台北市長に当選すれば、馬英九氏が総統
選挙で当選し易くなる。」と演説するなど、一定の人気を保っているようであるが、緑藍
のどちらにも属さない立場から極東情勢を観察している人々の間でも、その政治手腕に対
する評価は低く、結局のところ総統候補にも成れないと言う見方もある。実際、香港でも
、最近になって、連戦氏が再々挑戦に意欲を見せているとの報道があった。
現地で面談した識者によると、現在の台湾政局における問題は、こうして二大政党のい
ずれもが、国民の負託に応える政策、能力を示すことができないことだという。高雄市長
選を視察した群策会幹部は、有権者の冷めた反応を懸念しており、今回の選挙では、低調
な投票率が予想されるとの見解を示す向きもあった。
ならば、これを示し得る第三党の立ち上げか、という話になり、香港の英字紙において
も、李登輝前総統が来年の結党を計画している、との報道があったところであるが、こう
した動きの存在については、関係者も肯定している。ただ一方で、それが既存の二大政党
に対抗し得るだけの勢力を確保できるかという話になると、識者の中でも悲観的な見解が
多い。
ある識者の分析によれば、台湾の現状は、まず経済界が対中投資により取り込まれ、そ
の要請に応える形で民進党政権も経済的な対中接近を進めた結果、ますます全体が取り込
まれるという蟻地獄に陥っており、次回総統選挙では、藍陣営が勝てば最悪だが、緑陣営
が勝ったとしても、現在の流れの中では、こうした事態を打開する見込みが無いという。
それでは台湾はこのまま中国に呑み込まれてしまうのか。同じ識者は、人民元の対米ド
ルレートが大幅に切り上げられた場合、事態打開の突破口となると見ている。現在のレー
トでは、国際競争力において、中国は他国と対等以上に勝負する実力を持ちつつ、大幅な
ハンディキャップを与えられているようなものであり、これが是正されれば状況に大きな
変化が起こり得るという。また、米国中間選挙における民主党の勝利について、その親中
姿勢を懸念する見解もあるが、人民元に対する切り上げ圧力強化の面からは、台湾にとっ
て悪い話ではないともいう。
次に政局以外の現地事情について報告したい。日台連携の象徴のような台湾新幹線であ
るが、視察団が面談した識者の間では、残念ながら開通に向けての期待度は高くない。ひ
とつには、ほとんどの駅が市街地から外れている上、在来線と交差していないため、利便
性の問題があり、ほかには、現在でも南北の地域格差が指摘されている中、往来の高速化
は台北への一極集中を促進し、中南部の衰退が加速することへの懸念があるという。
こうした中で、一番の明るい話題はヤンキースで19勝を挙げた王建民投手の活躍であ
り、訪問した高雄市長候補の羅志明氏も、野球選手の姿で選挙ポスターに登場し、運動員
はヤンキースの縦縞のユニフォームに似せたTシャツを着用するなど、その人気をしのば
せる光景をあちらこちらで見ることが出来た。
また、野球といえば、訪問時には台中でインターコンチネンタル・カップという国際大
会が開催中であり、台湾代表は予選リーグでキューバ代表を破ったほか、三位決定戦でも
同大会で11連敗中であった日本代表に勝つなど健闘し、新聞でもこれを大きく取り上げ
ていた。
ところが、自国開催にも関わらず、チーム名は中華台北、チャイニーズ・タイペイであ
り、国際大会の規定により、試合会場での国旗掲揚も認められていないのだという。藍派
であればチーム名はそれでも良いのかもしれないが、国旗掲揚の不可については、両派と
も不満が残るところではないか。
実際のところ、新聞報道によれば、日本との三位決定戦の前には、これを不満とする一
部の観衆が旗竿を持ち込み、試合前の国歌斉唱並びに国旗掲揚時に、観客席で青天白日満
地紅旗を掲揚し、球場全体から拍手と歓声が起こったという。この時、この場ばかりは、
自国が国際舞台において、その実体に相応しい扱いを受けないことへの不満の表明に、緑
か藍かを超越した共感が存在したのではないかと推察するが、新聞報道からこれを確かめ
ることはできない。ただ、そこに掲げられたのが五星紅旗でなかったことは確かで、日本
では緑陣営を独立派、藍陣営を統一派と俗称しているが、特に後者を指すに当っては、留
意しておくべき事実であろう。 以上
台北・高雄市長選告示、08年総統選の前哨戦
【11月23日 読売新聞Web版】
【台北=石井利尚】台湾の2008年総統選の前哨戦となる台北、高雄の2大市長選(12
月9日投開票)が23日、告示され、本格的な選挙戦が始まった。
両選挙とも、夫人が起訴された陳水扁総統の与党・民進党と、総統退陣を求める最大野
党・国民党の候補の事実上の一騎打ちで、「腐敗」を追及される与党が苦戦を強いられて
いる。国民党では、12年ぶりに両首長ポストを独占し、総統選への弾みにしたい考えだ。
台北市長選では、総統選に立候補するとみられる馬英九・現市長(国民党主席)の後任を
めぐり、国民党の●龍斌・元環境保護署長(54)、民進党の謝長廷・前行政院長(首相)
(60)、第2野党の親民党の宋楚瑜主席(64)らが出馬。●氏が、外省人(中国出身者)
を中心とした野党票を固めてリードしている。(●は「赤」におおざと)
高雄市長選は、民進党の陳菊・前労工委員会主任委員(労相)(56)と国民党の黄俊英
・元高雄副市長(64)が接戦を演じている。高雄を中心とする台湾南部はもともと与党の
牙城(がじょう)だが、総統周辺の不祥事が影響し、野党寄り有力紙「聯合報」の20日の
世論調査によると、黄氏が陳氏に10ポイント以上の差をつけている。