【読者投稿】 台湾両陣営の呼称見直しを提案する [香港 好田良弘]

2月初旬の日本各紙は、李登輝前総統が地元週刊誌によるインタビューの中で、対中方
針の転換を表明したと報じたが、香港で衛星版を発行している三紙の先陣を切った形の2
月1日付朝日新聞の記事は、前総統が「『このうえ独立を求めることは後退であると同時
に、米国や大陸との多くの問題を引き起こして危険』と断じた」と紹介している。そこで
原文を確かめたところ、この発言に相当する部分の記述は以下のとおりであった。

「追求台独是退歩的、而且是危険的作法、【因為這種作法不但把台湾降格成未独立的国家、
傷害台湾的主体性、】也会引起美国、大陸方面很多問題。」(原文は繁字)

 これを見ると、特に漢文の読解を勉強した人でなくとも、漢字が読める人であれば、朝
日新聞の引用は下線部を省略していることが分かる。私も漢文読解については高校で授業
を受けた程度であるが、大意は以下のとおりであろう。

「台湾の独立に固執するのはむしろ後退で、危険でもある。【なぜならそれは台湾を未だ
独立していない国家の地位に貶め、その主体性を傷付け、】米国や中国との間に問題を引
き起こすからである。」

 つまりこの発言は、「独立」という言葉への固執が、台湾と中国の双方に存在する「台
湾は中国の一地方」という主張の裏付けとも成り得る危険性を指摘している、と読める。
ところが朝日新聞の報道では、下線部を省略したため、全く別の内容に読み取れる。

 元々、李登輝前総統は、独立した政体である台湾の民主化を達成するとともに、台北の
政府が中国大陸をも統治する、あるいは北京の政府が台湾の統治権を有するという二つの
虚構を否定し、それに伴う様々な不合理の是正に取り組み続けている政治家であり、それ
を「独立派」と呼んだのは中国側の理屈に過ぎない。朝日新聞の記事は「中国が『台湾独
立派の大親分』と一貫して非難している」と述べており、これを裏付ける記述となってい
る。

 余談になるが、前述した発言内容の省略が意図的なものなのか否かについて、ここで追
求する気はない。ただ、類似の報道ではあるものの、やや冷静な内容となっている2月6
日付の読売新聞の記事では、下線部の記述が「総代表」となっており、この言葉遣いの違
いには留意しておくべきだろう。

 話を本筋に戻すと、その読売新聞の記事中にも、「『台湾独立派』指導者」など、「独
立」に括弧を付けた表記と付けない表記が混在しており、表現に苦慮している様子が伺え
る。このことは、一般に認知されている緑陣営を「独立派」、藍陣営を「統一派」とする
表現に、無理があることを示していないだろうか。

 台湾事情に多少なりとも立ち入れば、藍陣営でも中華人民共和国の台湾省あるいは特別
行政区を志向する人間は余程の変わり者であり、「統一派」の呼称もまた、実態からはや
や距離があることが分かる。また、緑陣営には「独立」の主張が存在することは確かであ
るが、これを藍陣営と比較する時、最大の相違点は「中華民国」の扱いにあり、従って、
例えば前者は「本土派」、後者は「民国派」とでも呼称する方が、現状よりは実態に近づ
くのではないだろうか。

 台湾情勢の正確な報道を促すためにも、両陣営の呼称について見直しを提案する。

                                      以上



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