この場合、あまりいい譬えではないかもしれないが、日本には「村八分」という昔からの生活慣習がある。村の中でその家とは絶好状態にあっても葬式と火事の「二分」は例外という、先人の知恵だ。台湾が「村八分」にされていると言うのではない。どんなに疎外された状況にあっても、葬式と火事は別ということを言いたい。
林芳正・外務大臣は、12日の記者会見で、凶弾に斃れた安倍晋三元総理の弔問に訪れた台湾の頼清徳・副総統について「ご指摘の人物」と答えた。先人の知恵にも悖る心無い発言だ。
葬式と火事は例外という日本の慣習は、中国には通じまい。外務省は、日本が頼清徳・副総統にどのような表現を使おうが、中国がねじ込んでくるという予想すら立てられなかったのだろうか。そもそも頼清徳・副総統に訪日ビザを発給したのは、外務省管轄下にある日本台湾交流協会台北事務所ではなかったのか。
安倍元総理は、台湾について「我が国との間で緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナー」と明言した。日本にとって重要なパートナーである台湾から弔問に来た賓客にこのような心無い言葉を浴びせるのが、安倍元総理の遺志を継ぐ政権中枢にいる外務大臣では困るのだ。林外相発言には、台湾人のみならず、日本人の多くも違和感を覚えていると言ってよい。
全日本台湾連合会は7月15日、林外相の発言に抗議する声明を発表した。「礼節の国日本を『非礼の国日本』に貶めるものであり、日本の国益を毀損するものではないでしょうか?」と問いかけ、謝罪と訂正を求めた。抗議は当然であろう。
—————————————————————————————–林芳正外務大臣と外務省の非礼な「ご指摘のあった人物」発言に抗議する
林芳正外務大臣は、7月12日の記者会見において、安倍元総理のご葬儀に参列されるためにわざわざ来日された台湾の頼清徳副総統に対し、「ご指摘のあった人物」との表現を用いられました。
たとえ私人の立場で来日されたとはいえ、また、正式な国交がないとはいえ、民主的な選挙で選出された一国の副総統に対して「人物」呼ばわりはあまりにも非礼にすぎるとは思わないのでしょうか?まして台湾国民の弔意を代表し安倍元総理の葬儀にいち早く駆け付けてくれた頼副総統に対して使うべき言葉ではありません。
釈迦に説法ですが、敢えて問います。台湾において大使館の機能を果たしている公益財団法人日本台湾交流協会台北事務所前に設置されたメッセージボードのことはご存知でしょうか? そのメッセージボードに老若男女を問わず台湾の人々が引きも切らず、心のこもったメッセージを書き込んでいることをよもやご存じないということはないでしょう。林外務大臣の言動はそのような台湾の人々の真心に冷や水を浴びせるものであり、断じて許されるものではありません。
台日両国が、国交の有無を超越して、互いを「家族だ」と言い合うほどに、世界でも極めて稀で良好な関係を築き上げる努力をしてきた多くの人々の脚を引っ張るような発言は厳に控えていただきたく存じます。
巷間「林外務大臣は親中ではなく媚中だ」との批判がやまないのも、このような言動により林外務大臣の「真意」が誤解されているからではないでしょうか?
日本はかつて他国から「礼節の国」と評価されていました。林外務大臣の今回の言動は、その礼節の国日本を「非礼の国日本」に貶めるものであり、日本の国益を毀損するものではないでしょうか?
林外務大臣並びに外務省には、猛省を促すとともに、早急に公式に謝罪、訂正されますよう、礼節の国日本を慕う者として進言いたします。
2022年7月15日
全日本台湾連合会 会長 趙 中正 常務理事会・理事会一同
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