トランプ大統領が台湾の外交的孤立を防ぐ「台北法案」に署名

 米国では、上院も下院も法案内容が同じで、全会一致で可決している場合、大統領が署名しなくても法案は自然成立します。

 去る3月4日、米国連邦議会の下院が台湾に不利となる行動をとった国に対し、外交関係のレベルの引き下げや、軍事的融資などの支援の一時停止または変更など、台湾の外交的孤立を防ぐことを定める「台北法」(TAIPEI Act)案を賛成415、反対0の全会一致で可決しました。この法案は、すでに上院では2019年10月29日に全会一致で可決しています。

 トランプ大統領はこれまで、両院が全会一致で可決した「台湾旅行法」(Taiwan Travel Act)や「アジア再保証イニシアチブ(促進)法」(ARIA:Asia Reassurance Initiative Act)に署名して成立させていることから、この「台北法」案も署名することで成立させるだろうと見られていました。

 案の定、米国東部時間の3月26日、トランプ大統領は自然成立する前に、この法案に署名して成立させました。

 「台北法」の正式な名称は「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」(TAIPEI Act:Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative Act)。下記に紹介するNHKニュースは「トランプ政権は、台湾と各国との外交関係の維持や、中国の反対で認められていないWHO=世界保健機関の年次総会への参加など、国際機関への参加に向けてさらに働きかけを強めることも予想されます」と報じています。

 米国はかつて、キューバに経済援助を行った国家に制裁を課すいわゆる「ヘルムズ・バートン法」(1996年3月12日、ビル・クリントン大統領が署名)を制定していますから、この「台北法」は第2の「ヘルムズ・バートン法」と言っていいかもしれません。

 米国が台湾との関係強化を図りはじめたのは4年前です。大統領選の真っただ中にあった2016年7月、上院が「『台湾関係法』と台湾に対する『6つの保証』を米台関係の基礎とすることを再確認する第38号両院一致決議案」を可決したことに求められるのではないかと思います。

 大統領に当選したトランプ氏は2017年12月18日、米国の外交・軍事戦略の指針として「国家安全保障戦略」を発表、米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力としてロシアと中国を挙げ、米国はインド太平洋地域を重視し、日豪印を不可欠な同盟国と設定しました。

 また、これに呼応して国防省は2018年1月19日、ロシアと中国を「主要脅威」とみなし、インド太平洋地域を重視する「国家防衛戦略」を発表しました。

 その後、国防総省が太平洋合同演習(リムパック)への中国招待を撤回し、連邦議会も「台湾旅行法」や「アジア再保証イニシアチブ(促進)法」を可決。大統領と国務省や国防総省、議会が一丸となって台湾との関係強化を進めています。その象徴が、台湾への地対空ミサイルや戦車、F16V戦闘機などの武器売却ではないでしょうか。

 米国は他方で「インド太平洋戦略」を日本、インド、オーストラリアと共有しつつ、経済戦争といわれる制裁関税を中国にかけるなど、中国の覇権的台頭にクサビを打ち込もうとしています。

 昨年10月のペンス副大統領の演説でも明らかなように、米国はもはや「中国共産党の権威主義的体制を自由で開かれた社会に転換できるとは期待していない」のですから、トランプ大統領やポンペオ国務長官の「武漢ウイルス」と呼んではばからない姿勢からも、中国への対応はいっそう鋭角化するものと予想されます。

 今般の「台北法」の成立に対し、中国政府の反発が形式的で「一応、言うことは言っておこう」という雰囲気が読み取れ、米国の攻勢に追い詰められてたじたじとなっている様子がうかがわれます。

—————————————————————————————–トランプ大統領 台湾の外交を支援する法案に署名 中国けん制【NHKニュース:2020年3月27日】

 アメリカと中国が新型コロナウイルスへの対応で互いに非難し合う中、トランプ大統領は台湾が各国との外交関係を維持するのを支援するための法案に署名し、中国へのけん制を強めています。

 トランプ大統領は、アメリカ議会の上下両院で全会一致で可決されていた台湾の外交関係を支援する法案に26日署名し、法律が成立しました。

 新たな法律は、台湾が正式な外交関係を持つ国と関係を強化できるようアメリカ政府として支援するとともに台湾の安全を損なった国とは外交や経済関係を見直すという内容が盛り込まれています。また、台湾の国際機関への参加も促進すべきだとしています。

 トランプ政権は、台湾への大規模な武器の売却を相次いで決めるなど、関係強化を進めてきました。ただ、台湾と断交して中国と正式な外交関係を結ぶ国が相次いでいて、今回の法律は対中強硬派の議員が目指していたものです。

 成立を受けてトランプ政権は、台湾と各国との外交関係の維持や、中国の反対で認められていないWHO=世界保健機関の年次総会への参加など、国際機関への参加に向けてさらに働きかけを強めることも予想されます。

 これに対して、「1つの中国」の原則を主張する中国は強く反発するとみられ、米中が新型コロナウイルスへの対応で互いに非難し合う中、新たな火種になりそうです。

◆台湾 総統府「トランプ政権の支持に感謝」

 台湾の総統府の報道官は、アメリカで台湾の外交関係を支援する法律が成立したことを受けて「トランプ政権と議会が全力で支持してくれたことに感謝する。アメリカは、台湾にとって最も重要な国際協力のパートナーだ。今後もアメリカ、それに、理念の近い国々と民主主義と繁栄の価値を分かち合いながら関係を強化し、台湾がさらに国際貢献ができるようにしていきたい」というコメントを発表しました。

◆中国外務省「断固反対 必ず反撃」

 中国外務省の耿爽報道官は27日の記者会見で、アメリカで台湾の外交関係を支援する法律が成立したことについて、「『1つの中国』の原則に著しく反し、中国の内政に干渉するものであり、中国は強い不満を表明し、断固反対する。アメリカには間違いをただすように促し、この法律を実施しないでもらいたい。さもなければ、中国は必ず断固とした反撃を加えるだろう」と述べ、強く反発しました。

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