【日台漁業協議】 尖閣軸に交錯する観光と漁業 日台“最前線”交流  吉村 剛史

去る11月13日、沖縄県石垣市の中山義隆市長や八重山漁協の上原亀一組合長らが訪問団
を組んで、姉妹都市提携する蘇澳鎮を訪問し、漁業が絡んだトラブルをなくしていくた
め、地域同士の交流を深めていくことを互いに確認したことを、NHKニュースの動画と
ともにお伝えした。

 日台漁業協議について、台湾・外交部の林永楽部長(外務大臣に相当)は翌14日、「操
業範囲の線引きでまだ調整中だ」と述べ、日本との11月中の予備協議開催をめざす姿勢を
明らかにした。

 ところが、11月16日に衆議院が解散し、台湾側には「本格的な漁業協議再開は衆院選後
だろう」と予測する声も出ていることを、中山市長らに同行取材した産経新聞の吉村剛史
(よしむら・たけし)記者が伝えている。

 漁民の死活にかかわる「操業範囲の線引き問題」は重要だが、一方で「政治問題で地域
が育んだ友好を損ねるべきではない」(陳春生・蘇澳区漁会理事長)という日台の漁協同
士の合意も重要だ。こういう現場の声が漁業協議の場に反映されることを期待したい。


尖閣軸に交錯する観光と漁業 日台“最前線”交流
【MSN産経ニュース:2012年11月18日「国際情勢分析 吉村剛史の目」】

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121118/chn12111818000003-n1.htm

写真:蘇澳区漁会(漁協)で13日に行われた石垣市の訪問団と地元漁民らとの漁業座談
   会。交流の推進を確認し、笑顔で閉会した。前列左から林騰煌蘇澳鎮長、中山義隆
   石垣市長、陳春生蘇澳区漁会理事長、上原亀一八重山漁協組合長(吉村剛史撮影)

 沖縄県・尖閣諸島(石垣市)周辺海域の扱いが焦点となる日台漁業協議再開へ向けた調
整の中、台湾北東部の宜蘭(ぎらん)県蘇澳(すおう)で13日、石垣市の中山義隆市長
(45)ら市訪問団11人と、地元自治体や漁民による意見交換会が開かれた。日本政府の尖
閣国有化を受け、宜蘭漁民らが抗議漁船団を組んで尖閣の日本領海に侵入した9月の騒動後
初の日台“最前線”交流会だった。双方ともに衝突回避や問題解決へ努力する姿勢を強
調。同時に「定期便就航」(石垣)と「漁場開放」(蘇澳)という、それぞれの思惑も交
錯し、今後の日台当局の協議の中でどのように反映されるのか、注目を集めそうだ。

 「一連の騒動後だからこそ、蘇澳を訪れる意義は深い。地域の課題は一つ一つ解決でき
ると信じている」

 13日、八重山漁協の上原亀一組合長(50)らと台湾桃園国際空港から蘇澳鎮(町)役場
に直行した中山市長はこう語った。握手と抱擁で迎えた蘇澳鎮の林騰煌(りん・とうこ
う)鎮長(64)も「意見交換を通じ、双方にとって最善の道を見つけたい」と応じた。

 石垣市と蘇澳鎮は1995年に姉妹都市提携し、毎年交互に訪問団を送っている。昨年は石
垣側で漁業交流も始まり、今回は蘇澳側で初の漁業座談会が蘇澳区漁会(漁協)を会場に
開催された。9月に抗議漁船に乗り込んだ漁民らも出席し、「釣魚台(尖閣の台湾側呼称)
周辺は私たちの先祖からの伝統漁場」との思いや、自由に漁ができない不満なども率直に
吐露。蘇澳区漁会の陳春生(ちん・しゅんせい)理事長(48)らは「主権に絡む政治問題
で地域が育んだ友好を損ねるべきではない」とし、尖閣の周囲12カイリ(日本領海)を養
魚場とする案などもあげながら、「争いを棚上げし、資源を共有する」ことを呼びかけた。

 石垣側の上原組合長も地域の一層の交流活発化に期待を寄せ、「漁業の現場同士の意見
交換を密にし、漁業でトラブルが生じないような取り決め締結に向けた環境づくりを進め
たい」などと応じた。

◆定期便就航に期待

 蘇澳側が漁業問題の進展に強い期待を示した一方、中山市長からは「台湾から最も近い
日本の楽園」と題する「要請書」が林鎮長に手渡された。

 来年3月7日に開港する国際ターミナルを備えた新石垣空港への台湾からの定期便就航に
向け、協力を求める内容だ。距離的な近さを武器に「新しい旅行形態」や「相互の特産品
の交流および商品開発」などにより「協働的な経済発展」に期待を寄せている。

 「訪問団の主眼は観光。すでにチャーター便が結んでいるが、念願の定期便就航を実現
させ、目前の台湾の観光市場を開拓したい」と石垣市幹部。事実、訪問団は蘇澳に1泊して
漁民らと交歓した後は、台北に移動して航空局や航空会社巡りに追われた。

◆新たな関係に呼応

 石垣市幹部によると、台湾からの観光客誘致にかける石垣側の動きは「中台関係の変化
に呼応した動き」という。

 2008年に発足した馬英九(ば・えいきゅう)政権の対中関係改善により、中台間の直接
往来が定着した。「だが以前は経由地が必要だった。石垣港は日本寄港のスタンプを求め
る台湾船が年間数億円を落としていた。今は年間数百万円ぐらい」という。

 現在、石垣への台湾からの年間観光客数はクルーズ船で約5万人、チャーター便で1万人
弱。「目の前に人口約270万の台北市、郊外に約390万の新北市がある。石垣とセットで東
京・大阪の観光客も呼べば台湾側にも利がある」という。また、「八重山漁協の組合員数
は約3000人。対する宜蘭漁民は約3万人。マグロは別としても、アジやサバの漁場なら話し
合いの余地はある」というのが石垣漁民の大方の考えで、「観光」と「漁業」の取引も
「荒唐無稽な話ではない」とも。ただし、「沖縄県漁連の一部には別の意見もある」とい
い、最終的には日台当局による漁業協議再開を待たねばならない。

 が、馬英九総統(62)に近い与党・中国国民党の幹部の一人は、「本格的な漁業協議再
開は衆院選後だろう」と予測。「その間の当事者同士の自発的な交流や信頼関係の構築は
悪い動きではない。もし日本の政権が変わっても、現場の声が前向きな協議継続を後押し
するはずだ」と期待を寄せた。           (よしむら・たけし 台北支局)


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