「羽鳥又男胸像除幕式」祝辞  手島 仁(群馬県立歴史博物館 専門員)

上にご紹介したように、来る11月18日、日本統治時代の「最後の台南市長」として今で
も台南の人々から尊敬されている羽鳥又男(はとり・またお)の生誕120祭が生地の群馬県
前橋市内で開かれる。

 後藤新平や八田與一の胸像を制作されてきた奇美実業創業者の許文龍氏が羽鳥又男の功
績を知り、その胸像を制作した。この胸像は羽鳥又男のご子息の羽鳥直之氏に寄贈、そし
て生まれ故郷の群馬県前橋市内にある天台宗の名刹「珊瑚寺」境内に設置され除幕式が行
われた。平成19(2007)年4月25日のことだ。

 この胸像除幕式の模様は本誌でも紹介したが、下記の本会ホームページからも多数の写
真とともに掲載している。

 また、羽鳥又男の研究をする群馬県立博物館の手島仁氏による当日の祝辞も併せて掲載
している。羽鳥又男の功績を顧みるため、ここにその祝辞を再掲したい。

◆台南で今も敬愛される「末代市長」羽鳥又男翁、胸像除幕式
 http://www.ritouki.jp/news/20070425hatori.html


「羽鳥又男胸像除幕式」祝辞

                      手島 仁(群馬県立歴史博物館 専門員)

 本日、台湾の実業家・許文龍先生から贈られました羽鳥又男翁の胸像の除幕式が、関口
隆正氏を会長とする羽鳥又男顕彰会の主催により、台湾からのご来賓はじめ関係各位の御
臨席のもと挙行されますことを、衷心よりお祝い申し上げます。

 とくに又男翁の胸像が、濱田ご住職、小渕檀家総代はじめ、世話人に皆様方や檀家の皆
様の大変なるご理解のもと、天台宗の名刹・珊瑚寺に設置されることになりましたこと
は、台湾と日本の両国の人々の善意の賜物によるものと、敬意を表する次第です。

 羽鳥又男翁は、明治25年4月20日に富士見村石井に、羽鳥多三の三男として生まれまし
た。今年は生誕115年にあたります。又男の父・多三は第2代富士見村長を務めた方です。
大正5年、親戚の羽鳥重郎医学博士を頼り台湾へ渡り、台湾総督府に勤務、その精勤振りか
ら長谷川清総督の信頼厚く、昭和17年に台南市長に抜擢され、敗戦までの約3年間市政を司
りました。すでに前年には真珠湾攻撃による太平洋戦争が始まっており、すべで軍事優先
の時代に市長となったわけですが、台南市民のことを考え、大局的な見地から、行政を行
いました。そのことが、戦後60年を経過した現在でも、台南の方々に又男翁が、敬愛さ
れ、胸像がつくられ、台南と郷里の富士見村へ設置されることになったわけです。

 羽鳥市長の功績を簡単に紹介しますと、次の4点です。台南は日本の京都にあたり、台湾
の歴史・文化を象徴する貴重な文化財がある都市です。孔子を祀る台南の孔子廟は、台湾
の文化発祥の学堂でした。日本の軍国主義は、そこに神棚を置くことを命じました。しか
し、羽鳥市長は孔子廟に神棚はふさわしくないと撤去させると共に、「孔子の教えは国境
を超え、時代を超え永遠に伝承されるべきもの」と、老朽化した孔子廟を修理し、祭礼を
復活させ、自ら揮毫した「台南孔子廟」の標柱を廟門前に建てました。

 さらに赤嵌楼という歴史的建造物が倒壊しそうなほど危険な状態で放置されていたの
を、戦時下ゆえ軍部などは猛反対でしたが、台湾総督に掛け合って、大規模な修復工事を
昭和18年3月から19年12月に行いました。

 孔子廟も赤嵌楼も台湾の人々の心のよりどころという文化財で、その老朽化に誰もが心
を痛めていましたが、軍事色をます当局に言い出せなかったのを、市民の心情を汲んで実
現しましたものでした。また、開元寺というお寺の鐘は台湾で最も古いもので、戦時中金
属供出されたのを、それに待ったをかけました。軍関係者からは非国民と罵られる時代
に、生命の危険を省みず、勇気を持って行動しました。

 孔子の教えである儒教では、知識の深い浅いを人物評価の大きな尺度としていません。
その理由は、知識はなくてはならないが、知識だけでは複雑で変化極まりない現実には応
対し得ない。知識でなく見識が必要であり、見識でなく胆識が必要であるというもので
す。ただの知識に対して、ものの正しい判断が出来る段階を見識といいます。しかし、見
識もまだ本物でなく、正しい判断をして、さらにその決断によって決然と実行していく胆
力が必要で、この胆力の元になっているのが、胆識です。儒教では知識から見識、見識か
ら胆識を養うことを理想としています。又男翁は、胆識、胆力をもって市長職を行ったと
いえます。

 また、又男翁は戦後は、帰国して、国際基督教大学の創立、そして運営を裏方として支
え、威張ることもおごることもなく、敬虔なクリスチャンとして生涯を閉じられました。
儒教では「世に知られざるところに徳人あり、知られているところに不徳の人が多い」と
いいます。まさに、又男翁は「世に知られざる徳人」であります。この我が上州の生んだ
「世に知られざる徳人」を、許文龍先生はじめ、台湾の方々により、世に出して頂きまし
たことに深く感謝申し上げます。

 このたび、胸像が郷里に設置されたことについて、未来を展望し、次の3つの意義がある
と思います。

 その第1は、国際化がますます進展する社会に於いて、われわれ日本人がどのように生き
るべきかを羽鳥又男翁の生き方、そのものが指標であるということです。つまり、われわ
れは、学歴や肩書きなどでなく、本物の学問をして自己を磨き、胆識、胆力をもって国の
内外で行動しなければならないということです。それが国際社会から信頼される日本を築
くことになるということを、台湾から贈られた又男翁の胸像が実証しているということで
す。

 第2は、又男翁は石井小学校で代用教員をしていた時分からキリスト教に関心を持ち、台
湾に渡りすぐに洗礼を受け、クリスチャンになりました。群馬県からは新島襄と内村鑑三
という、わが国を代表するキリスト教の思想家が輩出しています。内村鑑三の直筆の「漢
詩 上州人」と「I FOR JAPAN,JAPAN FOR THE WORLD,
THE WORLD FOR CHRIST,AND ALL FOR GOD」という
英文が刻まれた碑が、高崎市役所近くの頼政神社に、昭和36年に鑑三の生誕100年を記念し
て、鑑三を敬愛する群馬県人によって建てられました。世界広しと雖も、クリスチャンの
碑が神社に建っているのは、ここだけです。これと対をなして、クリスチャン羽鳥又男の
胸像が、珊瑚寺に設置されました。クリスチャンの胸像が寺院に設置されたのも、ここだ
けであります。これは、理屈を言わず、義理・人情に厚い上州人気質が、美しく開花した
ものということが出来ます。 又男が裏方として誕生した国際基督教大学は、日米のキリ
スト教の諸派が協力して昭和24年に開学しましたが、それに先駆け、群馬県では明治21年
に県内のキリスト教徒が、プロテスタント諸派からロシア正教徒までが大同団結して、現
在の共愛学園を創設しました。ほかの地域では見られないキリスト諸派の協力という現象
も、理屈を言わず大らかで開放的な上州という風土であったから可能であったといえま
す。

 上州人気質を反映させた大らかな宗教観は、国際化が進む社会では大いに注目され、社
会に貢献することと思います。クリスチャンの羽鳥市長が孔子廟から神棚を撤去させ、孔
子廟を修復させ、祭典を復活させたのも、開元寺の鐘を守ったのも、上州人気質を反映さ
せた寛容な宗教観を持っていたからだと思います。

 第3に、今年の1月1日から「観光立国推進基本法」が施行されたように、「魅力ある国づ
くり・地域づくり」が観光を通して進められようとしています。観光は21世紀で最も重要
な国家的な政策となりました。群馬県も県を挙げて観光振興に取り組んでいます。観光に
よって、?人口減少社会を迎える中で交流人口の拡大を通じた「産業・地域の活性化」、
?草の根レベルでの「国際的な相互理解」、平和の推進などが期待されています。

 台湾では羽鳥又男翁のように尊敬されている日本人に後藤新平、八田與一などがいて、
許文龍先生により胸像がつくられています。八田與一は石川県金沢市生まれの技師で、台
湾にダムをつくったことで知られています。郷里金沢市には資料館もあり、台湾から訪れ
る人も沢山いて、加賀屋という有名な旅館には、年間1万人以上の台湾人が宿泊するそう
です。

 群馬県でも、富士見村で羽鳥又男、羽鳥重郎博士、前橋市では共愛学園の周再賜校長や
須田清基牧師、安中では六氏先生の一人・中島長吉と、台湾ゆかりの人物がたくさんいま
す。羽鳥重郎は台湾の風土病撲滅に功績のあった人で、台湾と群馬県で協力して、野口英
世賞に倣って羽鳥重郎賞を創設して、世界に文化を発信するということもできます。これ
ら台湾ゆかりの方々の資料館や史蹟などが整備されるならば、多くの台湾の方々が群馬県
を訪れることでしょう。また、逆に群馬県人が台湾を訪れ、互いの地域が活性化され、相
互理解が深まり、台湾と日本の絆が益々深まることと思われます。

 この胸像は私どもに、夢と勇気を与えてくれる台湾からの尊い贈り物であります。

 本日は、誠におめでとうございます。以上を以て、祝辞と致します。

 平成19(2007)年4月25日


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