今年(2018年)3月16日(米東部時間。日本時間17日)、トランプ米大統領が「台湾旅行法」(Taiwan Travel Act)に署名した。
まもなくゲリット・ヴァン・ダー・ウィーズ(Gerrit van der Wees)が『ザ・ディプロマット』(“The Diplomat”3月19日付)に、「(歴史的)文脈の中の台湾旅行法」という論文を掲載した。ウィーズは次のように喝破している。
まず、第1に、1979年の「台湾関係法」には明文化されていないが、同法は台湾の総統・副総統・行政院長(首相)・外務大臣・防衛大臣のトップ5人はワシントン入りを禁じていた。また、米国側の政府高官も台湾のカウンターパートに会うことができなかった。
そのため、新法案に書かれているように、「台湾関係法が発効以来、米国と台湾の間では、米国が自ら課した規制―米高官の台湾訪問を控える―のため、コミュニケーション不足に陥った」のである。
新法の発効で米台間の長年の懸案であった両国高官の交流が可能になった。今まで不可能だった米大統領と台湾総統が、今後、どこでも公に会える。
第2に、米下院では同法案が今年1月9日に、米上院では2月28日に通過した。重要なのは、両院共に“全会一致”で法案が成立した点である。議員は誰一人として反対しなかった。
第3に、この度、なぜ「台湾旅行法」が米議会をスムーズに通過したかと言えば、従来の米国による対台湾政策が“時代遅れ”になってしまったからである。特に、1990年代から始まった急速な台湾の民主化は新しい状況を産み出していた。
第4に、ニクソン訪中以来、米国が中国に期待していた“軌道”から北京は大きくハズレて(民主化や法による世界秩序の維持等)、ついには我が道を歩むようになった。そこで、米国は対中政策を考え直さねばならなくなったのである。今後、米国はインド・太平洋地域での民主化された国々と伝統的な関係を再構築する。また、台湾に関しても根本的なリバランスを行う。
一方、中国共産党は、米国の「台湾旅行法」成立を以前から警戒していた。今年3月2日付『環球時報』(『人民日報』傘下)では、同法案が「一つの中国」の“レッド・ライン”に対する重大な挑戦であり、米中関係を損なうと非難したのである。さらに、それは「台独勢力」には媚薬となり、彼らを興奮させたとも指摘している。
さて、「台湾旅行法」成立直後の3月20日、早速、米国務次官補代理のアレックス・ウォン(Alex Wong=黄之瀚)が訪台した。おそらくウォン次官補代理の訪台はかなり前から準備されていたと思われる。ただし、トランプ政権は中国の反発を最小限に抑えるため、高官といっても下位の次官補代理を派遣している。
翌21日、台北市米国商会(AmCham Taipei)は、グランド・ハイアット台北で晩餐会(「謝年飯」)を主催した。昨年同様、蔡英文総統(米コーネル大学法学修士、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス法学博士)も出席している。そこには700人もの人々が集まった。
ウォン次官補代理は、晩餐会の演説の中で、台湾の民主主義を賞賛し、米国による台湾防衛を再確認した。
ウォンは1980年生まれの若きエリートである。ウォンは香港から米国への移民(祖籍は広東省台山市)だった。ペンシルバニア大学で学び、その後、ハーバード大学大学院で法学修士を取得している。
パーティには、AIT(=American Institute in Taiwan。米国在台協会)のキン・モイ(Kin Moy=梅健華)も出席した。キン所長は(オバマ政権下の)2015年からその職を務めている。
キンは、やはり香港から米国への移民3世である。コロンビア大学・ミネソタ大学を卒業し、外交官になった。
実は、このパーティを主催した台北市米国商会(非営利組織・無党派団体)の会長は、30代前半の章錦華(Albert G. Chang)である。
章錦華は、米カリフォルニア州で生まれ育った。そして、スタンフォード大学を卒業してから、ウォン同様、ハーバード大学大学院で法学修士を取得した。その後、両親の祖国、台湾へ行き、マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)台湾支社の総経理になっている。
蔡英文総統は、当日のパーティで、アレックス・ウォン(黄之瀚)米国務次官補代理、AIT所長のキン・モイ(梅健華)、それに台北市米国商会会長の章錦華(Albert G. Chang)という華人系のエリート達と乾杯している。外部から見れば、意外な光景だったに違いない。