私ども首長が「日台共栄首長連盟」を設立した理由  宮元 陸(発起人代表)

 現在、台湾有事について多くの議論が巻き起こっています。最近、もっとも話題になったのは、安倍晋三前首相が台湾向けの講演で「台湾有事は日本有事すなわち、日米同盟の有事でもある。この点の認識を、北京の人々は、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではない」と指摘したことではないかと思います。

 毅然として、中国に自制を求めるこの指摘は、台湾海峡の平和と安定を願う多くの人々を納得させるものではないかと思います。

 今年1月に発足した米国のバイデン政権も、トランプ前政権の台湾政策を受け継ぎ、台湾との関係強化に力を入れています。

 一方、今年に入ってからは、香港の一国二制度の形骸化を指摘する声が欧米で相次ぎ、ウイグルにおける人権状況について「ジェノサイド」つまり民族の大量虐殺ではないかという声がヨーロッパでも上りはじめ、中国への深刻な懸念が共有されるとともに中国離れのドミノ現象が起こっています。

 同時に、ヨーロッパではオランダやフランスなどで、台湾が世界保健機関総会などの国際機関に参加できるよう支持する決議がなされ、チェコやリトアニアやフランスなどからの訪台団が相次ぎ、台湾との関係を強化する動きも顕著になっています。

 その象徴的な出来事が、欧州議会が10月に台湾との関係強化をEUに求める「EUと台湾との政治関係と協力」という報告書を圧倒的多数で可決したことと、11月18日のことでしたが、リトアニアに「台北」ではなく「台湾」の名称を冠した「駐リトアニア台湾代表処」が開設されたことではないかと思います。

 いまやヨーロッパでも、「地政学的な要衝にある台湾」「民主主義世界に重要な台湾」という認識が共有されるようになりました。

 日本も、清国から台湾を割譲されたときから台湾の地政学的重要性を深く認識し、最初の海外統治ということと相まって、台湾の統治にもっとも力を注ぎました。日本が世界で唯一、50年の歴史を共有したのが台湾です。

 また、台湾の親日ぶりはよく知られるところです。日本台湾交流協会台北事務所が実施した台湾の人々への世論調査でも「あなたの最も好きな国(地域)はどこですか」という質問には、常に日本が断トツの1位です。一方、台北駐日経済文化代表処の日本人への世論調査でも「もっとも親しみを感じるアジアの国・地域」は、常に台湾が1位で、2位以下を大きく引き離しています。

 このような、いわば相思相愛の日本と台湾ですが、現在、国交はありません。政府間の外交関係がございません。1972年9月に中国と国交を正常化すると同時に、日本は台湾との国交締結を国会で批准したにもかかわらず、外務大臣の一片の記者会見で台湾と断交しました。来年で50年という節目の年を迎えますが、今から思いますと、法治国家にあらざる日本の行いであったかと思います。

 台湾では、1980年代末から90年代にかけ李登輝総統による民主化が進み、日本統治時代の日本人教師と台湾人子弟の交流などは頻繁に行われていました。しかし、断交した台湾への日本の対応は真に冷たいものでした。1994年に李総統が翌年開催のAPEC大阪会議に参加を表明したのですが、当時の村山富市首相と河野洋平外相が反対して実現しませんでした。また李総統が1997年に母校である京都大学の創立百周年式典へ出席を希望したところ、京大側が「中途退学だから」という理由で断わるなど、台湾を冷遇していました。

 その風向きが変わってきたのは、2001年、平成13年春からでした。心臓病治療のために訪日を希望する李登輝氏へのビザ発給を巡って起きた紛糾が、当時の森喜朗首相の決断で来日することを決めてからでした。

 このことをきっかけに日台関係が動き出し、2002年5月には日本政府が台湾のWHOへのオブザーバー参加を支持し、11月には外務省の内規改正で課長職以上の訪台が可能となりました。2003年1月には、交流協会に前陸将補が防衛担当主任として初めて着任しています。

 その後も、台湾で日本のナショナル・デイとして「天皇誕生日祝賀レセプション」が開催され、台湾人への叙勲も再開されました。日台間では100件以上の都市間提携が結ばれるようになりました。私が市長をつとめる加賀市も、台南市や桃園市など台湾の4つの自治体と友好都市協定を結んでいます。また、「日台民間投資取決め」や「日台民間漁業取決め」「日台民間租税取決め」など30以上の取決めが結ばれ、2017年には双方の窓口機関の名称が、日本は「交流協会」から「日本台湾交流協会」に、台湾も「亜東関係協会」から「台湾日本関係協会」に改められました。

 しかし、日台間に国交がないことから、民間機関を窓口としてすべての外交関係を処理していますので、2019年3月、台湾の蔡英文総統が持ち掛けた安全保障問題に関する対話には応じられないという現状です。民間機関が国の防衛に関与できないのは当たり前のことです。

 では、台湾有事や日本有事が現実味を帯びてきた現在、日台が安全保障について政府間の直接対話は可能なのでしょうか。現状では不可能です。しかし、米国が台湾関係法に基づいて台湾に武器を供与できるように、日本でもそのような法律があれば、安全保障関係の対話も可能になります。

 本会の設立趣意書に「我々は自由・民主主義・法の支配・人権という普遍的価値観を共有する日本と台湾の関係を、従来の経済文化面での交流促進にとどまらず、法整備の面さらには政治、安全保障面において更に強固にするべきとの意見の一致を見」と記したのは、まさにこのことを指しています。

 本来は立法府である国会の為すべきことですが、なかなかこの法律の制定が日の目を見ず、一方で中国の台湾への圧力が昂じて来ている現状に鑑み、敢えて私ども地方自治体の首長たちが法制化を実現するために立ち上がりました。ご理解をいただき、またご支援のほど賜りたいと存じます。ありがとうございました。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。