海を渡る蝶アサギマダラ−日本列島と台湾の自然(2)[台北 林 彦卿]

海を渡る蝶アサギマダラ−日本列島と台湾の自然(2)[台北 林 彦卿]
林彦卿氏の「海を渡る蝶アサギマダラ」の2回目をお届けする。アサギマダラはやはり
日本から2000キロメートルも飛んで台湾へ渡っていた。また、台湾から日本へも飛んでき
ていた──。

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海を渡る蝶アサギマダラ−日本列島と台湾の自然(2)

                                    林 彦卿
【榕樹文化 第18号 2007年・新年】

■屏東で発見された大阪生駒山から放ったアサギマダラ

 2000年(平成12年)初夏に、うちの娘が草山(陽明山)に採集に行き、若干収穫があっ
た。3匹アサギマダラがいたが、中の1匹は後翅にアルファベットとアラビア数字がマー
キングされていた。ビックリしたが、まだ元気なので戸外に出し放してやった。

 あれは日本から飛んで来た個体だったのだろうか。マーキングがカタカナか漢字だった
ら、何時何処で放したかが分かったのに、その文字数字も写さず、写真も撮らないで放し
てしまったのは大失策だった。展翅して標本にしても良かったのにと残念に思った。

 当時、京都の昆虫学者谷角さんが来台していた。専門はカブト虫だが、蝶も詳しい。マ
ーキングされたアサギマダラを採取したことを話し、日本から飛んできたものではないか
と尋ねたら、「日本で放したもので一番遠くまで行ったのが、与那国島で、台湾ではまだ
発見されていない」とのことであった。

 ところが、その翌年(2001年)の11月25日、大島新一郎(78歳)が大阪生駒山から放し
たアサギマダラが、62日後、2000キロメートル離れた屏東の寿[上下](シュカ)で捕獲
された。左前翅に「IK」、左後翅に「SOA118」と標記された雄のアサギマダラだ
った。寿[上下](シュカ)とは高砂族語の地名の当て字で、屏来県と台東県との県境の
峠である。

 寿[上下](シュカ)には、ずっと普、陳維寿さんと一緒に行って、キシタアゲハの雌
を1匹捕らえたことがあった。4月頃にキシタアゲハが発生するので、蝶採りの商売人は
その時期よくここに集まる。

 この蝶は元来、台湾南部のガランピ半島では普通種だったが、開墾と乱獲のため激減し、
絶滅寸前である。台東の沖に紅頭嶼(蘭嶼)かあり、この島にはキシタアゲハに非常に似
たコウトウキシタアゲハが生息している。本種は下翅の黄金色紋がキシタアゲハより広く、
腹部全体は黄色である。コウトウキシタアゲハはキシタアゲハの亜種ではなく、全く別種
なのである。

 ガランピ半島で採れた記録はあるが、土着していないようで迷蝶に属する。この二種と
もフィリピン系の蝶であるが、台湾産マダラチョウ中最大のオオゴママダラもフィリピン系
の蝶で、台湾南端では普通種であるが、最近は北部にも現われ琉球まで飛んでいく。

■台湾から日本への北上は3例

 2006年(平成18年)、NHKは旅をする蝶アサギマダラの番組を放映した。奥津敬一郎
教授が「アサギマダラを調べる会」のホームページからパンフを手に入れて郵送してくれ
た。

アサギマダラの移動調査ネット

台湾から3例目の北上記録:台湾→大分県
今年は3年ぶりに台湾からの北上記録が出ました
2000年(平成12年)に出た台湾→鹿児島県指宿、台湾→滋賀県に続き3例目の記録となり
ました。
台湾陽明山(草山)→大分県別府市鶴見岳
北東へ約1300km移動(移動日数67日)
標識:058F YMS NTU
性別:♂
標識地:台湾陽明山(草山)
標識日:2003年6月10日
標識者:李 信徳
再確認地:大分県別府市鶴見岳山頂
再確認日:2003年8月6日
再確認者:鶴田須美子・寺本 勲
再確認の方法:撮影(撮影)

 李信徳さんは台湾大学でアサギマダラの調査をされている大学院生。
 大分県で写真撮影された鶴田須美子さんと寺本勲さんは、鶴見岳でたまたまマークのつい
たアサギマダラを見つけて撮影したそうです。喜界ケ島の福島誠さんへ問い合わせがあり、
移動が判明しました。*

*喜界ヶ島は、奄美諸島の一つの小島で、以前、標識のついたアサギマダラが日本から飛
 来したのを島民の福島さんが確認している。

 この台湾から日本へ海を越えて移動した第3例目のアサギマダラのマーキングは、「0
58F YMS NTU」であって、「YMS」はYang Ming San 陽明山で、「NTU」
はNationa1 Taiwan university 国立台湾大学とすぐに分かったが、日時の表記が無いので
、台湾胡蝶保育学会に電話したら、林伯昌さんが出て来られて、058Fが日時の記録だと
言う。すなわち、Fはアルフアベットの6番目のFで、第6回の放蝶を意味する。 058
はその日の第58匹目にマーキングしたという意味であり、捕獲者NTUはここでは林信徳
氏で、彼に開くと、Fは6月10日だと判明した。

 アサギマダラは、前翅が5〜6センチメートル、青灰色半透明で、後翅には褐色が混ざ
る。地味な渋い色調は優雅で気品があり、日本全国で行われた「あなたの一番好きな蝶は」
のコンテストでは第1位だった。

 日本ではアサギマダラの研究が20年前から進められていて、この蝶は毎年春から夏への
気候の移り変わり目の頃、沖縄群島から北の方向に移動し、日本本州、四国、九州へ大移
動するのだが、もう今では日本に土着して生息し、従来観察例が少ない北海道の利尻島、
釧路、特に函館山辺りに多く、ロシアの沿海州でも見つかっている。

                                   (つづく)

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