島サミットに台湾代表の招待を  浅野 和生(平成国際大学副学長)

2016年8月に安倍晋三総理が発表した日本の外交方針である「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific Strategy 略称:FOIP)」構想は、米国のトランプ大統領が採り入れ、2017年11月にベトナムで開かれたAPECの場で「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げた。

続くバイデン大統領も2022年2月に引き継いでいる。

日本の外交方針を海外国が採用したのは初めてのことだった。

今ではEUなどヨーロッパ各国でも賛同国が続出している。

「自由で開かれたインド太平洋」の最大のポイントは、中国の軍事的・経済的な台頭による混乱を抑制し、インド洋と太平洋を繋ぎ、アフリカとアジアを繋ぐことで国際社会の安定と繁栄の実現を目指すことにある。

米国はパートナー国として、インド、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、シンガポール、台湾、ベトナム、太平洋島嶼国家を挙げ、米国と同盟を結ぶ5カ国(オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、タイ)との関係深化を図ってきた。

日本は一方で、米国に先んじて、ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの太平洋島嶼国・地域は、親日的で、国際社会において日本の立場を支持するなど、日本にとって重要な国々という認識の下、これらの国々との関係を強化しようと1997年10月から「太平洋・島サミット(Pacific Islands Leaders Meeting:PALM)を主催し、3年ごとに日本で開催してきている。

参加国は、日本を含め19か国(日本、キリバス、クック諸島、サモア、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル、ミクロネシア、オーストラリア、ニューカレドニア、仏領ポリネシア)が参加している。

台湾が「自由で開かれたインド太平洋」の要衝とされるのと同じように、太平洋島嶼国家は、日・米・豪の安全保障にとってとても重要な位置にある。

それゆえに日本は、これまた米国に先行し、2021年9月から防衛省が多国間防衛相会合として「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」(JPIDD:: Japan Pacific Islands Defense Dialogue)を主催している。

地域における安全保障上の意見を交換する目的で、太平洋島嶼国家で軍を有する3ヵ国(フィジー、パプアニューギニア、トンガ)の国防大臣を招き、軍未保有島嶼国や関係の深いパートナー国として米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、フランスなどの実務者を招待して開催している。

第1回は岸信夫・防衛大臣が2021年9月、新型コロナウイルス蔓延のためテレビ会議形式で開催し、第2回は木原稔・防衛大臣が本年3月19日と20日に開いている。

ウクライナへのロシアの侵攻やガザ地区でのイスラエルとハマスの戦闘にメディアの目が向きがちな現在、太平洋島嶼国家へのメディアの関心は低い。

しかし、この間隙をぬって中国は、台湾の国際的な孤立化をはかって太平洋島嶼国家の国交国を次々と断交させ、米国や日本、オーストラリアの安全保障をも脅かしている。

本会副会長で平成国際大学副学長の浅野和生氏は、本日の産経新聞「正論」欄に寄稿し、7月16日から18日にかけて「太平洋・島サミット(PALM10)」が東京で開催されることから、覇権国家・中国の不当な影響力拡大を阻止するために「太平洋のもう一つの島国として自由、民主、法の支配という価値観を共有するパートナーである台湾の代表をオブザーバーとして招いてはどうか」と提案している。

とても有意義な提案であり、重要な提案だ。

メディアがあまり関心を示さないからといって、太平洋島嶼国家の安全保障などは重要でないとは言えない。

むしろ、メディアが見逃している重要なテーマだと言ってよい。

台湾を太平洋・島サミットに招待することは、中国の神経を逆撫ですることは分かっている。

しかし、その前に中国は日本や米国の神経を逆撫でしている。

「自由で開かれたインド太平洋」を実現しようとする日本は、主催国として堂々と台湾を招待すればいいのではないか。

◆第10回太平洋・島サミット(PALM10)(令和6年7月16〜18日) https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/pagew_000001_00252.html


島サミットに台湾代表の招待を浅野和生(平成国際大学副学長)【産経新聞「正論」:2024年5月27日】https://www.sankei.com/article/20240527-7N4NRT5WGZIENIAEGMNU2CMFEM/?613318

 2016年8月27日、ケニアで開催されたアフリカ開発会議(TICAD6)の冒頭、安倍晋三首相は基調演説で、日本が「太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無縁で、自由と、法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任」を担うと宣言した。

◆太平洋島嶼地域の繁栄と安定

 22年5月23日、東京で開催されたバイデン米大統領との日米首脳会談で岸田文雄首相は「自由で開かれた国際秩序の強化」と題する共同声明を発表した。

その中で両首脳は欧州やカナダ等、その他の地域の志を同じくするパートナーとの協力の重要性と、国連海洋法条約(UNCLOS)に整合した形での、航行及び上空飛行の自由を含む法の支配に対する確固たるコミットメントを強調した。

ところでG7の共通目標ともなった「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」実現のためには、広大な太平洋を自由で開かれた、法の支配が貫徹する海として保たなければならない。

しかし、習近平政権の中国は第一列島線、さらには第二列島線を越えて太平洋における覇権を掌握すべく、着々と歩を進めている。

19年9月にはソロモン諸島とキリバスに手を伸ばし、台湾との国交を断絶させ、中国と国交を樹立させた。

さらに中国は22年4月にソロモン諸島と安全保障協定を締結、23年3月には同国の港湾建設を中国土木工程集団が請け負った。

また本年1月13日に台湾総統選挙で民進党の頼清徳候補の当選が決まると、その2日後の15日、ナウルをして台湾との国交を断絶させ、さらに中国と国交を結ばせている。

さて日本は、太平洋島嶼(とうしょ)国の首脳を一堂に集めた会議「太平洋・島サミット(PALM)」を1997年から3年ごとに主催してきた。

PALMはもともとミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの太平洋島嶼国と日本との関係を強化し、各国共通の課題の解決を図るとともに、太平洋島嶼地域の安定と繁栄を目指す首脳レベル協議であった。

◆7月に東京でPALM10

しかし安倍氏は2018年のPALM8開催に当たって来日したほぼすべての島嶼国首脳と二者会談を持ち、「自由で開かれたインド太平洋」の具体化に向けた連携を強調し支持をとりつけた。

さらに首脳会合で太平洋を「青の大陸」と表現し、「青の太平洋」と「青のインド洋」は一体であり、その青を守るために第一に力を入れるべきことは、海の秩序に法の支配を打ち立てることであると述べた。

こうして安倍氏はPALMをFOIPの中に包含させた。

続いて菅義偉首相の下、オンラインで開催された21年のPALM9で、各首脳は「自由で開かれたインド太平洋」に基づく日本の「太平洋のキズナ政策」を歓迎し、「相互の信頼及び尊重並びに自由、民主主義、人権及び環境の尊重」という共通の価値に裏打ちされたパートナーシップを一層強化することで合意した。

来たる7月16日から6年ぶりに対面でのPALM10が東京で開催される。

日本は、過去2回に積み上げてきた路線の延長線上に「自由で開かれたインド太平洋」推進の場として、また中国の不当な影響力拡大を阻止する場として、この機会を活用すべきである。

今や日米豪印のQUADの各種会議が定例化され、米英豪のAUKUSに日本が加わろうとし、日米豪比の共同訓練が実施されるなど、「自由で開かれたインド太平洋」の実現、強化の策が歩一歩と進められている。

だからこそ、太平洋の中央を占める島嶼国への中国の影響力強化を、手をこまねいて見ているわけにはいかない。

◆日本が果たす具体的行動

 ところでPALM8から、それまでの太平洋島嶼国14カ国に加えてニューカレドニアと仏領ポリネシアの首脳が招かれるようになった。

両者はともにフランスの海外領土であって独立主権国家ではない。

それでも「太平洋・島サミット」の目的達成のため、さらには「自由で開かれたインド太平洋戦略」のためにこれら地域の首脳の参加を求めたのである。

このように主催国の日本には主権国家、国交国ではない国及び地域の代表をPALMに招いた実績がある。

そこで10回目の記念すべき「太平洋・島サミット」に、日本と国交はないが、太平洋のもう一つの島国として自由、民主、法の支配という価値観を共有するパートナーである台湾の代表をオブザーバーとして招いてはどうか。

それは20日に就任した頼新総統に祝意を表することにもなる。

東シナ海と南シナ海の結節点に位置する台湾の代表を招いて、太平洋島嶼国との絆を強化させることは、太平洋全域を「力や威圧と無縁で、自由と、法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任」を日本が果たす具体的行動になる。

さらには、日米首脳会談で岸田首相が引き受けた「民主的な価値、規範及び原則を支持し、平和、繁栄及び自由が確保される未来へのビジョンを推進する」責任を果たす道でもある。

(あさの かずお)


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