南太平洋のサモア独立国に中国傾斜を修正する政権が発足

 南太平洋の島嶼国家のサモア独立国では4月の総選挙の結果について、裁判所が7月23日にフィアメ・ナオミ・マタアファ氏らが5月に行った就任宣誓を有効と認定したことでようやく決着がついて混乱が収束し、7月27日にフィアメ氏を首相とする内閣が発足したという。初の女性首相だそうだ。

 ロイター通信は「マタアファ氏は5月、ロイターに対して、既に多額の対中負債を抱えるサモアにとって過剰なプロジェクトだとし、同事業を見直す方針を示していた。サモアが抱える対外債務の内、対中債務は約1億6000万ドルで、全体の4割ほどに相当する」と、サモアが危うく中国が仕掛けた「債務の罠」に陥るところだったことを伝えている。

 産経新聞も「サモアは23年間続いたツイラエパ政権が中国接近を進め、対中債務の膨張が課題となっている。そのうえ、中国が支援する1億ドル(約110億円)の大規模港湾開発計画も進んでおり、フィアメ氏は選挙戦で見直しを訴えていた」と報じている。

 実はサモアは日本が主催する「太平洋・島サミット」の参加国のひとつで、去る7月2日にテレビ会議方式で開かれた第9回太平洋・島サミット(日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議)には、各国が大統領や首相が参加する中、前回の議長国をつとめたサモアは外務貿易省次官が参加してようやく対面を保った。

 外務省によれば、今回の太平洋・島サミットは「菅総理とナタノ・ツバル首相の共同議長の下、第9回太平洋・島サミット(The Ninth Pacific Islands Leaders Meeting: PALM9)が開催され、日本、島嶼14か国(ツバル、クック諸島、フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア、ナウル、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン、トンガ、バヌアツ)、豪州、ニュージーランドに加え、ニューカレドニア及び仏領ポリネシアの2地域を含む19か国・地域の首脳等が参加」したという。

 これまで本誌でも伝えてきたように、中国は台湾が蔡英文総統になって以降、2016年12月21日のサントメ・プリシンペ民主共和国にはじまり、2019年9月20日のキリバス共和国に至る7ヵ国との国交を断絶させてきた。

 特に太平洋の島嶼国家のソロモン諸島やキリバス共和国との断交では、ソロモン諸島の場合は中国が軍港を建設する意向を示し、中国は外交関係切り替えの見返りに5億ドルの資金援助を申し出たとも言われる。

 キリバスの場合もまた、中国はキリバスに対して民間航空機やクルーザーを寄贈することを約束して中国と国交を結ぶよう迫ったと伝えられている。

 要するに、中国の札束外交が奏功した結果の断交ではあるが、「開かれたインド太平洋」構想を進める日本や米国にとっても痛手であった。それゆえに、日本が1997年から始め、3年ごとに開いてきた「太平洋・島サミット」の重要性も高まってきている。

 のみならず、日本は、太平洋島嶼国家で軍を有するパプアニューギニア、フィジー、トンガの国防大臣、太平洋島嶼国家と関係の深い米国、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、フランスの実務者を東京に招待し、地域における安全保障上の意見を交換する「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」(JPIDD)を防衛省主催により開催しようとしていたが、昨年4月の初開催はコロナにより延期せざるを得なかった。

 そのような中、サモアに前政権の中国傾斜を修正する政権が発足し、円滑な政権移行を求めていたオーストラリアとニュージーランドのみならず、日本も米国も取り敢えずホッとしているのではないだろうか。

◆外務省:第9回太平洋・島サミット(PALM9)(結果概要) https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/page3_003070.html

—————————————————————————————–サモアの女性新首相就任、中国支援の港湾開発中止を表明【産経新聞:2021年8月3日】https://www.sankei.com/article/20210804-XRRCBYWCKZMW5JFI7W7RFCCKDA/

 【シンガポール=森浩】南太平洋の島嶼(とうしょ)国、サモアで4月の議会選挙の結果が確定し、フィアメ・ナオミ・マタアファ氏を同国初の女性首相とする新政権が始動した。フィアメ氏は就任後、中国が支援する港湾開発事業を中止する意向を表明。米国と中国が影響力拡大を競い、「陣取り合戦」の様相を呈する地域情勢に影響を与える可能性がある。

 サモアでは4月に議会(定数51)選挙が行われ、ツイラエパ前首相の人権擁護党と、フィアメ氏のFAST党がともに25議席を獲得。その後、無所属の当選者1人を加えたFAST党が多数派を形成した。

 フィアメ氏は5月に独自に首相就任の宣誓を行ったが、敗北を認めないツイラエパ氏は「私は神に任命された」などと主張し、政権を明け渡さない姿勢を示していた。裁判所が7月23日、就任宣誓は「有効」との判断を示し、27日にフィアメ氏を首相とする内閣が発足した。

 サモアは23年間続いたツイラエパ政権が中国接近を進め、対中債務の膨張が課題となっている。そのうえ、中国が支援する1億ドル(約110億円)の大規模港湾開発計画も進んでおり、フィアメ氏は選挙戦で見直しを訴えていた。

 フィアメ氏は首相就任後、ロイター通信に港湾開発事業について「現時点で優先順位が低い。自国に明確な利益がある投資のみを承認する」と表明。対中関係は「他の二国間関係と同じように評価する」と述べ、前政権の中国傾斜を修正する意向を示した。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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