使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策  岡崎研究所

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策  岡崎研究所

 米国はこれまで台湾に対して「戦略的曖昧さ」という戦略で対応してきたといわれる。中国が台湾を武力侵攻した場合、米国は台湾を防衛するかどうかは明言せず、曖昧にしておいた方が中国の武力侵攻を抑制できるとする見解で、米国の歴代政権はこの姿勢をとってきたといわれる。

 バイデン政権で台湾政策のキーマンの一人である国家安全保障会議インド太平洋調整官と国家安全保障担当大統領副補佐官のカート・キャンベルもこの立場を取る。

 しかし、最近は台湾に対する「戦略的曖昧さ」を止めるよう求める議論が高まりつつある。今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると指摘したフィリップ・デイビッドソン前インド太平洋軍司令官をはじめリチャード・ハース外交評議会会長などが「戦略的曖昧さ」の見直しを提言している。

 実は、バイデン大統領自身が「戦略的曖昧さ」を否定するような発言を繰り返している。昨年8月19日に放映された米ABCニュースのインタビューでは「もし誰かがNATOの同盟国に侵攻したり、実力を行使したりすれば、我々は対応する。それは日本や韓国、台湾も同じだ」と、「台湾に対しても防衛義務がある」と発言し、その2ヵ月後の10月21日にCNNテレビの番組に出演した際も「中国が台湾を攻撃した場合、アメリカは台湾を防衛するのか」との質問に対し「そうだ、われわれはそうする責務がある」と発言し、米国は台湾を防衛すると明言している。訂正はしていない。議会も「舌禍」として追及していない。

 米国内には、曖昧にしておくよりも、台湾を防衛すると明確にした方が中国の武力侵攻を抑制できるとする考え方が浸透してきたようだ。

 岡崎研究所は以前にも、元国務省政策企画部長で外交評議会会長を務めるリチャード・ハース氏がフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿したエッセイを紹介して、「『戦略的曖昧さ』よりも『戦略的明確さ』が必要である」と論じていたが、このたびもリチャード・ハース氏などによるフォーリン・アフェアーズ誌に発表した論考を紹介している。

 米国は尖閣諸島についても、日本に施政権があるとのみ言い、日本の領土であると明言していない。不可思議なことは、日本政府も施政権をもってよしとしていることだ。

 外務省のホームページには「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。したがって、尖閣諸島をめぐって解決し なければならない領有権の問題はそもそも存在しません」と記している。

 中国は1992年2月に制定した「領海法」(中華人民共和国領海および接続水域法)で尖閣諸島を自国領としたことで、米国は中国と日本の板挟みになることを避け、「戦略的曖昧さ」に基づいて尖閣諸島が日本固有の領土であることを明言しない方針のようだ。

 しかし、「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らか」な以上、日本は米国に尖閣諸島の領土主権を認めるべきを堂々と主張していいのではないか。また、米国も尖閣諸島については「戦略的明確さ」をもって対応した方が中国に変な野心を抱かせないのではないか。

 台湾有事は「尖閣有事」とも指摘される現在、米国の戦略転換が望まれる。米国は中国を抑制して台湾海峡の平和と安定を図り、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するためにも、台湾の防衛と尖閣諸島の日本領有を明言すべきだろう。

—————————————————————————————–使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策岡崎研究所【WEDGE infinity:2022年1月18日】https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25410

 リチャード・ハース米外交問題評議会会長及びデイヴィッド・サックス同研究フェローが連名で、2021年12月13日付のフォーリン・アフェアーズ誌に、台湾に対する米国の戦略的曖昧さはその使命を終えたとして戦略的明快さに転換すべきことを論じている。

 この長文の論文を読むと論点は言い尽くされている。このまま戦略的曖昧政策を継続することは中国の計算違いを招く可能性があるという意味で危険であり、米国は戦略的明快さに転換すべきものと思う。

 その政策は台湾に対する直接的な侵略およびその他海上封鎖のような間接的な侵略に対して米国が台湾を防衛するとの意思を明確にすることを必要とする。もとより、張子の虎であることは許されず、台湾防衛を最重要課題と位置付ける米国の軍事力強化が必要であることは論を俟たない。

 問題は、戦略的明快さの政策自体の問題と言うよりは、むしろ政策転換のプロセスの管理の問題にあるのではないかと思われる。即ち、この政策転換が中国に対して挑発的と映ることは出来る限り避けるべきことである。挑発的と映れば、台湾とその周辺の情勢の不安定性を増幅する恐れがあるであろう。

 1947年3月、トルーマン大統領が議会で演説して、ギリシャとトルコを共産主義の脅威から守るために両国の経済と軍に対する支援を表明したが、台湾を巡る情勢が現在よりも更に切迫し一刻の猶予も許さない状況となれば、このトルーマン・ドクトリン演説の例に倣うことも考えられようが、そういう事態ではない──ということは戦略的明快さへの最適の転換時期如何という別の論点を提起するかも知れないが。従って、何等かの工夫が必要ではないかと思われる。

 挑発的であることを避けるという意味では、この論文にも言及があるが、中国に一定の保証を与えることは考慮の必要があろう。しかし、「台湾の独立を支持しない」という言い方には疑問がある──いわゆる「一つの中国」政策を誓約した米中の共同コミュニケの文言を繰り返し「両岸問題の平和的解決を促す」(4月16日の日米首脳共同声明)ことにとどめるべきものと思われる。

◆日本は米国の軍事オプションへの留意を

 工夫としてどういうことがあり得るか分からないが、例えば、議会で大統領に台湾有事の際の軍事力行使の権限を与える超党派の法案を成立せしめ、その機会を捉え、大統領が戦略的明快さを内容とする声明を発出することも検討に値しよう。

 この政策転換の反対論として説得的な議論を目にしないが、台湾の政策・行動がどうであれ無条件に安全保障のコミットメントを提供することを疑問視する見解がある。しかし、それは戦略的明快さの内容次第であり、一切の政策判断を排除する必要はないように思われる。

 バイデン政権が戦略的明快さを追求すると否とにかかわらず、台湾侵略に対し、米国がこれに対抗することに失敗すれば、この地域の秩序は修復不能なまでに損なわれるであろう。この論文はその末段で、米国の軍事オプションを可能とする前提条件は地域の諸国に米国と共に中国の侵略に抵抗する用意があることにあると指摘しているが、それが厳然たる実態であり、そのことに日本は留意せねばならない。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。

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