――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習24)

【知道中国 2358回】                       二二・四・念七

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習24)

1957年、中国は国内的には反右派闘争から始まり大躍進を経て文革へと進む長い混乱の時代のトバ口に立ち、対外的には11月のモスクワにおける「党風は整風を圧す」との毛沢東発言に密かに仕込まれたように反ソ路線に踏み出した。57年を起点にして、中国は毛沢東の意のままに疾風怒濤の荒波に呑み込まれていった。

この年を境に、子ども向けの出版物にもソ連離れの傾向が見られるようになる。その詳細は後々読み解くことにして、その前に些か畑違いとも思えるが、中ソ関係と高等数学の関係の一端を覗いてみたい。それというのも元来が数学好きだったこともあって、留学当時、古本屋で興に任せて高等数学関連の古本を探すよう心懸けていたからである。

そこで香港で手にすることの出来た高等数学書籍を、古本屋のオヤジの顔を思い浮かべながら以下に記してみると、高等数学専門書の無機質な書名の間から、共産党政権の公式的路線とは異なった中ソ関係が浮かび上がってくる。こと高等数学に関するなら、やはりソ連に従うしかなかったのか。なお、参考までに内容を簡単に付記しておいた。

50年出版:『大学叢書 羣論(上下)』(商務印書館)/初版は1934年で、50年出版は第3版。京都帝大名誉教授・園正造(1886~1969年)の著作の翻訳。なお園は1919(大正8)年前後のパリに小倉金之助、阿部八代太郎らと共に留学。弟子の1人に岡潔がいる。

55年出版:『泛函数分析概要』(科学出版社)/微分方程式論、積分方程式論、近似計算法など大学高学年、卒業生向けの教科書の翻訳。 

『福里哀級数』(高等教育出版社)/蘇聯技術理論書籍出版社の科学技術者向けの数理叢書。大学の力学専門課程高等数学参考書の翻訳。

56年出版:『代數函數論(上下)』(高等敎育出版社)/蘇聯技術理論書籍出版社が大学生、大学院生、数学研究者向けに出版した選択教材の翻訳。 

『高等学校教学用書 復変函数論方法(上下)』(高等敎育出版社)/蘇聯国立科学技術理論書籍出版社が出版したソ連高等教育部認定の国立大学数学力学系力学専門課程、それに物理系と物理数学系の参考書の翻訳。

『彈性力学』(錢偉長 葉開沅 科學出版社)/1954年9月から55年6月にかけ北京とその周辺の力学教員を対象に、錢偉長が行った弾性力学に関する特別講義を纏め、葉開沅が補足を加えた。ソ連の大学における高等力学専門課程のカリキュラムを基本にしている。

57年出版:『理科学数叢書 物理学★原子物理学之部』(鄭一善編著 科学技術出版社)/原子物理学発展の概要、基本粒子、原子核外のメカニズム、量子力学の基本概念、原子核などを概説する。大学生、大学院生の課外参考書、技術関連中級幹部の自習用。

『高等学校教学用書 解析函数論』(高等教育出版社)/蘇聯国立技術理論書籍出版社が出版した翻訳楕円関数論、解析函数論、整函数論、複素解析、リーマン面概論などを中心にモスクワ大学の数学力学系学生対象に編まれた専門書の翻訳。

58年出版:『黎曼幾何與張領解析』(高等教育出版社)/蘇聯技術理論書籍出版社が出版した数学物理系(数学・力学・物理)参考書の翻訳。曲線座標、流形、リーマン空間、絶対微分法、曲率、一般相対理論などを論ずる。

『廈門大学華僑函授部講義 平面解析幾何学』(商務印書館)/前言に「華僑函授生の進度に合わせ編集し、華僑函授生、海外中学数学教師および知識青年たちの需要に十全に応じられるよう編集に工夫した」と記す。廈門大学華僑函授部数学専修科数学教研組が執筆し一次曲線、円、二次曲線、放物線、二次曲線の一般的法則、二次曲線の射影幾何、度量幾何などを論じる。廈門大学華僑函授部と記されているから、華僑送り出し港の1つであった廈門の大学が海外華僑向けに大学レベルの通信教育を実施していたことになる。《QED》


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