――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習135)
次に紹介する『現代漢語語法知識』(湖北人民出版社 6月)は編者も同じ華中師範学院中文系現代漢語教研組だから、前回の『現代漢語修辞知識』の姉妹編だろう。
「語法」とは文法のこと。だから、『現代漢語語法知識』は現代中国語の文法解説書ということになる。だが出版時期が時期だけに、たんなる文法解説書で終るわけがない。最初から最後まで、それも全身全霊・粉骨砕身で、脇目も振らずに文革であり、文法解説書の体裁を装った猛烈に熱い“檄文”である。
であればこそ表紙を開けた最初の頁に、「なぜ、ことばを学ぶだけではなく、渾身の力を傾けて学ばなければならないのか。それというのも、ことばというものはのんべんだらりと学んで身につくものではなく、艱難辛苦を重ねなければならないからだ」との『毛主席語録』からの引用が麗々しく掲げられていたとしても、驚くほどのことはない。
「概説」では最初に「解放軍」「人民」「全国」「学」などを示し、これだけでは単語の意味しか表さない。だが正しい文法に則って単語を並ばせることによって「豊かな思想を表現できる」とし、「解放軍学全国人民(解放軍は全国人民に学ぶ)」「全国人民学解放軍(全国人民は解放軍に学ぶ)」の2例を挙げ、主語、動詞、目的語の役割を説明している。
次いで各論に移り、先ず「ある完結した意思を表すことばの単位を句と呼ぶ」と解説し、「装運這批稲秧是我們国際主義義務(これらの稲の苗を積み込んで輸送することは我らが国際主義の義務である)」を例示し、「この例は、ある事実をありのままに述べた〔中略〕句である」とする。
主語、動詞、目的語などの説明では「軍事操練在充満階級仇恨的刺殺声中結束(軍事操練は、階級の恨みを晴らそうとする刺し殺せの叫びが満ち溢れるうちに終了した)」を挙げ、この句は主語の「操練」、動詞の「結束」を骨格として成り立っていると解説し、さらに義務を表す「要」の用例として、「国際主義義務一定要負責到底!(国際主義の義務は必ずや貫徹しなければならない)」を挙げている。
一つの句が目的語の役割を果たす例として「魯迅主張打落水狗(魯迅は水に落ちた犬を打てと主張する)」を挙げ、「打落水狗」は動詞である「主張」の目的句の役割を持っているが、「打落水狗」それ自体、「打」という動詞と「狗」という目的語で構成された句であり、「落水」は名詞の「狗」を形容している、と。
文法解説は頁の数を増すに従って専門的になり難易度を増すが、そんなものを一切無視し、文革を象徴するような例文のいくつかを紹介しておきたい。
「人身売買契約書こそ、労働人民が奴隷扱いされ、圧迫された証拠である」
「こちらは国民党反動派と数十年の長きにわたって戦った老戦士であり、この方の経験は非常に豊かである」
「アメリカの独占資本家はとどのつまり戦争、わけても兵器を生産する重工業から利益をえている」
「全人類を解放できなければ、プロレタリア階級自身もまた最終的な解放を得られたことにはならない」
「根本的にいうなら党の一元的指導を強化し、毛主席のプロレタリア階級革命路線と各政策を断々固として貫徹しなければならない」
――文革と言う異様な政治環境であったからこそ、文法解説を通してでも毛沢東、文革、革命などを国民に学ばせようとしたはずだ。当時から半世紀ほどが過ぎた現在、習近平は権力を集中し「党の一元的指導を強化」の完遂を目指しているに違いないが、はたして青年時代に漢語の文法書を一心不乱に学び過ぎたゆえの“後遺症”なのだろうか。《QED》