――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習16)
ここで本題に戻り56年出版で手許にあるものを上げてみると(*はソ連児童書の翻訳)、
『壮麗的緑帯』(孫雲谷 江蘇人民出版社 4月)
『少年児童読物 到月亮上去』(魯克編著 山東人民出版社 4月)
『手揺発電機』(上海市第七十中学・上海鉄路職工子弟初級中学・上海市時代中学編著
少年児童出版社 6月)
*『消滅老鼠』(王思博訳 少年児童出版社 6月)
『談談小学算数応用題教学』(張季芳編著 湖北人民出版社 7月)
*『翹尾巴的火鶏』(草嬰訳 少年児童出版社 8月)
『整数』(中国数学界上海分会・中学数学研究委員会編 新知識出版社 9月)
*『一個糊里糊塗的人』(任溶溶訳 少年児童出版社 9月)
『長了翅膀的鉛筆』(王庸運 少年児童出版社 9月)
*『快楽的小家庭』(張知本訳・中国戯劇協会編 中国少年児童出版社 10月)
『学文化補充読物 火牛陣』(王基編写 上海人民出版社 10月)
*『一昼夜二十四小時』(楊瑞槐訳 上海衛生出版社 11月)
『割掉鼻子的大象』(遅叔昌・于止 中国少年児童出版社 11月
『大林和小林』(張天翼 中国少年児童出版社 11月)
香港の古本屋の店頭で漁って手に入れた古本を出版年度別に数えてみると、50年代から60年代の間では56年に出版されたものが最多であり、ソ連の翻訳も多く、内容は過度に政治色が強調されているわけでもない。
たまたま他の年度に較べ56年に出版されてものが店頭に多く置かれていたことで、手当たり次第に買い込んだことから多くなったのかもしれない。だが、5月に毛沢東が「百花斉放 百家争鳴」を掲げて“言論の自由化”を打ち出す姿勢を見せたことを考えるなら、あるいは56年は比較的自由な言論出版活動が許された年でもあり、それゆえに多くの出版物が香港に持ち出され、回り回って古本屋の店頭を飾った。加えてイデオロギー臭が余り感じられないばかりか多彩な内容となった、と考えることも出来る。
以下、それぞれを簡単に紹介してみたい。
『壮麗的緑帯』は今風に表現するなら、自然環境の持続可能な成長を支える自然の仕組みを分かり易く解説しながら、「キミたちも自然環境の“忠実な保護者”だ」ということを教えている。
『少年児童読物 到月亮上去』は「小飛馬」クンが主人公の空想科学冒険物語である。
某日、先進科学大国であるソ連科学院で研究を続けている父親から、「ソ連のおじさんたちは月旅行の準備を終わった。ついてはキミを月に連れていってくれるよう頼んだ。モスクワで待っている」という嬉しい知らせが届く。
先ずモスクワ見学。赤の広場でレーニンとスターリンの廟に尊崇の眼差しを送る小飛馬は、次いで壮麗なクレムリン宮殿を指し「スターリンが健在だった時、あそこで執務していたの」と尋ねる。すると父親は「そうだよ、あそこで仕事をされていたんだ」と。
4日目の朝、ジェット旅客機でロケット発射場へ。同じ重量でもガソリンの1万倍のエネルギーを発する原子力エンジンが推力のロケットで地球を飛び出す。小飛馬の月面での奇妙な体験や宇宙空間で目にした様々な謎を科学的に説明しながら物語は進むのだが、科学技術の進んだソ連に対する素朴な憧憬であり尊敬が行間に溢れている。
『少年児童読物 到月亮上去』が出版される2か月前、ソ連では第20回共産党大会が開催され、フルシチョフによるスターリン批判秘密報告が行われていたのであった。《QED》