――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習58)
当時の劉少奇夫妻の外遊日程を追ってみると、あまりにもノホホンとしている。毛沢東の“真剣度”を見誤ったに違いない。あるいは毛沢東を舐めていたのか。いずれにせよ長期に亘る外遊は、劉少奇の初動対応の遅れを決定的にしたということだろう。
架蔵しているもので66年の出版は3冊。出版月の早いほうから挙げておくと、『少年自然科学叢書 煤的故事』(朱志尭編著 少年児童出版社 3月)、『《少年英雄故事》叢書 林森火』(中国少年児童出版社 5月)、『一心為公的硬骨頭戦士 張春玉』(中国青年出版社 6月)となる。
「少年自然科学叢書」と銘打たれているからには、『煤的故事』は科学知識紹介シリーズの1冊だろう。『毛主席語録』からの引用はないし、どこを探しても毛沢東の「も」の字も見当たらないところからして、あるいは劉少奇系の出版とも考えられる。
文革時代の過剰なまでの毛沢東賛歌が見られない代わりに、『煤的故事』には共産主義に対する素朴で明るく、根拠なき希望が溢れている。文革直前の中国では、共産主義の4文字は希望に満ち、豊かな未来を約束し、どこまでも光り輝いていた。
『煤的故事』は「工業のコメ」「全ての工業製品の原料」であり、「鋼鉄を精錬し、汽車を動かし、電力を起こし、日常生活において暖房・炊飯をなす」だけでなく、「加工処理を経てガソリン、プラスチック、合成繊維、化学肥料、農薬などの数多の種類の工業原料や化学産品」となるだけに、石炭は「黒い宝石」と呼ばれている。その石炭について生成から発見、使用の歴史、採鉱の歩みを判り易く解説し、小学校高学年から中学生程度に理解させ、科学少年を育成しようとの狙いを感ずる。科学は万能の未来を導くものだった。
『煤的故事』は数十億年の昔から現在までの石炭という鉱物の歩みと人類と石炭のかかわりの歴史を語りつつ話を進めるが、49年10月1日に「偉大なる中華人民共和国」が誕生したことで、「人間の地獄、悪魔の天国」「死者の倉庫」と呼ばれていた旧中国の炭鉱は一変したと熱く語る。「炭鉱は人民のものとなり、かつて圧迫され搾取されていた炭鉱夫は鉱山の主人公となった」と強調する。
興味深い部分は、やはり「未来への展望」を熱く語っている章だろう。まさにそれは共産主義的SFの世界である・・・。
――ロケットは空中を突き進むだけでなく地中をも疾駆し、探索し、地中に眠る「黒い宝石」を余すところなく僕らの目の前にもたらしてくれる。そこで僕らは多くの友達に手助けを依頼しなければならない。機械という友達はもちろんだが、じつは凄い能力を持つ物理化学と言う友達もいる。
どんな機械も地中ロケットには敵わない。スイスイと地中を軽快に動き回り、効率も高い。僕らが目にすることのできない電磁波や超音波という友達が地中の奥深く探って、埋蔵されている石炭の状態を知らせてくれる。
石炭層を見つけたら、僕らは直ちに「万能溶解剤」を地中深く流し込み、溶剤の力で石炭を液化させ、地上に吸い上げる。液化した石炭は地上に設けられた「総合利用工場」に送られ、複雑な化学処理と加工を経た後、工場から出荷される時には色々な人造繊維、衣料や食品に代わっている。
――なんとも荒唐無稽でステキな夢物語だが、ここからがさらに凄まじい。
「これこそ一枚の、美しくも麗しい風景だ。こういう世界を一日も早く実現させ、人類が生み出した労働の成果を真に人民のモノとするためには、断固として搾取者を消滅させなければならないということです。地主・資本家を打倒し、人類にとっての最高の理想である共産主義に向かって進もうではありませんか」――科学と共産主義を煽った。《QED》