【編集長より】日本版「台湾関係法」の制定を

【編集長より】日本版「台湾関係法」の制定を 

日本李登輝友の会メールマガジン「日台共栄」より転載

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日本版「台湾関係法」の制定を  
アメリカよりも日本にこそ必要な「台湾関係法」

林 建良(日本李登輝友の会常務理事)
  

 アメリカは1979(昭和54)年1月1日をもって中華人民共和国との国交を樹立し、中華民
国と断交した。しかし、アメリカは同時に「西太平洋における平和、安全および安定の確
保」し、台湾の「平和と安定は、合衆国の政治、安全保障および経済的利益に合致し、国
際的な関心事でもある」という認識に立って「台湾関係法」を制定する。

 アメリカの上下両院は1979(昭和54) 年3 月に台湾関係法を採決し、同年4 月10 日に
カーター大統領が署名、同年1 月1 日に遡って発効させている。

 全18条から成る「台湾関係法」の最大のポイントは「台湾人民の安全または社会、経済
の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の
能力を維持する」(第2条B項6)であり、そのために「防御的な性格の兵器を台湾に供給
する」(第2条B項5)ことを定めている。

 アメリカは台湾との実務的な非政府関係を保障するためにこの「台湾関係法」を国内法
として制定したが、日本も台湾を「非政府間の実務関係」位置づけていることから、日本
版「台湾関係法」の制定を求める声が少なからずある。

 本会理事をつとめたこともある平成国際大学の浅野和生(あさの・かずお)教授は「日
本と台湾との相互交流の基本に関する法律」(略称:日台関係基本法)を作成、平成17
(2005)年10月12日に発表している。

 本会でも、理事や会員などの間には従来から日本版「台湾関係法」の制定を求める声が
強く、林建良・常務理事(メルマガ「台湾の声」編集長)は機関誌『日台共栄』4月号(第
30号、平成24年4月1日発行)の巻頭言において「日本版『台湾関係法』の制定を」と題し
て制定を促している。

 下記に林常務理事の「巻頭言」を紹介し、併せて浅野和生教授作成の「日本と台湾との
相互交流の基本に関する法律」(略称:日台関係基本法)を紹介したい。

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日本版「台湾関係法」の制定を  林 建良(日本李登輝友の会常務理事)
【機関誌『日台共栄』4月号:巻頭言】

 台湾に親日反中派と親中反日派は存在するが、親中親日派と反日反中派は存在しない。
惑星間にある衛星は引力の原理によって惑星との距離が決まっていて、両惑星へ同時に接
近することは不可能だ。同様に台湾は、中国へ近づけば近づくほど日本から離れ、日本に
近づけば近づくほど中国から離れる。

 総統選挙で親中反日の馬英九が再選された。台湾における中国勢力は跳梁跋扈し、台湾
の中国傾斜に歯止めがかからなくなっている。台湾が共産中国に引っ張られて行けば、結
果として日本も台湾と同じく不幸になるのだが、決して第三者とは言えない日本は、こう
した変化をただ傍観しているだけである。

 台湾関係法は台湾を諸外国と同様に扱うアメリカの国内法である。台湾の法的地位を規
定しており、さらに台湾の安全が脅かされる際、アメリカ政府が適切な行動をとるように
義務付けている。

 戦後の日本は台湾を放棄しておきながら、その法的地位を曖昧にしてきただけでなく、
「台湾は中国の一部だ」という中国の言い分を「理解し尊重」する自縄自縛に陥り、台湾
有事の際には、米軍の後方支援の根拠となる周辺有事関連法案が適用されるか否かの論争
で沸騰するだろう。それだけでも米軍の足枷になるが、適用されないとなれば日米安保も
破綻しかねない。

 このことは日本の防衛上の空白であり、安全保障の盲点であることを認識しなければな
らない。その空白を埋めるには日本版「台湾関係法」を制定する他ない。台湾の安危は、
アメリカ以上に日本の命運を左右し、アメリカよりも日本にこそ台湾関係法は必要なの
だ。

 今までにもこのような主張は散見されたが、制定の動きが見当たらないのは、日本が
「中国を刺激するな」という重い病気を患っているからであろう。日本の為になるすべて
の事柄を潰してしまうこの病気は、いずれ日本を死に至らしめる。だからこそ台湾関係法
の制定で、この病気と戦う狼煙を上げようではないか。

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2>> 浅野版「日台関係基本法」制定などで日台関係の法的根拠の確立を

 浅野和生・平成国際大学教授が作成した「日本と台湾との相互交流の基本に関する法
律」(略称:日台関係基本法)が平成17(2005)年10月12日に発表されたことは先に紹介
したとおりだが、これは当時、浅野教授が「日台関係と米台関係」をテーマに東京財団が
主催する研究発表会で講演した中で発表されている。

 この研究発表会には当時の許世楷・台北駐日経済文化代表処代表も参加していて、「台
湾週報」は「同案が台日交流の法的根拠の確立にプラスとなるとの見方を示した」と伝え
ている。

 実は、日本は先に述べたように台湾とは「非政府間の実務関係」と規定しており、日本
側は(財)交流協会、台湾側は亜東関係協会が窓口となって交流を進めている。お互いその
大使館の役割を果たすため、(財)交流協会は台北市内に交流協会台北事務所を設け、亜東
関係協会は東京都内に台北駐日経済文化代表処を設けている。

 しかし、その法的根拠は乏しい。なぜ台北駐日経済文化代表処や(財)交流協会がビザを
発給できるのか、法的には説明が難しい。いわば慣習として暗黙に認めているというのが
実態に近い。だから許世楷代表は「台日交流の法的根拠の確立にプラスとなるとの見方を
示した」のだ。

 慣習も法であるし、お互いの政府が認めている機関であるから現実的な問題はないが、
いずれ法的な裏付けを持たないことを問題視する国も現れてくるに違いない。浅野教授は
それを見越して「日台関係基本法」を提案したのである。林建良・常務理事の日本版「台
湾関係法」制定提案の眼目もそこにある。

 日本版「台湾関係法」であれ、浅野教授の「日台関係基本法」であれ、早急に法的根拠
を確立することが望まれる。

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日本版「台湾関係法」私案が発表
【台湾週報:2005年10月13日】

 10月12日、東京財団が主催する研究発表会において、浅野和生・平成国際大学教授が
「日台関係と米台関係」をテーマに講演し、日本版「台湾関係法」の私案である「日台関
係基本法」を発表した。浅野教授は「1972年の日台断交以降のいわゆる『72年体制』から
すでに33年が経過している。国内外の状況の変化に応じ、これを見直し、両国は新たな基
礎を確立する必要がある」と指摘。米国の「台湾関係法」設立の過程について説明すると
ともに、日本版「台湾関係法」設立の必要性を強調した。

 同会議には日本の各界からおよそ200人が出席し、台日の重要な課題に対する関心の高さ
を示した。また、許世楷・駐日代表と陳鴻基・同副代表も同会議に出席した。浅野教授が
提案した「日台関係基本法」は、台日がこれまで築いてきた経済、文化、その他各方面に
おける密接な交流と友好を基礎とし、両国のさらなる交流促進を基本理念に掲げ、アジア
太平洋地域の安定と繁栄の実現という共同目的において、日台が情報を共有することなど
が盛り込まれている。

 浅野教授は「小泉首相は日本の歴代首相の中で、中国に対し最も明確に立場を主張する
人物だ。首相は来年9月に退任することを宣言しているが、政府案にせよ、議員立法にせ
よ、いかなる形に関らず、この私案が小泉首相の任期中に成立し、これにより日台の交流
関係がさらに強化されることを期待する」と述べた。東京財団では、この私案を同財団で
発表されたその他の提案と合わせて、今月下旬にも小泉首相に提言することにしている。

 許世楷・駐日代表は「私は昨年代表に就任し、ただちに72年体制の見直しの必要性を説
き、日本側の関心を呼び起こしたことは成功の一歩だったと思う。浅野教授の今回の提案
は、その具体的な表われである。私案は台日交流の現状に合致しており、最も重要なのは
基本理念を維持している点である。内容は必ずしも具体的ではなく、いささか抽象的だ
が、民間交流を維持し、現状を変更しないという点では日本側にも受け入れられる可能性
は高い」と述べ、同案が台日交流の法的根拠の確立にプラスとなるとの見方を示した。

 浅野教授が提案した「日台関係基本法」私案は7条目からなっており、内容は以下の通り
である。

〔目的〕
第1条 この法律は、アジア太平洋地域の安定と繁栄の実現のため、日本および日本人と
 台湾および台湾人との通商・貿易・文化その他の交流を発展させることを目的とする。

〔基本理念〕
第2条 1)日本および日本人は、台湾および台湾人に対して、より広範、密接かつ友好
 的な商業上、文化的その他の関係を維持および促進する。

  2)アジア太平洋地域における平和と安全の基礎の上に日本の外交が運営されること
 は、日本にとって政治、安全保障および経済上の利益であり、国際的に有意義である。

〔法律上の権利の保障〕
第3条 台湾人がわが国の法律によりこれまでに取得し、または今後取得する権利は、公
 共の福祉に反しない限り保障される。

〔情報の共有〕
第4条 アジア太平洋地域の安定と繁栄の実現のために必要と認めるときは、日本政府は台
 湾政府に対して必要な情報を提供することができる。

〔相互交流に関する事項〕
第5条 日本と台湾の相互において、それぞれ日本人および台湾人の身体、生命および財
 産の保護その他に関する事項、台湾人および台湾に在留する第三国人の日本への入国そ
 の他に関する事項、日本と台湾との経済、貿易、観光等に関する事項、並びに日本と台
 湾との学術、文化およびスポーツの相互交流等に関する事項は、財団法人交流協会と亜
 東関係協会との取り決め(1972年12月6日署名)によって処理するものとする。財団法人
 交流協会は、この取り決めを変更しようとするときは、総務大臣の承認を得なければな
 らない。

〔台湾側機構〕
第6条 1)日本政府は、亜東関係協会およびその職員の申請により、亜東関係協会の日
 本における法人格の付与およびその職員の外交官に準ずる特権および免除の取扱いの措
 置を講ずることができる。

  2)前項の措置を講ずるにあたって必要があるときは、日本政府は、法改正の措置を
 講ずるものとする。

第7条 この法律において「亜東関係協会」とは、日本と台湾との相互交流に関する事項
 について権限を有する、台湾によって設立された亜東関係協会と称する機構をいう。