去る5月14日、憲法改正などをテーマに台湾で行われた「国民大会代表」選挙
の結果、改正派が圧倒的多数を占めた。
この選挙により、総統罷免に関する手続きの変更、国会議席の半減、小選挙区
比例並立制の導入、立法委員(国会議員)任期の延長、国民大会を廃止し国民投
票制の導入などの憲法改正案が成立する見通しは確実となった。
この選挙のポイントは、台湾の野党党首の訪中が「台湾と中国の統一」「台湾
の台湾化」、いずれの方向に影響を与えたのか、陳水扁総統の最近の迷走ぶりを
台湾の人々はどのように評価しているのか、その判断の基となる重要な選挙だっ
た。結果からいえば、中国国民党と親民党は予想を裏切ってまったく伸びなかっ
た。これらの訪中が、これまでの台湾の民意にほとんど影響を与えず、逆に、陳
水扁体制が進める「台湾の台湾化」を指示する人々が増えていることを証明する
ものとなった。
しかし、日本の報道ではその詳細が分かりにくい。昨日のメールマガジン「台
湾の声」に、その詳細かつ的確な分析が掲載された。これまでのところ、大手新
聞をはじめとしてこれ以上の的確な分析は見当たらない。そこで、そのままご紹
介したい。 (編集部)
国民大会代表選挙結果分析
「台湾の声」編集部
立法院(国会)で通過した憲法改正案を審議する国民大会の代表(定数300)を
決める選挙が5月14日に行なわれた。選挙は政党に投票する完全比例方式で行な
われた。結果、憲法改正案に賛成する民主進歩党(民進党)が42.5%を得票して
第一党となり127議席を獲得、続いて同じく憲法改正案賛成の中国国民党が38.9%
を得票して117議席を獲得するなど、憲法改正賛成派が83.1%と圧倒的多数を占め
た。
これによって総統罷免に関する手続きの変更、国会議席の半減(225→113)、
小選挙区比例並立制、立法委員(国会議員)の任期を3年から4年に延長、国民
大会を今回をもって廃止し国民投票によって複決すること、などの憲法改正案が
可決するのは確実となった。
投票率は憲法改正の議題(選挙制度改革など)に対する関心の低さや、投票日
が激しい雨に見舞われたことから、23.36%と非常に低かった。
定数300
憲法改正賛成 得票率 議席
民主進歩党 42.5% 127
中国国民党 38.9% 117
中国民衆党 1.1% 3
農民党 0.4% 1
公民党 0.2% 1
賛成合計 83.1% 249
憲法改正反対 得票率 議席
台湾団結聯盟 7.1% 21
親民党 6.1% 18
張亜中等150人聯盟 1.7% 5
新党 0.9% 3
無党団結聯盟 0.7% 2
建国党 0.3% 1
王廷興等20人聯盟 0.2% 1
反対合計 16.9% 51
台湾派(緑=民進+台聯) 49.6% 148
中国派(藍=国民+親民) 45.0% 135
今回の選挙結果からは政党支持に大きな変化が見て取れる。まず、民進党の得
票率が昨年12月の立法委員選挙に比べて6.8ポイント伸ばし、42.5%を得て4割の
大台を突破。与党・民進党が第一党となり、与党が信任された形となった。
国民党は4月下旬から連戦主席が中華人民共和国を訪問して胡錦濤国家主席と
の会談を実現させ、「中台和解ムード」を演出した。親民党が民進党との協力路
線を模索しようとしたことから、一部の親民党支持者が反発して国民党に票が流
れ、国民党は38.9%の高得票率を得た。しかしながら、もともと組織力が強い国
民党は低得票率であればあるほど有利になるはずだが、23%という低得票率にも
かかわらず第一党になれなかったことは、国民党の動員力が落ちていることを表
している。一部の国民党支持者は、連戦主席の中国訪問時の「聯共制台(独)」
発言など中国共産党との接近に反発して、積極的に投票に行かなかったようだ。
台湾団結聯盟(台聯)は、得票率は7.1%と伸び悩んだものの、親民党を抜いて
第三党の地位を得た。台聯は小政党に不利な小選挙区制に反対し、今回の憲法改
正では反対の立場をとっていた。台聯は国会議員半減などの改革には賛成してい
たが、一括審議のため「反対」の立場にならざるをえず、それが民進党から「反
改革」と批判され、選挙戦は苦戦を強いられていた。しかし、民進党が親民党と
接近したり、「台湾正名」と「新憲法制定」政策を先送りした民進党を厳しく批
判したことで、民進党の不満票もある程度吸収し、台湾派の野党という存在感を
示した。
親民党は昨年12月の立法委員選挙に比べて得票率が7.8ポイントも落下、6.1%
しか得票できず惨敗。第四党の地位に転落した。親民党はもともと濃い中国派と
いうイメージだったが、親民党は立法委員選挙で議席を減らしたため、国民党と
民進党の間に立って、キャスティングボートを握ろうとした。今年2月に宋楚瑜
・親民党主席と陳水扁総統(大統領)が会談し和解。もともとの親民党支持者に
はそれが裏切りにうつった。連戦・国民党主席が訪中後、続いて宋主席も訪中し
て胡錦濤国家主席と会談した。連氏より上手いパフォーマンス(?)をすること
で中国派の支持を取り戻そうとし、「両岸一中」で合意して帰台。しかし、一旦
逃げた支持者を取り戻すことはできず、新たな支持を開拓することもできなかっ
たため惨敗した。親民党は民進党を利用して党の存在価値を高める戦略だったが
、逆に失敗した。
このほか、憲法改正に反対していた張亜中等150人聯盟が1.7%得票して5人当
選。中国民衆党は知名度がほとんどない政党だったが、中国国民党と党名が非常
に似ている上に、同じ「賛成」の立場であることから間違えた有権者が続出、1.1
%得票し3人当選した。金門県の立法委員や台北市議会で議席がある中国派の新党
は、ほとんど存在感を示せず、中国民衆党より低得票の0.9%しかとれなかった。
無盟は無党派層の支持を集めることができず、0.7%どまりだった。台湾建国を目
指し街頭運動を続ける建国党は国会の議席はないが今回0.3%得票し1人当選した
。このほか農民党、公民党、王廷興等20人聯盟がそれぞれ1人当選した。
今回国代選挙 12月立委選挙 得票率変化
民主進歩党 42.5% 35.7% +6.8
中国国民党 38.9% 32.8% +6.1
台湾団結聯盟 7.1% 7.8% −0.7
親民党 6.1% 13.9% −7.8
台湾派(緑) 49.6% 43.5% +6.1
中国派(藍) 45.0% 46.7% −1.7
今回の選挙は議題が憲法改正に関する内容に限られており、もともと台湾派VS
中国派という対立構図ではなかった。大政党の民進党と国民党が小選挙区制導入
に賛成、小政党の親民党と台聯が反対というふうに、大政党VS小政党という対決
だった。しかし、選挙前に国民党と親民党がそれぞれ中国を訪問、「92年共識」
や「両岸一中」など中国と「台湾独立反対」「一つの中国」を認めることで和解
し、その成果(?)を選挙に利用しようとしたため、選挙は台湾派VS中国派とい
うもう一つの顔をもつようになった。「両岸一中」に正当性を与えないためにも
、台湾派が負けることは許されなかった。
台聯は「一つの中国」の根拠になる「中華民国憲法」で親民党と妥協した民進
党と陳水扁総統を厳しく批判し、民進党が台湾路線に戻るよう促した。民進党は
国民党の連主席と親民党の宋主席の訪中を見守りながら、「中華民国」の主権独
立を中華人民共和国に対して主張するよう期待していたが、連宋ともに「一つの
中国」に傾斜したため、最後は陳総統も一致して国親両党を批判した。
選挙結果は、憲法改正賛成の民進党と国民党が勝利し、反対していた台聯と親
民党は敗北した。一方で、台湾派VS中国派の対決はどうだったのだろうか。
実際には憲法改正賛成派の中で民進党(台湾派)VS国民党(中国派)、憲法改
正反対派の中で台聯(台湾派)VS親民党(中国派)という構図になっていた。結
果、民進党は国民党に勝利し、台聯は親民党に勝利した。憲法改正賛成派と反対
派いずれも台湾派が勝ったのだ。
総合すると、民進党と台聯を足した台湾派(緑)の得票率は49.6%、国民党と
親民党を足した中国派(藍)の得票率は45.0%で、台湾派が勝利した。国民党は
すべての議員が中国派というわけではないが、選挙前に打ち出した連戦氏の「聯
共制台(独)」発言は、これまでの「中華民国派」の域を超え「中華人民共和国
派」ともいえるものだった。その戦略は親民党支持層を吸収することはできたが
、中国色を強調することが選挙に有利になったとは言えない結果となった。
また、昨年の総統選挙は緑50.1%VS藍49.9%(差+0.2)、立法委員選挙は緑
43.5%VS藍46.7%(差−3.2)、そして今回は緑49.6%VS藍45.0%(差+4.6)で
、緑が藍にこれだけ大きな差(4.6ポイント)をつけて快勝したのははじめてのこ
とだ。このことから一連の訪中和解ムードによって中華民族意識が強まったとい
うわけではなく、逆に台湾派勢力の基盤がより強固になったことがわかる。
各県市得票率(%)
民進 国民 台聯 親民 台湾派 中国派 緑VS藍 民VS国 台VS親
台北市 38.3 40.8 7.1 6.4 45.4 47.2 × × ○
台北県 41.5 38.1 6.8 7.1 48.3 45.2 ○ ○ ×
基隆市 32.1 43.8 8.5 10.0 40.6 53.8 × × ×
宜蘭県 48.5 37.1 5.4 5.1 53.9 42.2 ◎ ○ ○
桃園県 37.4 43.8 6.1 7.7 43.5 51.5 × × ×
新竹市 35.5 43.0 8.3 7.5 43.8 50.5 × × ○
新竹県 30.5 52.8 4.3 7.3 34.8 60.1 × × ×
苗栗県 33.8 48.8 4.5 7.7 38.3 56.5 × × ×
台中市 39.3 38.6 8.3 8.5 47.6 47.1 ○ ○ ×
台中県 41.9 39.1 7.0 5.7 48.9 44.8 ○ ○ ○
彰化県 43.4 39.6 6.4 5.5 49.8 45.1 ○ ○ ○
南投県 40.2 41.4 6.7 6.9 46.9 48.3 × × ×
雲林県 50.7 31.4 8.8 4.2 59.5 35.6 ◎ ◎ ○
嘉義市 44.8 36.6 8.1 4.8 52.9 41.4 ◎ ○ ○
嘉義県 51.9 34.0 6.2 3.7 58.1 37.7 ◎ ◎ ○
台南市 48.6 34.7 8.8 4.7 57.4 39.4 ◎ ◎ ○
台南県 55.9 31.2 6.0 3.3 61.9 34.5 ◎ ◎ ○
高雄市 46.3 35.2 9.9 5.3 56.2 40.5 ◎ ◎ ○
高雄県 49.9 33.9 7.5 4.9 57.4 38.8 ◎ ◎ ○
屏東県 48.8 35.0 7.3 3.2 56.1 38.2 ◎ ◎ ○
花蓮県 24.2 55.0 3.4 11.5 27.6 66.5 × × ×
台東県 25.3 59.5 3.7 6.6 29.0 66.1 × × ×
澎湖県 39.2 44.4 4.4 6.1 43.6 50.5 × × ×
金門県 5.8 65.4 0.9 16.5 6.7 81.9 × × ×
連江県 10.1 69.2 0.4 13.3 10.5 82.5 × × ×
次に各県市の政党ごとの得票率を見ると、やはり今回も北部で中国派が強く、
南部で台湾派が強いことは変わらなかった。ただし、従来、中国派が強かった台
北ではほぼ五分五分になった。しかも親民党離れが大きく、台北市でも台聯が親
民党の得票を上回っている。
民進党と台聯を足した得票率は、昨年の総統選挙時の水準とよく似ていて、彰
化県、雲林県、台中県など台湾中部で支持が回復している。南北差は民進党のほ
うが顯著で、北部ではほとんど30%だが、南部では45%以上の高得票を獲得して
いる。一方、台聯は高雄市、台南市、基隆市、台中市など都市部で8%を超え成
績が比較的よかった。台聯は民進党ほどの南北での地域差はなく、新竹や苗栗の
北部客家地区で伸び悩んでいる。台聯は南部での票の開拓に力を入れているが、
高雄市を除いて予想されたほど伸びなかった。台聯の支持基盤を拡大するために
は、さらなる研究が必要だろう。また、東部や離島は台湾派政党の浸透がなかな
か進まないが、民進党は連江県(馬祖)で10%をはじめて超えた。金門は伸び悩
んでいるが、馬祖は約2倍伸びたというのも興味深い。
国民党は親民党支持層を吸収して成長した台北市、基隆市、桃園県、新竹市、
新竹県、苗栗県などで第一党となった。外省人や客家人の多い県で強く、また花
蓮県、台東県、金門県、連江県など東部や離島でも圧倒的な強さを保っている。
ただし、台湾南部の台南県、雲林県、高雄県、屏東県などでは得票率が伸び悩み
、さらに台中県や彰化県など中部でも民進党に負けるなど、中国派路線が中南部
では受け入れられにくいことがわかる。
親民党はこれまで都市部を除いて台湾南部では弱く、台北、基隆、桃園、新竹
など台湾北部を支持基盤にしていたが、今回は完全にその基盤が崩れた。親民党
は民進党と協調して国民党を牽制しようとしたため、濃い中国派支持者たちに深
い失望感を与え、彼らは国民党に流れた。選挙前に「両岸一中」を強調したため
に新たに開拓を目指していた中間層の支持も失った。
得意県
民進党:1.台南県、2.嘉義県、3.雲林県、4.高雄県、5.屏東県、6.台南市
国民党:1.連江県、2.金門県、3.台東県、4.花蓮県、5.新竹県、6.苗栗県
台聯 :1.高雄市、2.台南市、3.雲林県、4.基隆市、5.台中市、6.新竹市
親民党:1.金門県、2.連江県、3.花蓮県、4.基隆市、5.台中市、6.苗栗県
苦手県
民進党:1.金門県、2.連江県、3.花蓮県、4.台東県、5.新竹県、6.基隆市
国民党:1.台南県、2.雲林県、3.高雄県、4.嘉義県、5.台南市、6.屏東県
台聯 :1.連江県、2.金門県、3.花蓮県、4.台東県、5.新竹県、6.澎湖県
親民党:1.屏東県、2.台南県、3.嘉義県、4.雲林県、5.台南市、6.嘉義市
憲法改正賛成派が多数だったため、今後、台湾では日本式の小選挙区比例並立
制が導入されることが確実となった。小選挙区は各選挙区第二位以下の票は死票
となるため小政党に不利であり、台聯と親民党は次回の立法委員選挙で存亡の危
機に立たされる。台聯は今回の選挙で第三党の地位に上昇したものの、小選挙区
で生き残るには非常に厳しいと言われている。
台聯は今後、小政党が不利にならないよう一票あたりの格差の是正を目指す(
各県最低一席という原則を廃止する等)ほか、国会でドイツ式の小選挙区比例連
立制(比例で全当選者数を決定する方式)の可能性も模索し、法改正を提案する
ことも検討している。
親民党が泡沫化の危機となり、民進党と国民党の二大政党政治体制が加速す
る中、第三の選択となる台聯がどのように存在感を発揮するかこれから注目さ
れる。
『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html
『日本之声』 http://groups.yahoo.com/group/nihonnokoe (Big5漢文)
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