台湾の林佳龍・外交部長が米国提起の「台湾地位未定論」に言及

昨日(10月13日)、日本では関西万博が184日間の会期を終えて閉幕し、海外ではガザの戦闘が終結して双方の人質が解放され、トランプ大統領がイスラエルの国会で演説した。

本日の新聞はこの2つの記事一色だろうと思って産経新聞を開いたら、確かに1面はこの2つで埋め尽くされていたが、2面ではなんと台湾の林佳龍・外交部長へのインタビューを掲載していた。

台湾報道に力を入れている産経らしい紙面づくりだった。

インタビュアーは台北支局長の西見由章記者。

林佳龍・外交部長は、中国による新たな脅威に直面する日本、台湾、フィリピンは安全保障面で協力する枠組みが必要だと提案し、日台関係も一段階引き上げて相互補完的な「全面的パートナー関係」を確立すべきだと訴えたという。

また、偽米論については「米国の安全保障にとって台湾は必要な存在だとの認識」を示し、トランプ米大統領が対中交渉で台湾問題をディール(取引)に利用するといった偽米論に反論した。

さらに、9月に米国が提起した「台湾地位未定論」については「台湾にとってプラスだ」と評価するとともに、必ずしも「現在も台湾の政治的地位が未定であることは意味しない」と述べたという。

その理由として、台湾が民主化を経て3度の政権交代があったことや、国連憲章に『人民の自決』原則を謳っていること、憲法の国民主権に基づく民主的な国であることを挙げ「現在の台湾の主権は台湾人にあると踏み込んだ」と報じている。

蔡英文・総統は、すでに2018年10月10日の双十国慶節の談話において、主権という言葉こそ使わなかったが「この国家は、2300万人の人民のものであり、この国家は、完全な形で子々孫々に引き継いでいかなければなりません」と述べていた。

頼清徳・総統も、昨年5月20日の総統就任演説において「1996年の今日、台湾で初めて民選による総統が宣誓就任し、国際社会に中華民国台湾は主権独立国家であり、主権は民にあるというメッセージを伝えました」と、李登輝総統時代にすでに台湾の主権は台湾人にあるというメッセージを伝えていたと述べている。

その意味で、林佳龍氏の発言は目新しいものではない。

とはいえ、米国がなぜいまになって再び「台湾地位未定論」を唱え始めたのかを考えると、西見記者が記事の最後に記す林泉忠・東京大東洋文化研究所特任研究員による、台湾有事が起きた場合に「軍事介入を可能とするための法的な環境整備だ」との分析は説得力がある。

台湾有事への米国の軍事介入は、米国の国益を守ることが第一であるのは当然として、「台湾の将来は台湾人が決める」「台湾の主権は台湾人にある」という前提に立たなければ成り立たず、米国と台湾の考え方は一致している。

米国は「台湾地位未定論」を提起する意図について、台湾側と擦り合わせてから表明したという印象が強い。

林外交部長の発言からはそのことがよく伝わってくる。

いささか長いが、下記に産経新聞の記事をご紹介したい。


日台比 対中で安保枠組み 林佳竜・台湾外交部長インタビュー【産経新聞:2025年10月14日】https://www.sankei.com/article/20251014-EZBCFS3DYVKWPIWQQVTV6SIYLA/

◆「高市氏は決断力ある」

【台北=西見由章】台湾の林佳竜外交部長(外相に相当)が13日までに産経新聞の単独取材に応じた。

林氏は中国の脅威を抑止するため、中国が設定する軍事的な防衛ラインである第1列島線に位置する日本や台湾、フィリピンが安全保障面で協力する枠組みが必要だと提案した。

自民党新総裁の高市早苗氏については旧知の間柄で「先見の明と決断力がある」と評価。

高市氏が首相に選ばれた場合、日本がインド太平洋地域で指導的な役割を果たすことに期待感を示した。

中国によるグレーゾーンの行動や偽情報、海底ケーブルの損壊といった新たな脅威に日台とフィリピンが直面していると指摘。

第1列島線上の民主主義陣営が「調整や分業、協力を行う枠組み」により、米国を中心とする対中抑止に歩調を合わせられると述べた。

また、日台関係を一段階引き上げて相互補完的な「全面的パートナー関係」を確立すべきだと訴え、フィリピンなど第三国市場での投資協力を呼び掛けた。

CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)への台湾加盟に向け、日本の指導力に期待感を表明した。

日台が経済連携協定(EPA)などの交渉を同時並行で進めれば、双方が国際的な交渉力を強められると主張した。

トランプ米大統領が対中交渉で台湾問題をディール(取引)に利用するとの懸念に対しては「米国の民意と議会は超党派で台湾を支持している」と強調。

米台関係は米中関係と互いに影響し合うが、その下に従属はしておらず、米国の安全保障にとって台湾は必要な存在だとの認識を示した。

◆米の地位未定論 主権は台湾人に https://www.sankei.com/article/20251014-VZHF2LRLVNO4XG5LVNSQBN522M/

台湾の林佳竜外交部長(外相)は産経新聞の取材に対し、米国が約半世紀ぶりに提起した「台湾地位未定論」を肯定しつつ、台湾の民主化や国連憲章の「人民の自決」原則などを根拠に、現在の台湾の主権は台湾人にあると踏み込んだ。

頼清徳政権の高官が「台湾地位未定論」に対する包括的な立場を公表したのは初めてとみられる。

米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)や米国務省は9月、台湾の中央通信社に対し相次いで「台湾地位未定論」を提起した。

米側は中国が第二次大戦期の「カイロ宣言」や「サンフランシスコ平和条約」などを「歪曲」していると批判。

これらの文書について「台湾が中国に属する事実を示す」と主張する中国側の言説を「誤り」だと断じ、「台湾の最終的な政治的地位を決定していない」と明言していた。

林氏は取材に「(中国共産党が建国を主導した)中華人民共和国の成立は1949年だが、それ以前の45年の第二次世界大戦終結などと結びつけるために国際文書を歪曲し、中華人民共和国が台湾を代表するとの解釈を広めようとしている」と指摘。

こうした主張を否定する米側の地位未定論は「台湾にとってプラスだ」と評価した。

一方、現在も台湾の政治的地位が未定であることは意味しないとし「台湾は民主化を経て3度の政権交代があった。

われわれは国連憲章の『人民の自決』原則や、憲法の国民主権に基づく民主的な国であり、その国号は中華民国だ」と述べた。

東京大東洋文化研究所の林泉忠特任研究員は米国による「台湾地位未定論」の再提起について、台湾有事が起きた場合に「軍事介入を可能とするための法的な環境整備だ」と分析する。

バイデン前米政権期から「台湾は中国の一部」との中国側の主張を法的に否定する動きが出ているとし、「未定論の発信もその延長にある」と指摘した。

(台北 西見由章)


※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。