文部科学省は1986年(昭和61年)から隔年で「高等学校等における国際交流等の状況について」という、高校生を中心に海外修学旅行をふくむ国際交流の状況についての調査結果を発表しています。
去る3月28日、18 回目となる令和5年度(2023年度)の調査結果を公表しました。
折しも、衆議院の文部科学委員会や外務委員会では、昨年12月25日に岩屋毅・外務大臣と阿部俊子・文部科学大臣が中国を訪問して「第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話」を実施した際、修学旅行の相互受入れを促進することで一致したと伝えられたことを問題視する質問が相次いで出されました。
日本人の男子児童が刺殺された事件や中国船による尖閣諸島周辺への領海侵入が相次いでいることなどから、なぜ安全を確保できていない中国と修学旅行の相互受け入れを推進しなければならないのかと問題視されたようです。
それでは、2023年度の中国への修学旅行の状況も含め調査結果などを下記にご紹介します。
本誌はこれまで、何度も台湾への修学旅行について取り上げてまいりました。
その一番の理由は、2000年度(平成12年度)に台湾への修学旅行は全体11位の2,225人に過ぎなかったのですが、15年後の2015年度には32か国・地域で2位の3万5,775人となり、2017年度にはなんと5万人を超えて5万3,603人で、34ヵ国・地域の1位になるという軌跡を描いてきたからです。
2017年度は、2位のアメリカ(2万8,335人)や3位のシンガポール(2万7,015人)に大きく水を空けた結果となっていました。
ちなみに、2000年度の中国は27ヵ国・地域の1位で4万1,695人、2位は韓国で3万7,663人でした。
当時は、海外修学旅行へゆく約20万人の高校生のうち40%が中国と韓国へ行っていたのです。
では、15年後はどうなったかといいますと、2015年度の中国は32か国・地域の11位、1,868人、韓国も10位で2,793人と激減しました。
台湾への修学旅行が大きく伸びた理由は、大きく2つ考えられます。
一つは、東日本大震災における台湾からの義捐金や物資などの支援が同盟国のアメリカを凌駕するほどだったことから、台湾へ御礼に行きたいと思った高校生が多かったことです。
本会にも、旅行代理店から著名な私立高校が台湾への修学旅行を企画しているからと相談を受けたことがありました。
もう一つは、台湾を「大切な友人」と公言した安倍晋三氏が首相だったことです。
特に、2012年12月末近くに発足した第二次安倍政権は、首相就任4ヶ月後の2013年4月に、長年の懸案だった台湾と「漁業取決め」を結んだことは台湾でも大歓迎されました。
李登輝政権の1996年から17間も解決できなかった日台の漁業問題を、就任直後に「政治決断」で解決してしまったのです。
その後、親台湾の安倍政権が安定していたこともあり、新型コロナが流行する前の2019年度も台湾が4万6,895人で1位でした。
2位はアメリカで27,464人、3位はシンガポールの27,385人でした。
中国は18位の732人と、ついに1,000人を切ってしまいました。
では、気になる最新の2023年度の修学旅行の調査結果です。
まだ新型コロナの影響が色濃く残っていた時期でしたので、全般的に海外への修学旅行は回復しておらず6万6,618 人に留まり、2017年度の17万9,910 人の約4割でした。
それでも台湾は29ヵ国・地域で3位の1万616人で、1位はオーストラリアの1万2,304人、2位シンガポールの1万1,734人に次ぎ、アメリカの9,904人を上回っていました。
中国はなんと33人で、それも公立高校は1校もなく私立高校のみ2校だけでした。
なんとも寂しい結果ですが、新型コロナウイルス感染症の発生国とみなされ、感染対策にも不安が残っていましたので、致し方ないかもしれません。
また、中国ではコロナ禍の2020年ころから、日本人学校や日本人の児童に対して投石するなどの事件が頻発していて、2024年9月には広東省深[土川]市で、10歳の日本人児童が刺殺された殺人事件が起こりました。
日本は、犯人の動機解明や日本人児童の安全確保のための具体的措置を求めましたが、中国からの返答は「偶発的な個別事案」というだけで、日本側を満足させるものではありませんでした。
その結果、中国は危ないところという見方が、生徒にも学校にも、父兄の間にも広まりました。
このような日本人児童が刺殺された事件が起こった直後、それも安全確保のための具体的措置が不明確なときに、なぜ岩屋外務大臣は中国と「修学旅行の相互受入れ促進」を約束してきたのか誠に不可解なことです。
修学旅行先の安全確保は絶対条件です。
費用が安く、場所が近く、そして短期間で行けることを「安・近・短」と言いますが、台湾はこれに加えて安全確保ができているところで、日本統治時代の歴史も学ぶことができるという点で、学校にも父兄にも好評です。
そして、基本的に親日であることは、日本台湾交流協会の世論調査でも明らかになっています。
台湾への修学旅行が減らない大きな理由かと思います。
中国への修学旅行の安心・安全の確保のために膨大なエネルギーを費やすよりも、すでに安心・安全が確保されている台湾への修学旅行がさらに増えるような対策を立てた方が日本にとってははるかに有益ではないかと思います。
一方、日本には多くの国・地域から教育旅行で訪れています。
2023年度は44ヵ国・地域から訪れています。
実は、日本から台湾への修学旅行が増えはじめる前から、台湾から日本への教育旅行は中国や韓国よりも多くなっていました。
すでに2006年度には、韓国の9,472人に次いで6,667人と2位につけ、2011年度には韓国を抜いて1位となっていました。
2015年度は1万2,250人となり、2位中国の4,002人の3倍にもなっていました。
2017年度も1万3,392人で韓国の 5,774人をはるかに引き離し、2019年度も2023年度も2位以下に大差をつけて1位でした。
日本台湾交流協会の世論調査の結果が、台湾から日本への教育旅行には如実に反映されていたのです。
いわゆる「ウインウインの関係」こそ日本と台湾なのです。
ですから、このような日台の修学旅行をさらに盛り上げるのが外務省や文部科学省の役割だと思うのですが、安全面で危惧される中国を修学旅行先に勧めるのはどうにも合点がいきません。
高校生を人質にするのかとさえ勘繰りたくなる愚策です。
。
※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。