台湾民衆党の凋落 柯文哲主席は3ヵ月の休職宣言

本年1月の台湾の総統選挙で、民主進歩党の頼清徳候補は558万票(40.05%)を獲得し、2位の侯友宜・中国国民党候補(467万票、33.49%)、3位の柯文哲・台湾民衆党候補(369万票、26.46%)に僅差で当選した。

頼候補の得票は、2020年に当選した蔡英文候補の817万票(57.13%)に遠く及ばず、2000年に当選した陳水扁候補の498万票(39.30%)以来初めて50%を割る得票率だった。

ここで注目されたのは2019年に結党した民衆党の善戦で、立法委員選挙では比例区で8人の当選者を出した。

定数113人の立法院で民進党は51議席、国民党も52議席で過半数の57議席に届かなかったことから、少数与党の「ねじれ国会」となり、民衆党はキャスティングボートを握ることになった。

民衆党はこの勢いを駆って3月に国民党と「立法院職権行使法」と「刑法改正案」を共同提出し、5月28日に本会議で可決された。

しかし、国民党所属の韓國瑜・立法院長が強行採決に踏み切ろうとしたところから同法案に対する懸念が高まり、審議が進むたびに立法院の周囲を市民や団体が取り囲む「青鳥運動」と呼ばれる反対運動が起こる。

行政院は審議のやり直しを求めたが、「立法院職権行使法」と「刑法改正案」は国民党と民衆党と無所属が結託したことで6月21日の再審議でも可決された。

頼清徳総統は法にのっとって法案に署名し、6月26日に施行された。

しかし、行政院と民進党立法院党団、そして頼総統自身も違憲審査と仮処分(法律の一時停止)を司法院に申し立てる事態に進展。

7月19日、司法院の憲法法廷は一部条文を一時停止とする決定を下し、現在、法律の施行は半年間停止された状態にある。

この一連の経過の中で、どの党が一番ダメージを受けたかと言えば、民衆党だった。

20歳から29歳の若年層や高学歴層、中間派の浮動票層の支持が急落した。

美麗島電子報の5月の世論調査では、若年層の好感度が59.1%から46.2%に12.9ポイントも減少し、反感度は25.2%から40.0%にも増加した。

加えて、民衆党は8月に入ってからは柯文哲主席を巡る金銭スキャンダルが相次いで噴出した。

総統選での政治献金の流れが不明瞭で会計操作の疑いがあると指摘され、民衆党と会計士が責任の押し付け合いを繰り広げ、「柯氏を巡っては総統選の得票に応じて支給される選挙補助金を利用して4300万元で不動産を購入していたことが判明。

台北市長時代に商業ビルの開発を巡って市当局が容積率を不当に引き上げたとされる贈収賄事件への関与の有無も捜査の焦点となっている」(産経新聞)と報じられている。

美麗島電子報が8月26日に発表した世論調査では、民衆党への「反感度」は65.3%で前月から15.7ポイントも大幅上昇し、逆に「好感度」は前月から9.7ポイントも下がり、結党以来最低の21.9%に急落した。

一方、民進党への「好感度」は50.3%で前月より3.4ポイント上がり、頼清徳総統への信任度も58.9%と前月より3.7ポイント上がっていると発表した。

ちなみに、国民党の「好感度」は31.4%(前月:32.3%)、「反感度」は54.1%(前月:52.5%)と、好感度は下がり、反感度は上がっている。

民衆党の柯文哲主席は昨日(8月29日)の記者会見で「今後3カ月は党の職務を行わず、党の調査結果を待つ」と発表し、3ヵ月の休職を宣言した。

政治献金疑惑や台北市長時代の汚職疑惑などの金銭スキャンダルへの台湾民衆の目は厳しい。

主席を辞任する可能性は高く、基盤が弱く、柯主席の個人商店的な民衆党の弱体化に拍車がかかるのは避けられまい。

台湾では総統選を戦った政党でも数年後には消え去る。

親民党や台湾団結聯盟、時代力量など第三極政党が生き残る難しさは、民衆党にも当てはまるようだ。


民衆党・柯文哲主席、会見で謝罪 政治献金の不適切処理巡り騒動【中央通信社:2024年8月29日】https://japan.focustaiwan.tw/politics/202408290011

(台北中央社)政治献金の不適切な会計処理などを巡る騒動の渦中にある柯文哲(かぶんてつ)民衆党主席(党首)は29日、台北市内で記者会見を開き、支持者らを失望させたとして謝罪した。

今後3カ月は党の職務を行わず、党の調査結果を待つとの考えを示した。

柯氏は今年1月に行われた総統選に立候補した。

7月に総統選の政治献金会計報告が公表されると、支出の一部について支払先企業から支払いを受けていないとの指摘があったほか、党関係者の親族が経営に関わる企業に支払われた資金の流れが不透明だとの声が上がった。

選挙後に一定の得票数を満たした候補者に対し、選挙戦の経費補填(ほてん)を目的として政府から支払われる補助金を用いて、立法院(国会)近くのオフィスを個人名義で購入したことも問題視されている。

柯氏は会見で、今回の問題に対する最大の責任は自身にあり、「完全に信頼、信用したのが間違いだった」と述べた。

財務責任者の一存だけで(会計報告を)承認しており、チェックや監査の体制が整っていなかったと説明した。

オフィスの購入については、党として立法院党団(国会議員団)の事務所が立法院の近くに必要だったため購入したと釈明した上で、思慮が足りなかったと話した。

柯氏はこの他、台北市長時代の汚職疑惑で検察から捜査を受けている。

(郭建伸、呉書緯/編集:田中宏樹)


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