頼清徳候補が総統に当選し民進党が初の3期目政権 今後の政権運営の展望

 台湾の総統・立法委員選挙の投開票が1月13日に行われ、総統選は大方の予想どおり与党である民進党の頼清徳・蕭美琴候補が558万6,019票(40.05%)を獲得し、次点の中国国民党の侯友宜・趙少康候補(467万1021票、33.49%)に約92万票、3位の台湾民衆党の柯文哲・呉欣盈候補(369万466票、26.46%)に約190万票の差をつけて当選した。投票率は71.86%で、前回(2020年)の74.9%より3ポイントほど下回った(有権者数=1954万8,531人)。

 1996年に初めて住民の直接投票によって総統・副総統候補が選ばれるようになり、2期8年ごとに中国国民党と民進党による政権交代が行われたが、3期連続で与党候補者が当選するのは初めてのこととなった。

 前回(2020年)の817万票の得票には及ばなかったものの、外交と防衛に絶対的な権限を持つとされる総統に民進党候補が当選したことで、蔡英文政権の敷いてきたこれまでの政策に基本的な変化はないことが明らかになり、「自由で開かれたインド太平洋」構想を実現しようとする日本や米国、その理念に賛同する英国やEU各国には安心感をもたらしたのではないかと思われる。

 113議席を争った立法委員選では、民進党が現有の62議席から11議席を減らし51議席、中国国民党が現有の37議席から15議席を増やして52議席、台湾民衆党も5議席から3議席増やして8議席、無党席は5議席から2議席となり、与党の民進党が単独過半数に至らなかったことで、内政的にはいささか苦しい政権運営を迫られることとなった。

 ただし、陳水扁政権のように基盤がない少数与党の「ねじれ」ではないことに注目したい。頼清徳政権は蔡英文政権時代の8年間の執政基盤の上に成立する。予算案や法案の審議で野党が抵抗することで政治が不安定化する可能性は排除できないものの、この基盤を抜きに安易に不安定だと予測することは避けたいものだ。

 頼清徳氏は、当選を決めた直後の記者会見場で行った演説で「蔡英文総統を始め、政権スタッフらが過去8年間、台湾の改革と建設のために素晴らしい基礎を築いてくれたことに感謝しなければなりません」と述べたことの意味をしっかり受け止めたい。

 また、今後の政権人事についても「適材適所の精神を堅持し、党派に関係なく実力に基づく人事を行います」と述べ、野党の中国国民党や台湾民衆党からも人材を登用する可能性に言及した。

 立法院では台湾民衆党がキャスティングボートを握ることになり、比例1位で当選してきた中国国民党の韓國瑜・元高雄市長が立法院長に就く可能性もあるが、頼氏はこの演説で「『協議と協力』を重視する政治」を打ち出した。頼政権が発足するまでにそれは人事として具体化されるはずだ。まずは行政院長の人事に注目したい。

—————————————————————————————–頼清徳氏の当選演説全文【産経新聞:2023年1月14日】https://www.sankei.com/article/20240114-3XRIYV3WB5IFZHD2V3NTJKG63U/

 台湾の総統選で勝利した頼清徳副総統が13日夜、台北市内の記者会見場で行った演説の全文は以下の通り。

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 内外のメディアの皆さん、お待たせしました。本日、中華民国第16代総統・副総統の選挙と、第11期立法委員の選挙が無事終了しました。

 台湾人民は民主主義の新たな1ページを刻みました。民主制度を大切にする私たちの姿を世界に示しました。すべての有権者に感謝を申し上げます。

 私はここで、2人の競争相手の民主的で紳士的な対応に感謝します。先ほど、それぞれからお祝いの電話をいただきました。

 私も彼らに対し、それぞれの所属する政党の立法院での議席獲得に祝意を表しました。これからは台湾のために連帯して政治活動をしていきたいと思います。

 2024年は世界の選挙イヤーであります。最初の選挙として、台湾は民主主義陣営における初勝利を達成しました。

 この勝利には3つの重要な意味があると考えます。

 まず、台湾は民主主義と権威主義の間で、民主主義の側に立つことを選択したことを世界に示したことです。中華民国台湾は、今後も国際社会の民主主義国家と肩を並べ、行動を共にしていきたいと思います。

 それから、台湾の人々は、自らの行動によって外部勢力の介入に抵抗し、成功したことです。これは、自分たちの手によって、総統を選ぶことの大切さを知っているからだと思います。

 第3の意味は、3組の候補者の中で頼清徳と蕭美琴が最も多くの支持を得たということです。このことは、台湾はこれからも正しい道を歩み続け、方向転換をせず、以前の状態に戻ることもないということを意味しています。

 私たちは、蔡英文総統を始め、政権スタッフらが過去8年間、台湾の改革と建設のために素晴らしい基礎を築いてくれたことに感謝しなければなりません。頼清徳と蕭美琴は、この基礎の上に、台湾が着実に前進し、生活者が良い生活を送れるよう、さらに努力していきます。

 しかし一方、私たちの民主進歩党は、立法院選挙で過半数の議席を維持できませんでした。努力が足りなかったことを認めざるを得ません。見直さなければならないところは多くあると思います。今回の選挙結果は、有権者が「能力のある政府」と「効率的なチェック・アンド・バランス」に期待していることを物語っていると思います。

 われわれはこの新しい民意を十分に理解し、尊重しなければなりません。

 新しい立法院の与野党の皆さんを前にして、私たちは「協議と協力」を重視する政治をしていきます。ここで表明したいことがいくつかあります。

 1つ目、私は2人の競争相手の政策や提案を徹底的に研究し、それが台湾と台湾の民衆のためになり、台湾の発展のニーズに沿ったものであれば、それを私の政策目標に取り込んでいきます。

 2つ目、私は今後の人事配置において適材適所の精神を堅持し、党派に関係なく実力に基づく人事を行います。また、台湾の発展のために、あらゆる分野からの人材推薦を歓迎します。

 3つ目、今後の政権運営においては、各政党や各グループの間でコンセンサスが得られている問題を優先的に扱います。コンセンサスや緊急性がない場合は、論争を脇に置き、コミュニケーションを続けていきます。

 4つ目、労働保険や医療保険の財務問題を解決しなければなりません。それを持続可能なものにするなど、緊急性のある問題については、政策発信の場を設け、議論の基盤と世論の参加を広げて、政党間の違いを乗り越え、社会の最大公約数を求めていきます。

 台湾海峡の平和と安定維持は、総統としての最も重要な使命であります。現在の憲法制度にのっとり、私は現状維持をしていきたいと思います。相互の尊厳を前提に、対立を対話に置き換え、自信を持って中国との交流と協力を開始します。

 台湾海峡両岸の人々の幸福を増進し、平和と共栄の目標を達成していきます。

 しかし一方、中国の言葉による恫喝(どうかつ)や軍事的脅威に直面したとき、私は台湾を守る決意も持っています。

 最後に、改めて、頼清徳と蕭美琴に投票してくださった台湾の有権者の皆さんに感謝を申し上げます。当選したことを私たちは誇りに思います。皆さんの信頼に応えるべく全力を尽くしていきます。

 選挙が終わった今、選挙中の激しい対立は過去のものとなりました。台湾の2300万人は1つの家族として、これからも連帯し、協力していきましょう。

 台湾を前進させていきましょう。

 皆さん、ありがとうございました。

(矢板明夫訳)

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