【黄文雄】中国のワクチン購入妨害でさらに深まる日台の絆

【黄文雄】中国のワクチン購入妨害でさらに深まる日台の絆 

黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」より

                   黄
文雄(文明史家)

◆インド株がアジアで急速に感染拡大

 アジア地地域でのコロナ感染拡大がとまりません。台湾は報道にある通り、5月27日の感染者数は、国内感染
者と輸入症例を合わせ405人。死者数は13人。また、26日までの統計に含まれていなかった追加分として、266
人の感染も発表され、これで台湾内の感染者は計6761人、死者は計59人とのことです。

 マレーシアでも感染が急拡大し、人口あたりの新規感染者がインドを超えたとの報道がありました。

 台湾同様、コロナ優等生と言われていたシンガポールも、新規感染者が急増しています。中には、ファイザー
またはモデルナのワクチン接種を受けていた人の感染、いわゆる「ブレイクスルー感染」が確認されました。

 タイとベトナムでも、新規感染者数は増加しています。タイでは、刑務所のクラスターで6800人以上もの感染
が確認されたこともありました。

 こうしたアジア地域での拡大のきっかけとなったのは、インド株といわれる新型のウイルスです。ワクチンを
2回接種していれば、インド株感染に対してもかなり効果があるという報道もありますが、欧米でもアジアでも
インド株が急速に猛威をふるっています。

 いくら消毒しても検温しても、感染拡大抑制への大きな効果は期待できません。やはり我々がやるべきことは、
やはりワクチン接種を急ぐことでしょう。

◆中国の「ワクチン外交」に反発するベトナムやブラジル

 中国は、ベトナム、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、フィリピンなどのASEAN諸国に優先的に無
条件で中国産ワクチンを流通させるとして、実際にそれら各国ではすでに中国製ワクチンが接種されています。

 しかし、中国の押売り的なワクチン外交に反発している国もあります。ベトナムです。ベトナムは自国でワク
チンを製造し、中国のワクチンは受け入れないという姿勢を貫いています。理由としては、中国製のワクチンに
は信用がおけないというのと、南シナ海での領有権問題や国境紛争など、中国とは犬猿の仲となっているからで
しょう。

 一方、フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国製ワクチン接種の様子をFacebookで公開しました。

 他方、以前のメルマガでも述べたように、中国が最大の貿易相手国であるブラジルでは5月5日、ボルソナロ大
統領が大統領府での演説で、新型コロナウイルスのパンデミックは、中国によって仕掛けられた「新たな戦争」
だと語りました。

◆台湾のワクチン輸入を妨害する中国

 今やワクチンは外交に最も有用なアイテムとなりました。それを最大限に利用しているのが中国です。コロナ
が急速に拡大している台湾に対して、「中国はいつでもワクチンを融通する準備がある」などと甘言を弄してい
ます。

 これに対して、台湾はもちろんノーを突き付けています。毎日コロナ情勢を報告するために記者会見を開いて
いる台湾の中央感染症指揮センターの陳時中指揮官は、中国製ワクチンなど「怖くて使えない」と言いました。

 陳時中指揮官は、コロナ禍のなか母親を亡くしましたが、葬儀などは後回しにして、不眠不休で責務を優先し
てきました。その仕事ぶりは、「鉄人大臣」と呼ばれるほどです。台湾でも、彼の仕事ぶりはみな評価しており、
尊敬されています。そんな「鉄人大臣」が、記者会見上で2度も涙を流しました。2回とも台湾でのコロナ拡大を
憂いて、台湾のために流した涙でした。

 そして、このような台湾のコロナ対策を妨害しているのが中国です。

 台湾とドイツのビオンテック社との購入交渉は、中国の介入で頓挫しました。その理由も、契約に関する報道
資料に「わが国」という表記があったことが問題になったというのです。

 すでに昨年末時点で台湾とビオンテック社の双方が契約内容を確認、報道資料も今年1月に確認済みだったそう
ですが、同社が突然、その報道資料に書かれてある「わが国」という表記を「台湾」に変更するように要求し、
さらに購入料やスケジュールの見直しを求めてきたといいます。

 これでワクチン接種の計画は狂いました。

 蔡英文総統は、中国がワクチン調達を妨害しているとはっきりと言いました。そんな台湾に対して、中国は
「中国からワクチンを調達すればいい。コロナのどさくさで独立しようなど破滅の道だ」と牽制しています。

 他者からの購入を妨害して自分のところから買えと恫喝するのは、まるでヤクザです。

◆アメリカは台湾へのワクチン提供を検討しつつ中国のコロナ起源を追及

 そんな中、アメリカのモデルナ社と契約したワクチンの第1陣が到着するというニュースです。台湾はアメリ
カとワクチン調達について交渉しており、ホワイトハウスも前向きに検討しているということです。

◎モデルナワクチン第1陣 28日に到着へ 15万回分/台湾
 https://japan.cna.com.tw/news/asoc/202105270008.aspx

 台湾は、世界でも有数の半導体供給地であることを挙げ、台湾での生産が滞れば世界的な混乱を引き起こす
という切り札を持って、アメリカと交渉にあたっているようです。

 またバイデン政権のアメリカは、コロナの起源についての追及を続けており、トランプ時代からの中国との対
立姿勢を貫いています。とくに人権問題については、リベラル色の強い民主党では、トランプの共和党時代以上
に、看過できない問題です。

 加えて、中国の責任追及、人権弾圧への制裁強化については、アメリカ議会が与野党を超えて一致しており、
この姿勢は弱まるどころか、ますます強まると思われます。

 ペロシ下院議長も、各国首脳に対して、北京オリンピックに出席しないよう呼びかけています。

◆日本も台湾へのワクチン提供を調整

 台湾へのワクチン支援については、日本も黙っていません。日本政府は、アストラゼネカ製ワクチンの一部を
台湾に提供する方向で調整しているというニュースです。

 日本はオリンピック開催地という錦の御旗があるため、ワクチン確保には困っていません。接種方法でモタつ
いているために接種率が上がらないだけで、ワクチンの量は足りているのです。

 中国の介入で台湾のワクチン確保が頓挫してしまったために、日本がワクチン外交を繰り広げるチャンスがで
きました。これは、まさに瓢箪から駒です。外交が得意ではない現在の日本政府に、中国は日台の絆を深めるチ
ャンスを作ってくれたわけです。

 しかも茂木外相は「台湾は東日本大震災の際、いち早く義援金を募り、様々な支援をしていただいた」と、か
つての恩返しの意味があることも表明しました。日台の近さを国際社会に表明する反面、人道問題で嫌がらせを
する中国との違いを暗に強調したことにもなります。

 まるで昔話に出てくる欲張り爺さんや、いじわる婆さんのようです。悪さをすれば因果応報、誰にも相手にさ
れなくなり、最後は不幸になるのです。

 台湾のワクチンの生産体制は7月ごろに整ってくるようです。日本もこれからワクチン接種が加速しますが、
隣国の嫌がらせに負けず、お互いに助け合って乗り切っていくことを願っています。

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朝日「社説」が中国はWHA台湾排除やめよと主張したのはよかったものの……

 今年の世界保険機関(WHO)の第74回年次総会(WHA)は5月
24日から6月1日までオンラインで開かれて
います。

 周知のように、5月5日に閉幕したG7外相会議は「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問
題の平和的解決を促す」と明記した共同声明を採択し、共同声明では、台湾が世界保健機関(WHO)の年次総会に
参加することへの支持も表明しました。

 米国はまた5月7日、アントニー・ブリンケン国務長官が「中国が例年通り異議を申し立てる前に要請する」と
して「台湾の排除は、感染の抑制に悪影響を及ぼす」という理由を述べて台湾を年次総会にオブザーバーとして
招待するよう求めました。

 日本もまた、菅義偉総理は5月21日の「グローバル・ヘルス・サミット」に寄せたビデオメッセージで「国際保
健課題への対応は地理的空白を生じさせるべきでない」と述べて従来の日本政府の立場を強調し、加藤勝信・官
房長官も24日の記者会見で改めて「従来から台湾のオブザーバー参加を一貫して支持してきている。引き続き関
係国と連携し、WHOに働きかけつつ、わが国の立場を明確に主張していく」と述べています。

 しかし、各国のこのような要望が続いたにもかかわらず、台湾は中国の反対により今年も年次総会に招待され
ませんでした。

 驚いたのは、あと2日で閉幕という本日(5月30日)になって、朝日新聞が「WHO総会 中国は台湾排除やめ
よ」という社説を掲載したことです。

 内容的には、これまで日本政府が主張したり、日華議員懇談会や地方自治体が可決してきた意見書とあまり違
わず、新味はないのですが、「これは台湾の人々の命に関わる問題である。中台の政治問題を持ちこむのは人道
上容認できない」と明確に言い切ったところにこの社説の特徴があります。中国を「人の踏むべき道」ではない
と非難しているからです。朝日新聞らしい観点かと思います。

 これはこれで「正論」であり、朝日新聞はよくぞ言ってくれたと拍手を送りたいところですが、このような内
容なら開幕前に出して欲しかったという思いが残ります。

 また、中国が反対しているのは、WHOもその年次総会も主権国家しか参加を認められていないことを理由と
しています。それゆえに「規則の中に主権国家の1地区がオブザーバーとして参加する根拠はない」(5月15日、
中国外交部)と述べ、台湾が主権国家ならオブザーバーで参加する資格はないと説明しました。つまり、台湾は
中国の一部であり、台湾は主権国家ではないから参加できないと逆説的に言ったのでした。

 朝日の社説は「『最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権』と誓うWHO憲章
にも反する」と述べています。WHO憲章に反すると指摘するなら、WHOの参加規則改正に言及すべきだった
のではないかと悔やまれます。

 憲章は憲法であり、規則は下位法にあたりますので、規則よりも憲章が優先されるのは当然です。朝日社説が、
台湾のオブザーバー参加に反対する中国を非難したことは評価するとして、もう一歩踏み込んで、WHOが抱え
る基本的な問題点を指摘して欲しかったというのはない物ねだりでしょうか。

 WHOが憲章を優先するよう改革がなされなければ、中国が反対し続ける限り、台湾は年次総会に参加できな
い状態が続くのです。やはり、閉幕間近に来て主張すべきは、WHOの改革ではなかったのかと悔やまれます。

 それを証するように、WHOのテドロス事務局長は5月11日の記者会見で台湾の総会参加について「判断する
権限はない」と述べて問題から逃げました。法務責任者のスティーブン・ソロモン氏も「総会に参加する国は
参加国のみが決定できる」と述べ、台湾が参加できないという憲章の規定に悖(もと)る現実があることを避
け、憲章に基づいた措置を取るような姿勢は微塵も見られませんでした。

 朝日社説は憲章に謳う「最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権」という文言
を引用しながら、それが実現できていない問題の解決をテドロス事務局長などWHOに求める内容にならなかっ
たことは残念です。

 ましてや中国は「09年から16年までの間、中国も人道的な措置として認めていた」と朝日社説が指摘するにも
かかわらず、いまや政治問題を持ちこんで反対しているのですから、この中国を「人道上容認できない」と批判
するのは的を射ていないように思います。朝日社説は「09年から16年まで」の台湾の参加を中国が認めた理由に
ついても疑問をなげかけてしかるべきだったのではないでしょうか。

◆世界保健機関(WHO)憲章とは
 https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

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WHO総会 中国は台湾排除やめよ
朝日新聞「社説」:2021年5月30日
https://www.asahi.com/articles/DA3S14921867.html

 感染症対策は国境を越えた地球規模の難題である。大国の思惑で特定の人々や地域を排する行為は許されない。

 新型コロナ対策などを話しあう世界保健機関(WHO)の年次総会が、オンライン形式で開かれている。ここ
に台湾は今年もオブザーバー参加できなかった。中国の反対によるもので、5年連続となる。

 感染症対策をめぐり空白地域をつくるのは、だれの利益にもならない。中国は台湾の排除をやめるべきだ。

 中国共産党政権は、台湾は中国の一部であり、中国を代表するのは自分たちだとして、台湾による国際機関へ
の参加を阻んできた。WHO加盟も中国の反対により認められていない。

 ただし、総会へのオブザーバー参加については、中台関係が良かった馬英九(マーインチウ)政権の09年から
16年までの間、中国も人道的な措置として認めていた。

 中国がその措置を一変させたのは、蔡英文(ツァイインウェン)政権が発足してからだ。中国の求める「一つ
の中国」の原則を受け入れていないとして、さまざまな圧力を強めている。

 しかし、これは台湾の人々の命に関わる問題である。中台の政治問題を持ちこむのは人道上容認できない。
「最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権」と誓うWHO憲章にも反する。

 台湾のコロナ対策は、当局の積極的な情報公開によって市民の自発的な行動を促し、効果をあげてきた。国際
社会がその経験を共有できないとすれば、大きな損失でもある。

 世界がパンデミックに陥って以降、中国は「マスク外交」や「ワクチン外交」と呼ばれる積極的な国際援助で
注目を集めてきた。

 マスクは2800億枚、ワクチンは80カ国以上に提供してきたという。先進国と一線を画した中国式援助を歓迎す
る発展途上国が多いのは事実だろう。

 ただ、それが一部で指摘されるように、台湾との距離をとるように踏み絵を迫るものならば、恥じるべきこと
だ。

 日本や米欧は台湾のWHO総会へのオブザーバー参加に支持を表明しており、G7外相会議の共同声明にも盛
り込んだ。中国はこうした声に真剣に耳を傾けるべきである。

 「我々は同じ海に漂う波である」。習近平(シーチンピン)国家主席は先日の世界健康サミットの演説で、古
代ローマの哲人ルキウス・アンナエウス・セネカの言葉を引用した。そのうえで、「コロナ対策の国際協力を揺
るぎなく進めよう」と呼びかけたが、その範を示すべきは、まず中国自身である。


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