中国のワクチン購入妨害でさらに深まる日台の絆  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年5月29日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆インド株がアジアで急速に感染拡大

 アジア地地域でのコロナ感染拡大がとまりません。台湾は報道にある通り、5月27日の感染者数は、国内感染者と輸入症例を合わせ405人。死者数は13人。また、26日までの統計に含まれていなかった追加分として、266人の感染も発表され、これで台湾内の感染者は計6761人、死者は計59人とのことです。

 マレーシアでも感染が急拡大し、人口あたりの新規感染者がインドを超えたとの報道がありました。

 台湾同様、コロナ優等生と言われていたシンガポールも、新規感染者が急増しています。中には、ファイザーまたはモデルナのワクチン接種を受けていた人の感染、いわゆる「ブレイクスルー感染」が確認されました。

 タイとベトナムでも、新規感染者数は増加しています。タイでは、刑務所のクラスターで6800人以上もの感染が確認されたこともありました。

 こうしたアジア地域での拡大のきっかけとなったのは、インド株といわれる新型のウイルスです。ワクチンを2回接種していれば、インド株感染に対してもかなり効果があるという報道もありますが、欧米でもアジアでもインド株が急速に猛威をふるっています。

 いくら消毒しても検温しても、感染拡大抑制への大きな効果は期待できません。やはり我々がやるべきことは、やはりワクチン接種を急ぐことでしょう。

◆中国の「ワクチン外交」に反発するベトナムやブラジル

 中国は、ベトナム、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、フィリピンなどのASEAN諸国に優先的に無条件で中国産ワクチンを流通させるとして、実際にそれら各国ではすでに中国製ワクチンが接種されています。

 しかし、中国の押売り的なワクチン外交に反発している国もあります。ベトナムです。ベトナムは自国でワクチンを製造し、中国のワクチンは受け入れないという姿勢を貫いています。理由としては、中国製のワクチンには信用がおけないというのと、南シナ海での領有権問題や国境紛争など、中国とは犬猿の仲となっているからでしょう。

 一方、フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国製ワクチン接種の様子をFacebookで公開しました。

 他方、以前のメルマガでも述べたように、中国が最大の貿易相手国であるブラジルでは5月5日、ボルソナロ大統領が大統領府での演説で、新型コロナウイルスのパンデミックは、中国によって仕掛けられた「新たな戦争」だと語りました。

◆台湾のワクチン輸入を妨害する中国

 今やワクチンは外交に最も有用なアイテムとなりました。それを最大限に利用しているのが中国です。コロナが急速に拡大している台湾に対して、「中国はいつでもワクチンを融通する準備がある」などと甘言を弄しています。

 これに対して、台湾はもちろんノーを突き付けています。毎日コロナ情勢を報告するために記者会見を開いている台湾の中央感染症指揮センターの陳時中指揮官は、中国製ワクチンなど「怖くて使えない」と言いました。

 陳時中指揮官は、コロナ禍のなか母親を亡くしましたが、葬儀などは後回しにして、不眠不休で責務を優先してきました。その仕事ぶりは、「鉄人大臣」と呼ばれるほどです。台湾でも、彼の仕事ぶりはみな評価しており、尊敬されています。そんな「鉄人大臣」が、記者会見上で2度も涙を流しました。2回とも台湾でのコロナ拡大を憂いて、台湾のために流した涙でした。

 そして、このような台湾のコロナ対策を妨害しているのが中国です。

 台湾とドイツのビオンテック社との購入交渉は、中国の介入で頓挫しました。その理由も、契約に関する報道資料に「わが国」という表記があったことが問題になったというのです。

 すでに昨年末時点で台湾とビオンテック社の双方が契約内容を確認、報道資料も今年1月に確認済みだったそうですが、同社が突然、その報道資料に書かれてある「わが国」という表記を「台湾」に変更するように要求し、さらに購入料やスケジュールの見直しを求めてきたといいます。

 これでワクチン接種の計画は狂いました。

 蔡英文総統は、中国がワクチン調達を妨害しているとはっきりと言いました。そんな台湾に対して、中国は「中国からワクチンを調達すればいい。コロナのどさくさで独立しようなど破滅の道だ」と牽制しています。

 他者からの購入を妨害して自分のところから買えと恫喝するのは、まるでヤクザです。

◆アメリカは台湾へのワクチン提供を検討しつつ中国のコロナ起源を追及

 そんな中、アメリカのモデルナ社と契約したワクチンの第1陣が到着するというニュースです。台湾はアメリカとワクチン調達について交渉しており、ホワイトハウスも前向きに検討しているということです。

◎モデルナワクチン第1陣 28日に到着へ 15万回分/台湾 https://japan.cna.com.tw/news/asoc/202105270008.aspx

 台湾は、世界でも有数の半導体供給地であることを挙げ、台湾での生産が滞れば世界的な混乱を引き起こすという切り札を持って、アメリカと交渉にあたっているようです。

 またバイデン政権のアメリカは、コロナの起源についての追及を続けており、トランプ時代からの中国との対立姿勢を貫いています。とくに人権問題については、リベラル色の強い民主党では、トランプの共和党時代以上に、看過できない問題です。

 加えて、中国の責任追及、人権弾圧への制裁強化については、アメリカ議会が与野党を超えて一致しており、この姿勢は弱まるどころか、ますます強まると思われます。

 ペロシ下院議長も、各国首脳に対して、北京オリンピックに出席しないよう呼びかけています。

◆日本も台湾へのワクチン提供を調整

 台湾へのワクチン支援については、日本も黙っていません。日本政府は、アストラゼネカ製ワクチンの一部を台湾に提供する方向で調整しているというニュースです。

 日本はオリンピック開催地という錦の御旗があるため、ワクチン確保には困っていません。接種方法でモタついているために接種率が上がらないだけで、ワクチンの量は足りているのです。

 中国の介入で台湾のワクチン確保が頓挫してしまったために、日本がワクチン外交を繰り広げるチャンスができました。これは、まさに瓢箪から駒です。外交が得意ではない現在の日本政府に、中国は日台の絆を深めるチャンスを作ってくれたわけです。

 しかも茂木外相は「台湾は東日本大震災の際、いち早く義援金を募り、様々な支援をしていただいた」と、かつての恩返しの意味があることも表明しました。日台の近さを国際社会に表明する反面、人道問題で嫌がらせをする中国との違いを暗に強調したことにもなります。

 まるで昔話に出てくる欲張り爺さんや、いじわる婆さんのようです。悪さをすれば因果応報、誰にも相手にされなくなり、最後は不幸になるのです。

 台湾のワクチンの生産体制は7月ごろに整ってくるようです。日本もこれからワクチン接種が加速しますが、隣国の嫌がらせに負けず、お互いに助け合って乗り切っていくことを願っています。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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