【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2020年12月9日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。
◆対日提言「アーミテージ・ナイ報告書」の内容
12月7日、アメリカのリチャード・アーミテージ元国務副長官やハーバード大学のジョセフ・ナイ教授ら、超党派の知日派有識者が、「アーミテージ・ナイ報告書」を公表しました。
「アーミテージ・ナイ報告書」はアメリカの戦略国際問題研究(CSIS)が中心に策定した対日提言で、これまで、2000年、2007年、2012年、2018年と4回公表され、今回が5回目となります。
過去の報告書では、日本に対して有事法制の整備、秘密保護法の制定、原発再稼働、武器輸出三原則の撤廃などを勧告していましたが、これらがいずれも実現されたことを考えれば、日本にとって非常に大きな影響力を持っている報告書といえるでしょう。
アーミテージはロナルド・レーガン政権で国防次官補代理、ジョージ・W・ブッシュ政権で国務副長官を務めており、共和党の重鎮です。しかし、前回の大統領選挙ではトランプではなく民主党のヒラリー・クリントンに投票しており、共和党の反トランプ陣営の1人でした。
そのため、トランプ政権ではアーミテージらの意見が通りにくくなったと言われています。今回、この時期に第5次「アーミテージ・ナイ報告書」が公表されたということは、言うまでもなく、バイデン政権の誕生を強く意識してのことであることは疑いの余地がありません。
その内容ですが、中国を牽制するために、日米同盟をさらに強化していくべきだと主張しています。
具体的には、アメリカとイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという英連邦系の国で構成されている機密情報共有の枠組みである「ファイブアイズ」に日本が加わるべきだと説き、バイデン大統領と菅首相の早期会談を実現させ、トランプ政権下で大幅な増額要求があった在日米軍の駐留経費負担の問題の決着を求めています。
また、日米による台湾との連携強化などを求めると同時に、日韓関係については過去ではなく未来に関心を向けるべきだと忠告しています。さらに、アメリカのTPPへの復帰も求めています。
これらの提言に対して、加藤勝信官房長官は記者会見で「政府としてしっかりと受け止めていきたい」と述べました。
バイデン政権がどこまで受け入れるかはわかりませんが、共和党重鎮からの提言だけに、与野党とも反中意識が強い議会では、一致点となりそうです。また、これまでと同様に日本がこの提言に沿って進めば、日本の安全保障も日台関係もますます強固になります。
◆緊急事態条項がない日本国憲法のツケ
台湾でもこの「アーミテージ・ナイ報告書」は、中国包囲網を拡大する提言だとして、大きな注目を集めています。アーミテージは昨年6月にも台湾を訪れ、蔡英文総統と会談しています。
ただし、日本が「ファイブアイズ」に入って「シックスアイズ」になるためには、スパイ防止法の制定が不可欠でしょう。他国と機密情報を共有しても、日本から漏れてしまう不安が大きいからです。
国内の左派はこぞって反対するはずですが、もはやそのような「平和ボケ」が許される時代ではありません。そもそも新型コロナ問題にしても、「戦時」を考えることを忌避してきた戦後日本のツケが回ってきた側面があります。
安倍政権や菅政権のコロナ対策について、左派からは「お願いではなく、命令にすべきだ」「中国や韓国、台湾を見習え」などという声まで上がる始末です。中国は独裁政権ですし、韓国はまだ徴兵制があり、台湾は2018年に徴兵制は終了したものの、4ヶ月の訓練が義務付けられており、「戦時」への対応が行われています。有事を想定した対応ができる素地があるわけです。
しかも、今回のパンデミックについては、中国もフランスも「戦争状態」だというような発言を行い、またアメリカも「国防生産法」という朝鮮戦争時の法律を持ち出して、自動車メーカーなどにマスクや人工呼吸器をつくらせました。
しかし日本には憲法に緊急事態条項もなく、長年、「戦時」を考えてはいけないとされてきました。そもそも憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という文言があるので、他国との戦争や紛争などないことになっているのです。
しかし、日本がそんな空文憲法を後生大事に抱えているあいだに、北朝鮮は核開発に成功し、中国は南シナ海や東シナ海を実効支配できるほどの軍事大国化してしまったのです。
◆自立を求められる日本
12月8日、中国の湖北省武漢で新型コロナウイルスの感染者が最初に確認されてから1年が経過しました。
中国側は初期の感染拡大を隠蔽し、それが後に世界的な流行につながったわけですが、驚くことに、感染者発生1年が経過しているのに、自らに向けられた責任論から逃れるべく、中国では現在もWHOによる現地調査は実現していません。
しかも、尖閣にはかつてないほど中国船が領海侵犯をくりかえしており、先日の王毅外相などは外交の場で公然と領有権を主張するほど中華思想丸出しの態度を貫いています。とても「平和を愛する諸国民」どころではありません。
日本は自国の安全保障には消極的で、アメリカが敷いてきた国際秩序のレールにタダ乗りばかりしてきました。日本は領土問題でも中国・ロシアに翻弄されるばかりで、竹島や尖閣どころか日本列島の安全保障すら危うい状態です。強い日本リーダーが出てこなければ、日本を変えることは難しいでしょう。
一方で、反論や反攻しなければ増長するのが中華の特質です。アメリカの対中姿勢が大きく変わる可能性があるだけに、日本はさまざまなオプションを持つべきであり、それは戦後からの脱却を意味します。
「アーミテージ・ナイ報告書」にも、「日米関係史上、日本が初めて同盟において対等な役割を担うようになった」と書いています。さらにアメリカと対等な役割を担うには、憲法改正も必須です。アメリカとしても、喫緊の課題として、日本の自立を求めているのです。
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