「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より転載
アメリカの最大の敵はロシアから中国に変わっている
トランプはなぜキッシンジャーを指南役としたかの謎が解けた
宮崎正弘
陳破空、山田智美訳『米中激突――戦争か取引か』(文春新書)
現在の世界を三大パワーによる角逐、すなわち米中露のパワーゲームを現代版「三国志」とみる著者は、「予測不能なトランプ」 vs「怯える習近平」vs「冷酷なプーチン」という鼎立 構造として描き出す。
このパワーゲームには日本もEUも入らない。ま、それはそれで冷厳な事実であろうし、攪乱要因は北朝鮮、ここに韓国と台湾が絡み、複雑怪奇な要因を陳破空氏はぬかりなく抑えている。陳氏はジョン・ボルトン(元国連大使)がトランプ政権で国務長官になると考えていたらしい。
しかし共和党タカ派からの高官指名はトランプ政権から敬遠され、キッシンジャーの推挽でティラーソンがなった。
対中強硬派と党内バランスをとるために、ナバロとポッテンガーを入れたが、ナバロはすでに敬遠され、ポッテンガーは安全保障担当補佐官アジア担当だが、まだ角を矯めている。
かれは中国語を操り、ウォールストリートジャーナルの特派員時代は、中国当局と戦った筋金入り。習近平が主催の「一帯一路」フォーラムには米国代表としてオブザーバー参加している。
トランプの帷幄にあって、キッシンジャーを尊敬するのはクシュナーなのだから、ボルトンも、ナバロもポッテンガーも、しばらくは鳴かず飛ばずとなるだとうと評者(宮崎)は予測している。
ところが陳破空氏はキッシンジャーを高く買っているようである。
本書の中で、オヤッと思ったのはトウ小平の孫娘と一緒になって安国生命保険の呉小暉が、事実上、トウ小兵の孫娘と別居状態にあり、神通力が効かなくなったために、習近平が拘束を命じたという、意外な情報だった。
なるほど、そういう分析もあるのかと思った。
じつは呉小暉こそはNYの名門「ウォルドルフ・アストリア・ホテル」の買収でアメリカで名をあげ、クシュナーに近づいてトランプのニュージャージーの豪華マンションをまとめて購入したと報じられているが、これも破談に近いというのが、直近の情報である。
真偽のほどは分からないが、クシュナーが、この事案をメディアにスキャンダラスに報じられため、苦境に陥ったことは事実だろう。
ところが、またも意外な事実が次に述べられている。
親中派のチャンピオンだったキッシンジャーが、最近は中国から離れ、ふたたび親ロシアに「変節」し、プーチンとは十回以上もあって、個人的な信頼関係を築きあげており、このため北京もキッシンジャーを疑問視しているという情報である。
もしそうだとすれば、謎が解けるのである。
親ロシア、アンチ中国のトランプがなぜ親中派のチャンピオンであるキッシンジャーを重視し、外交指南役としているか。
「中国共産党にとって唯一の代理人であったキッシンジャーは、じつはすでにロシアに鞍替えしていた。『連中抗ソ』から『連ロ抗中』へと転身していた」のも「アメリカの国益を冷静に計算している」からだとする。(118p)。
つまり「アメリカにとっての最大の敵が変わった」のである。だから台湾カードを駆使したことになると解釈するが、たしかにそれなら論理的整合性はある。
日本ではほとんど聞かれなかった情報満載の本だった。
米中激突
戦争か取引か
陳 破空(山田智美訳)
発売日:2017年07月20日
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166611379
作品紹介
予測不能な外交で各国を翻弄しながらも、国内の「ロシア疑惑」に揺れるトランプ。トランプのまさかの当選に動転し、「米ロ同盟」戦略に怯える習近平。君子でも紳士でもない二人の間には、「戦争」か「取引」しかない! 米中間で今後、何が起こるのか? 日本と東アジアはどうなるのか? ニューヨーク在住で、テレビ、ラジオでも活躍する中国人政治評論家が、米中の「衝突」と「妥協」の構図を明快に解説。
(目次)
日本の読者へ――トランプと習近平、いずれも君子に非ず
1 まさかのトランプ大当選――予測が外れた習近平
2 当選後に一変した中国人のトランプ評価
3 トランプに脅しをかける習近平――無人水中探査機奪取
4 効果てきめんの台湾カード――「一つの中国」とは?
5 「米ロ同盟」戦略に怯える習近平
6 ロシア疑惑とトランプ弾劾の可能性
7 買収作戦でトランプに取り入ろうとする習近平
8 トランプ政権で増す日本の存在感
9 大中国が小朝鮮に貢物――北朝鮮の核問題
10 米中激突と朝鮮半島の混乱
11 砲声の中の宴――米中首脳会談
12 中国は世界のリーダーになれない
あとがき――世界が懸念するトランプのトラブル