【書評】陳破空著、山田智美訳『日米中アジア開戦』(文春新書)

【書評】陳破空著、山田智美訳『日米中アジア開戦』(文春新書)

              宮崎正弘

日本のおかげで経済発展を遂げた中国だが
恩を仇で返す北京の軍国主義摘な暴走を誰が食い止めるのか

この本はすでに香港と台湾でベストセラーとなっている。アジア版の「いま、そこにある危機」といったところだが、いくつかユニークな視点がある。
そのうえ、著者の陳破空氏は来日予定で、6月4日の「天安門事件二十五周年 東京集会」(下段に詳細)にも駆けつける。
第一に本書は中国人の虚偽をあますところなく暴露している。凄まじい形容詞も瞠目に値するが、共産党独裁体制内部の、その腐りきった根性がここまでひどいとは日本人にはなかなか理解できないだろう。
訳文も明確であり、平明だが力強い語彙を選んでいるので著者の真摯なメッセージがよく伝わる。
第二に虚勢を張る軍隊の実態。人民解放軍って、あれは軍隊か、強盗集団か。
軍部高官の腐敗ぶりも目を覆うくらいで、戦争になったら真っ先に逃げ出すのが彼らだというのは評者(宮崎)も方々で主張してきたが、それを中国人が断言するのだから、間違いないだろう。
第三に日本が軍国主義などと言い張る中国だが、中国そのものが軍国主義であり、弱い者いじめのチャンピオンであり、そして世界から嫌われていることに気がつかない愚鈍な一面がある。
その実態を著者は戦争シミュレーションを試みる過程からも鋭角的に炙り出している。

「忘恩の徒」であるチャイナについて陳破空氏はこういう。
「胡錦涛自ら、『日本の経済援助なくして中国の現代化はあり得なかった』と語っている。だが、それによって力を増強させた中国は、日本を含む周辺国に脅威を与え、アメリカと文明世界に牙を?いてきたのである。恩を仇で返す情け知らずの行為によって、この国は経済的には変わったが、政治的には何一つ変わっていないことが証明された」
そして、次のような警告を忘れない。
「大国化する中国が共産党によって戦争という軌道に乗せられ、十三億の人民が戦車に乗せられ、赤い壁の内側では独裁者がいつでも戦争発動の発射ボタンを押そうと構えている」と。
ところが、ところが。
戦争を仕掛けられようとしている日本では『集団自衛権』などという戯言で賛否両論、平和ぼけが続いている。
「現時点での日中対決はまるで奇妙なボクシングの試合のようなものだ。一方(中国)は自由に跳びあがったり、前進したり後ずさりしたりすることが可能だが、もう一方(日本)は柱に縛り付けられ、ただ受動的に拳を繰り出すほかに術がない。まさにクラス違いの不公平なボクシングし合いである。ルールをいますぐ修正しなければならない」と。
日本の政治情勢や政局の奥を、著者はよく知っているな、と感心しつつ読み終えた。

著者の陳破空(チェンポーコン)氏は1963年四川省生まれ。民主化運動に没頭し、獄中にあること数年、ようやく米国へ亡命した。日本では『赤い中国消滅』(扶桑社新書)につづき、本書が第二作となる。


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