2020.5.13 産経新聞より
文化人類学者、静岡大学教授・楊海英
中国・武漢を発生源とするコロナ禍が過ぎ去った後の日本は、内外に向けていかなる戦略を立てるべきか。再考が迫られている
≪中国頼みのインバウンド≫
日本は国内の経済と教育を健全な状態に戻すためには、中国からのインバウンドに期待しない方がいい。調和の取れた日本文化が破壊されているからである。
優雅な銀座から美しい着物に身を包まれた紳士淑女が姿を消し、道に唾を吐く団体客が傍若無人に闊歩(かっぽ)していた。歴史ある日本橋のデパートを日本人が敬遠し、身に合わないブランドで全身を飾り、大声で喧嘩(けんか)しているような成り金客が店内に陣取っていた。幽玄な温泉宿や和風旅館、それに枯れ山水の庭園では暗黙のルールを明文化して配った紙を読もうともせず(読めない?)に独自の行動に終始している隣国人が多かった。
そもそも「観光」とは、異文化の「光」を見いだそうとする美徳の伴われる行動で、その「光の価値」が分かる教養を身につけていないといけない。残念ながら、中国人観光客には経済力があっても文化力は疑わしく、真の意味での「観光」は成り立っていない。「中国人が泊まっているか」とわざわざ電話して確認する日本人も多いと聞く。このままでは日本の伝統が崩れる危険性がある。
なかには失われた古き良き「中華のエッセンス」を日本の京都や奈良から発見しようとやってくる人もいるそうだ。中華の伝統文化を徹底的に壊してしまったのは、ほかでもない中国人自身で、特に中国共産党は抜きんでており、孔子の墓まで暴いてしまった。
日本から「中華文化」を再発見した人たちも独裁政権を決して批判しようとしないので、彼らを開明人士や「親日家」として持ち上げても意味がない。日本人が漢字を使っているからといって「中華圏の一員」だと妄想するのは、勘違いも甚だしい。
中央アジアの多くのテュルク系やペルシア系民族は古代からアラビア文字を使用してきたが、アラブ文化圏に加わったことを意味しないのと同じである。日本の伝統文化の奥深さが分かるくらい、観光客の素養が高くなるまで待ってもいいのではないか。
≪中国は「善で進歩的」か≫
「中国は善なる存在で、欧米と日本は悪」、という見方が日本の思想界や学界に蔓延(まんえん)してきた。一部では社会主義中国を礼賛することで日本が歩んできた近代化の道を否定し、「反省」しようとする進歩主義史観を持つ左派も多い。
日常的に勤務する大学という狭い業界の現象を事例として挙げるのは恥ずかしいが、日本の将来を担う人材の成長に負の影響を与えてきたので、あえて示しておきたい。例えば、大人数の講義や少人数のゼミにおいて、武漢から世界中に感染が拡大してしまった新型ウイルスを習近平政権は隠蔽(いんぺい)していた、という事実を述べると、中国を批判している、とみられる。
「中国を批判すれば、即(すなわ)ち右派」とさらに飛躍する。以前、静岡県のある大学でいわゆる「南京事件」や「軍隊における性のあり方」について多様な見解を語った教師がいたが、中国人留学生らから「反動教授」とのレッテルを貼られ抗議される騒ぎに発展した。
モンゴル人やウイグル人、それにチベット人学生が自民族の置かれている抑圧の状況について意見を述べると、「非客観的」と叱責する教師がいる。対照的に、漢民族の学生がいくら独裁政権を賛美しても、「客観的になれ」とのアドバイスをしようとしない。これは、多数派の漢民族を「正義」として擁護し、少数派を排除する差別行為である。
≪説教される筋合いはない≫
こうした教育関係者は1つや2つの大学にとどまらず、日本全国に分布しており、中国から来た少数民族出身の留学生のコミュニティーでは「中共風日本人教授」として有名である。というのも、留学生は既に日本に来る前に中国国内で共産党員の教授からさんざん洗脳されてきたので、彼らにとって、留学先でまた日本人から中共風に説教される筋合いはどこにもないからである。
朝廷において、皇帝の前で鹿を指して馬だ、と語って敵と味方を見分けようとした物語からバカという言葉が由来する。自国で発生したウイルスを米国軍人が持ち込んだ、とすり替えることのできる精神性が中国に生き続けている。その中国を基準に善悪の線引きをしようとするやり方は時代遅れだと言わざるを得ない。
自称「何千年もの歴史を有する文明国」の人民の陋習(ろうしゅう)はどこから来ているのか。なぜ、部分的に近代化した21世紀に入っても、コウモリのスープを愛飲し、犬とネコ、それにハクビシンを調理する習わしが消えないのか。世界中から敬遠されているかの国の人々はまず自問すべきで、日本に来て「中華の過去の残滓(ざんし)」を探し回っても「観光」にならない。健全な日本は相手を慎重に選んで別の発展の道を模索した方がいい。他人に左右される危ういインバウンドに頼る必要はないのである。(よう かいえい)
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