【産経正論】独裁国家の独裁者どう歓迎する

【産経正論】独裁国家の独裁者どう歓迎する 

2019.6.25産経新聞

  文化人類学者・静岡大学教授・楊海英

 世界最大の独裁国家の終身的指導者・習近平主席が20カ国・地域(G20)首脳会議に出席する為(ため)に大阪を訪れる。トランプ大統領の米国との政治・経済的対立が深刻化する中、安倍晋三首相との会談は特別の意味を持つ、と日中双方は位置づけているはずである。では、日本はどんな形で北京からの客人をもてなすべきであろうか。

 ≪「熱烈歓迎」の芝居の裏に≫

 周知のように中国は面子を何よりも大事にする国柄で「熱烈歓迎」を希望している。希望通りの雰囲気を醸し出す為には日中友好団体や左翼の「進歩的知識人」たち(もし死滅していなければ)を動員すればいい。社会主義諸国の少年共産主義先鋒(せんぽう)団員(中国では略して少先隊という)のように首に赤いスカーフを巻いて「習主席万歳」と叫んだら、スパイとして逮捕、判決を受けた日本人たちも釈放されるかもしれない。逮捕者の中には長年にわたり「日中友好」の為に尽力した団体職員も含まれているからである。

 実は日本が友好人士たちを動員しなくても、在日の留学生や華僑・華人団体が大挙して中国の国旗を振ってはせ参じるだろう。2008年に北京五輪の聖火リレーが長野で行われた際に、真っ赤な中国国旗と中国人団体が町全体を埋め尽くした記憶はまだ日本人の脳裏に残っている。

 中国から迫害されて国外に亡命したさまざまな団体も大阪に集まって抗議活動を繰り広げるだろう。祖国を追われたチベット人、百万人もの同胞が強制収容所に閉じ込められているウイグル人、草原が開墾されて遊牧できなくなったモンゴル人、それに天安門事件の関係者。これらの団体はそろって行動を起こして声を上げるに違いない。チベット人が国を失って60年、モンゴル人が文化大革命中に大量虐殺されて40年、天安門での民主化運動が勃発して30年、どれも人道に対する犯罪である。

 建国後にずっと強権的な手法を行使してきた中国政府であるが、こうした抗議活動を契機に、日本人の中国共産党の本質についての理解も深まるのではないか。1960年代の反安保闘争の際、暴れる学生たちの前に配備されたのは、家庭内で子供を抱える警官たちだった。自分の子を思う気持ちで学生たちに対処した大和の博愛精神をぜひ日本人から習氏に語って聞かせよう。平和を愛する少数民族と民主化を求める市民や学生たちを残忍な方法で虐殺してきた中国政府との違いを鮮明にして、彼らの覚醒を期待しよう。

 ≪安倍首相からの忠言を≫

 「他民族を抑圧する民族は自由になりえない」、とは共産主義者の原則である。

 中国人がいまだに自由を獲得できないでいるのは、彼らの政府が他の少数民族を抑圧し続けているからである。毛沢東の忠実な弟子を自任する習氏はきっと、マルクスやレーニンの教えくらいは知っているはずである。そして、もう一つ。毛沢東時代は「中国は永遠に覇権を求めない」との原則で平和外交を標榜(ひょうぼう)していた(実際は革命を輸出して諸国の内政を干渉していた)。現在のように、尖閣諸島周辺に毎日のように公船を侵入させ、南シナ海でサンゴ礁を占拠して人工島を造営し、軍事要塞化する行動はやめるよう、安倍首相から会談の際に伝えてほしい。

 習主席は勉強熱心といわれているから、きっと日本の近代化の原動力に関心を寄せるだろう。ならば、関西の寺院に案内し、寺子屋での教育が発達し、151年前の明治維新前に日本は既に識字率が高かった歴史を語って聞かせよう。主席は中学生の頃に文化大革命に巻き込まれ、農村に下放された。その為、今でも識字率の低い農村の教育状況を改善しようと主席は力を入れているので、きっと参考になるはずだ。それに、社会主義者は「宗教はアヘンだ」と断じているし、習政権も教会や寺院、それにモスクを徹底的に破壊している。寺子屋が教育の発展に果たした役割について理解すれば、宗教弾圧の政策を中止してくれるかもしれない。

 ≪2人の巨頭の間をどう計らう≫

 懸念はやはりトランプ大統領と習主席とのやり取りとなる。中国は昔から民主党よりも共和党との相性がいい。「私は右派と取引するのが好きなのだよ。右派は本音でモノをいうからな。そのあたりが左派とはちがうんだ。左派は口と腹がちがうんだな」(李志綏『毛沢東の私生活』)。これは、毛沢東の米国観であるが、習主席も「トランプ氏は友人だ」と公言している。世界で最もトランプ大統領の真意が読めると評価されている安倍首相だが、果たして2人の巨頭の間をどのように取り計らうのかが注目されている。

 細心の注意を払わなければならないことが一つある。ここのところ、中国政府は既にその御用学者を通して、「新天皇の訪中を期待する」とのシグナルを伝達している。上皇さまを天安門事件の後に訪中させた前例は失敗に終わっている。天皇陛下を「中国」という政治に悪用されないよう政治家は猛省すべきではなかろうか。(よう かいえい)


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