【東亜春秋】中台関係は“仕切り直し”

【東亜春秋】中台関係は“仕切り直し”

2010.1.28 産経新聞

               台北支局長・山本勲 

 馬英九政権発足以来の中台蜜月関係が転機を迎えつつある。中台統一をめざす中国が経済から政治へと交渉の格上げ、深化を求める一方、支持率低下にあえぐ馬政権は民意に押されて対中接近策をスローダウンさせ始めたからだ。中国では馬政権への懐疑心も芽生えている。交流拡大につれ、一党独裁の中国と民主台湾の政治体制の違いによる矛盾が浮き彫りになりつつある。今後の中台関係はかなりの曲折をたどりそうだ。

 昨春当地に赴任した筆者は中台の想像以上の接近ぶりに驚かされた。三通(中台直接の通商、通航、通信)解禁を機に、あまたの中国人観光客が台北の故宮や中部の日月潭などの名所旧跡にどっと繰り出した。

 地方政府や業界団体の買い付け団が続々訪台、昨年の買い付け額は約150億ドル。訪台中国人は97万人と前年比3倍増、トップの日本(100万人)にほぼ並んだ。

 中台の交流機関が4月に南京(中国江蘇省)、12月に台中(台湾中部)でトップ会談を行い、一昨年来、4回の会談で経済協力など12の合意書に調印。呉伯雄・中国国民党主席(当時)ら与党首脳が相次ぎ訪中した。

 昨年5月の世界保健機関(WHO)年次総会では、台湾の国連脱退以来初のオブザーバー参加が実現した。中国が参加受け入れに転じたからだ。振り返れば、このころが中台蜜月のピークだった。

 2008年5月に発足した馬英九政権と中国の胡錦濤政権は、「まず(易しい)経済協力から話し合いを始め、徐々に(難しい)政治交渉に取り組む」共通認識のもとに中台関係の改善を進めた。

 しかし勢いづいた中国が政治交渉を求め始めた夏場から摩擦が目立ちだした。詳細は不明だが、「一つの中国」の原則のもとで中台の「内戦終結」を宣言、平和協定を締結する交渉とみられる。

 中国には馬英九政権が切望する経済協力枠組み協定(ECFA)と平和協定の2つを締結することで政治、経済の両面から「一つの中国」を内外に宣言、中台統一の足場を固めようとの思惑がありそうだ。12年に指導部の世代交代を迎える胡錦濤国家主席としては、それまでに目標を達成して世代交代後も影響力を保ちたいところだ。

 ところが昨年8月の台風災害での救援不手際や、10月の米国産牛肉の抜き打ち的輸入解禁発表などで馬政権の支持率が急落。年末の統一地方選や今年1月の立法委員補選で独立派の民進党が連勝、与党が連敗する中で、馬政権の対中接近策がスローダウンし始める。

 馬英九総統は恒例の元旦演説で「中華民国は独立主権国家で、台湾の将来は(台湾住民)2300万人の手中にある。中華民国は民主国家であり、両岸(対中)政策は国会と世論の監督を受ける」と述べた。これは独立志向の強かった李登輝、陳水扁の両政権と基本的には同じ主張である。

 呉敦義行政院長(首相)は新年の会見で中国が求める政治交渉を「時期尚早」と退け、ECFA締結には「立法院(国会)の監督と民意の支持が前提」と強調した。

 馬政権の急速な対中接近には民進党など独立派の強い反対があっただけに、民意を反映した政策転換は民主政治の常道ではある。しかし収まらないのは中国で、馬総統を「隠れ独立派」「平和的分裂主義者」などと批判する声がネット論壇などで増えている。ECFAの早期締結にも当局の慎重姿勢が目立ち始めた。中台蜜月関係に陰りがみられる。


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