【東亜春秋】踊り場迎えた中台関係

【東亜春秋】踊り場迎えた中台関係

2010.12.31 産経新聞

台北支局長・山本勲 

 2008年5月の馬英九・中国国民党政権発足を機に急拡大してきた中台関係が踊り場を迎えている。21日に台北で開いた第6回交流団体トップ会談(中国「海峡両岸関係協会」、台湾「海峡交流基金会」)は投資保護協定に調印できず、中国が求める文化協定は台湾が議題にさえさせなかった。中台は「まず易しい問題から後の難問へ」と交流協議を進めてきたが、政治の絡む経済や文化問題で厚い壁に直面した。中台関係は少なくとも12年春の台湾総統選まで膠着(こうちゃく)状態に入る可能性がある。

 かねて本欄でも関係拡大にかける中台の思惑が大きく異なることに触れてきた。中国の目標は中台統一(台湾併呑(へいどん))で、そのために経済、文化、政治・安全保障へと交流・協力を拡大・深化させ、中台一体化を進めようと狙っている。
 対する馬英九政権は対中関係の改善を通じて経済を浮揚させ、あわせて国際社会進出をめざしている。将来の統一の可能性は排除しないが、自らの任期中(再選を前提にしても16年まで)は「統一せず、独立せず、戦争せず」の現状維持策を堅持すると公約している。

 第6回会談ではこうした思惑の違いが浮き彫りになった。お互いの経済や生活に役立つ医薬衛生協力協定は調印できたが、重要案件の投資保護協定は来年6月までに開く次回会談に持ち越した。

 「この協定は投資の定義や待遇、損害賠償など交渉範囲が広い」(鄭立中・海峡両岸関係協会=海協会=副会長)ためだ。中でも台湾企業の対中事業で頻発する投資紛争の処理法をめぐる対立は難問だ。

 台湾は中国で解決がつかない場合は国際的な紛争処理機関の利用を求め、中国はこれに難色を示しているという。「台湾問題は内政問題」とする中国は、中台の係争が国際化することを望まないからだ。

 昨年末の第4回会談では、二重課税防止の租税協定がまとまらなかった。お互いの課税主体をどう位置づけるかという政治問題が絡んだことが一因とされる。たとえ経済協定でも、中国は台湾の主権を認めたととられる待遇や用語を容認しない。

 一方、文化協定は台湾が取り合わなかった。陳雲林・海協会会長は「大陸(中国)の映画市場は今年100億元(約1300億円)で再来年は3倍になる」などと、協定締結が台湾映画産業にもたらすメリットを最大限アピールした。

 しかし台湾は中国が文化協定締結を機に台湾で中華文化、中華民族意識の高揚を図り、統一に向けて政治利用することを強く警戒した。

 逆にトップ会談に先立つ6日、行政院(政府)対中政策部門責任者の頼幸媛・大陸委員会主任委員が「台湾人民の7つの核心的利益」を提起。台湾が「両岸(中台)関係の将来のあり方を自由に選択できる権利を持つ」ことを強調した。

 馬英九総統が頼主任を通じて中国の政治統一攻勢を牽制(けんせい)した、との見方がもっぱらだ。

 台湾では馬英九政権の対中政策に賛否両論ある。特に6月の経済協力枠組み協定(中台版自由貿易協定)締結後は、中国の政治攻勢への警戒感が一段と強まっている。

 11月末の5大都市市長選で独立派の民主進歩党が国民党を得票数で上回ったのも、これと無縁ではない。それだけに次期総統選までは馬政権の対中政策がより慎重になるとの見方が強まっている。


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