【岡崎研究所】民主主義の発展が台湾の独立を守る

【岡崎研究所】民主主義の発展が台湾の独立を守る  

【WEDGE Infinity:2013年5月16日「世界潮流を読む 岡崎研究所論評集」】

 台湾と中国の政治的対話について、台湾人と中国人の間には、深刻な概念上の相違があ
り、民主主義の台湾では、馬英九といえども、台湾人の意向を覆すことはできないので、
国民党政権が北京との政治的対話に乗り出すことはできない、と4月10日付の台北タイムズ
社説が述べています。

 すなわち、何年にもわたる、和解、協定、高官の対話を受けて、馬英九と胡錦濤が始め
た努力が台湾海峡における摩擦への最終的な政治的解決に至るものと、中国人民が考えた
としても無理はない。

 中国側には、馬政権一期目の初期に、比較的容易な貿易問題に関する交渉がなされれ
ば、すぐに台湾の地位についての政治的対話に入り、何らかの平和協定への署名に至るか
もしれない、という希望があった。胡錦濤が総書記であるうちに、あるいは、国家主席で
あるうちに第一歩を踏み出すものと期待した楽天的な者もいる。

 胡錦濤は、何も手にすることがなかった。馬は、昨年、代わり映えのしない公約を掲げ
て再選され、中国が手にしたものは、まさに代わり映えがしないものである。交渉は続い
ているが、それは、経済、投資、貿易、観光、教育に焦点を当てたものであり続けている。

 習近平が、前任者の台湾問題での成果を上回りたいと望むのは当然である。中国で高ま
っているナショナリストの感情は、習が「再統一」や中国の面目回復といったものを無視
することを困難にするであろう。

 しかし、習は、問題に直面している。在台湾アメリカ協会のリチャード・ブッシュ
(Richard Bush)元理事長が述べたように、台湾人と中国人の間で、政治的対話につい
て、深刻な「概念上の相違」がある。「概念上の相違」というのは、台湾人意識の高まり
や法律上の独立への支持に言及せずとも、民主制、表現の自由、活発な市民社会、生活様
式を維持したいとする抑えがたい欲求を含んでいる。

 習にとって、さらに悪いことには、国民党は共産党と違って、選挙に勝ち抜かなければ
ならない。次の総統選を控えて、馬は、中国への関与のあり方を劇的に変えることはでき
ないであろう。馬は、憲法上、三期目を目指すことはできないが、馬の後継者は、馬が多
数の台湾人の希望に反した行動をとることによって、自分が2016年の選挙で不利になるこ
とのないよう、強い圧力をかけることは疑いない。仮に馬が台湾を売り渡そうと思って
も、国民党自身、そのような裏切り行為は政治的自殺であることをよく知っているので、
それには反乱を起こすであろう。

 こうした、「概念上の相違」のある専制体制の下、北京と政治的対話に及ぶことは、多
数の希望に最も反することである。戦車を街に繰り出して、台湾の民主制を覆しでもしな
い限りは、国民党は、台湾人の欲するところを乗り越えることはできず、最も安全な共通
認識を反映せざるを得ないであろう。すなわち、いわゆる現状維持である、と論じています。

                   * * *

 この社説は、全面的に賛成できる内容です。台北タイムズが、ここまで自信を以て、
堂々と社説を掲げるようになったことに、一安心の感を禁じ得ません。

 台湾が民主主義に自信を持つまでには時間がかかりました。2008年に選挙で国民党が勝
ったときは、何時中国が台湾併合に乗り出すかが関心の的でした。北京オリンピックが終
わるまでは国際世論を刺激することはしないだろう、それが済むと、上海万博が終わるま
では、などと言う観測が飛び交い、皆、戦々恐々として、中国の動向を注視していまし
た。しかし、何事も起こらないうちに、第一期国民党政権は終わりました。

 その間国民党政権は重要な教訓を学んだのです。中国との経済接近については反対はあ
りませんでしたが、公約だった政治協定を結ぼうとすると世論の反発が強く、次の諸選挙
に影響を与えることが明白となりました。また、反日的態度は、すぐに民衆の反発を買
い、次の選挙に不利に働くことも分かって来ました。つまり台湾人の真意が奈辺にあるか
が分かって来て、中国による武力行使のチャンスが訪れない状況においては、台湾の民主
制度の下では、台湾人の意向を尊重しない限り政権を維持できないことが分かって来たの
です。

 李登輝氏が、独立より民主に重点を置いたことについては、急進独立派からは批判があ
りました。しかし、今となっては、それが正攻法だったと言えるでしょう。そんなことを
しているうちに中国からの武力行使があれば間に合わないという惧れは常にありました
が、それが杞憂であったことは今や明らかです。中国は、やはり米国との間の力の差を認
識して、当面武力に訴える意図が無いであろう、ということも分かって来ました。

 将来についても、台湾が、自由民主主義を護ることが王道でしょう。

 自由を守るということは、台湾の国内政治において、中国からの金や政治的圧力によ
る、メディアの親中偏向を是正することにもつながります。すなわち、言論の自由の達成
は、台湾の自主独立の達成に寄与することになるでしょう。

 より、重大なことは、台湾の独立は、米国議会によって護られているという現実です。
米行政府が時として親中の方向に独走しても、米国には議会という歯止めがあります。台
湾関係法はその最たるものですが、1998年のクリントン大統領訪中の際の「三つのノー」
表明(「二つの中国」「一中一台」を支持しない、台湾の独立を支持しない、台湾の国際
機関への加盟を支持しない)に対しては、クリントンの帰国直後、議会がほとんど満場一
致で反対を表明しています。そして、米国議会は、台湾が自由民主主義国家であるからこ
そ、共産党一党独裁国家に制圧されることに断固反対しているのです。

 つまり、台湾の自由民主主義を達成するということは、台湾の独立を守るということな
のです。


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