◆この状況になっても「一つの中国」を振りかざして台湾を排除する中国
現在、感染者の拡大が続き世界中を混乱に陥れている中国の新型肺炎ですが、台湾で感染者が出たことを受けて蔡英文総統は1月22日、WHOに対して、「台湾人は健康リスクに直面している。WHOは政治的要因で台湾を排除すべきでない」と台湾の参加受け入れを訴えました。
これに対して、同日、中国外務省は会見で、「我々以上に台湾の人々の健康を心配する者はいない」と強調したうえで、「台湾の国際組織への参加は一つの中国の原則に基づき、協議されるべきだ」と台湾を牽制しました(「ANNニュース」2020年1月22日付)。
伝染病の拡散は世界的な問題であり、どこまで感染が拡大するかを監視し、感染者が発生した地域でどのような対策を取るかということについては、当該国のみならず国際的な取り組みが不可欠であることは言うまでもありません。
ところが中国は、これほど世界各地への感染拡大を招いているにもかかわらず、まだ上記のようなことを言っているわけです。
同日、WHOはジュネーブで各国の専門家を集めて緊急委員会を開きましたが、台湾は感染が確認された国で唯一招かれませんでした。
これに対し、アメリカ国務省官僚は「台湾はかつてWHOの一員であり、引き続き一員であり続けるべきだ」と述べ、また、フランス国民議会のエリック・ボトレル議員はツイッターで、「われわれはいつまで台湾からWHOの席を奪うのか。現状からみると、台湾が少なくともオブザーバーとしての身分を取り戻すことは切実な問題だ」(「フォーカス台湾」2020年1月23日付)と発言するなど、諸外国の議員や官僚から台湾のWHO参加の必要性を訴える声が相次いでいます。
中央感染症指揮センターの荘人祥報道官は、台湾の専門家がWHOの委員会に招かれなかったことは「遺憾」だとし、台湾に友好的な専門家を通じて最新情報の収集に努めていくと述べていますが、新型肺炎の感染者が出ているにもかかわらず、台湾が疫病情報を得るには、他国から間接的に聞くしかないのです。
WHOは194カ国・地域と2つの準加盟地域で構成されている国際機関ですが、中国は「一つの中国」を理由に、これまで台湾のWHO加盟を拒否し、また、年次総会(WHA)への参加についても反対してきました。
とくに、独立志向の強い台湾民進党の蔡英文が2015年の選挙で台湾総統に就任すると、中国は台湾を孤立させる圧力を強めるようになっており、そのため、2009年から8年連続でWHO総会にオブザーバー参加してきた台湾は、2017年から招かれなくなり、3年連続で総会への出席ができない状態が続いています。
これに対して、2019年5月に開催された総会では、日本やアメリカを含め、24カ国が台湾の総会参加を支持する発言を行っています。また、欧州議会も2019年12月と2020年1月に、台湾の国際機関への参与を支持する議決を採択しました。
しかし、それでも現状は変わっていません。
2003年のSARS流行の際も、感染が蔓延しはじめた初期段階ではWHOから完全に無視されていました。WHOに感染者の発生を報告して情報を求めても、「中国から聞いてくれ」と、あくまでも台湾を中国の一省として扱おうとしたのです。
当時、台湾は、2003年3月14日に第1号のSARS感染者を通報していました。にもかかわらず、3月17日に国連主催の記者会見に臨んだWHO伝染性疾病部門のハインマン主任は、SARSの感染地域に台湾を挙げることはありませんでした。
これに対して、質問に立った記者の中には「台湾人は人ではないというのか」「台湾の人々は免疫が出来ていて感染しないとでも言うのか」と問いつめる者もあったといいます。さらに、「政治的要素によって台湾の状況に触れることを避けているのか」との質問に対して、ハインマン主任は「その質問が答えになっている」と答え、実質的にこれを認めたのです。WHOが台湾の状況をホームページに載せたのは、ようやく、この翌日のことです。
◆中国が美辞麗句の裏に隠す思惑
これまでSARSなど中国発の疫病が台湾で発生した場合、中国政府はしばしば「台湾同胞に必要な援助を提供したい」「台湾の専門家に情報や経験を提供したい」「台湾の医療技術は中国政府が面倒を見る」と、あたかも寛容であるかのような言辞を弄してきました。
しかし、この意図は明確で、つまるところ「台湾に加盟の必要はない」と強調して、WHO加盟を妨害してきたにほかなりません。
「健康の追求は全人類が当然享受すべき権利であり……」と憲章に掲げ、おそらく各国の子どもたちが学校でそのように習っているに違いないWHOからして、今までも台湾の追放を積極的に進めているわけです。
2002年のWHO総会では、参加しに来た日本や欧米に在住する台湾人医師団を、会場をガードマンや中国関係者らが固めて入場を妨害するという暴挙すら行いました。東洋人を見ると中国語で話しかけ、それに反応があれば入場させない、反応せずに入場したとしても、アメリカのパスポートには出身地が記載されているため、パスポートをチェックして、台湾出身者をはじき出すということを行ったのです。
田代明裕(陳明裕)博士が率いる日本国籍で日本のパスポートを持つ台湾人グループさえ、会場中に配備した厳重な警戒態勢を駆使して、中国の役人が会場の外へ追放したのです。
もちろんWHOのこうした態度の裏には、台湾をあらゆる国際組織から追放することを公言している中国政府の力が働いています。中国は「あらゆる国際組織」、台湾が加盟するスポーツや文化に関する国際組織でも、台湾の名義を恣意的に改名させています。
2003年のSARS流行時は、台湾で感染が拡大し死者が2人出てから、ようやくWHOの専門家が台湾入りすることになりました(2003年5月2日)。台湾で最初の感染者が確認されてから1カ月半以上も経っていました。
これに対して中国は、「中国政府は台湾同胞を含む中国人民の健康と福祉に大きな関心を持っている」と表明しました。こうして台湾は中国の一部であり、WHOに許可を与える立場であることをアピールし、その一方で、台湾でのSARS感染の再燃・急増への国際的な批判を回避しようとしたわけです。
2020年の新型肺炎においても、これほど感染被害が拡大しているにもかかわらず、中国は台湾に対して嫌がらせと圧力を続けています。
しかし、前述したようにパンデミックは中国だけの問題ではありません。むしろ政治的理由で感染国を国際機関から除外する姿勢こそが、感染を拡大させている原因だと中国は自覚すべきです。
◆台湾の医療衛生は世界一のレベルで「世界最大の医師の供給センター」
WHO以外にも、今でも台湾と中国とのあいだで揉めているのは国連加盟をめぐるトラブルです。
1971年10月の国連総会において採択されたアルバニア決議によって、中華民国の代表権が中華人民共和国に取って代わられ、これにより中華民国は国連安保理常任理事国の座を失いました。
蒋介石は奮然と脱退を宣言、当時の岸信介は国連の一般加盟国として留まるように勧めましたが、蒋介石は意志を曲げませんでした。しかし、日本の識者もこのときの脱退を「国連追放」と書いていますが、事実はまったく違うのです。
現在でも毎年「台湾」という名義での国連加盟、WHO参加をめぐって中国との確執が続いていますが、中国が疫病の発生地であるということと同時に、台湾の医療衛生が世界一のレベルであるということは、世界の常識ともなっています。
日清戦争後、下関条約によって台湾を領有した日本は、各地の国民学校とともに師範学校と医学専門学校を設立しました。
戦後の台湾は「世界最大の医師の供給センター」であり、日本の無医村で活躍しただけではなく、東欧の国々、ことにポーランドの医学校やラテンアメリカにも台湾の医学生があふれています。
中国が主張する「台湾人の健康は中国政府が守る」が単なる世迷い言であることを、世界の人々にも知ってほしいと思います。